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女になった魔王さま  作者: 樹(いつき)
第十一話 魔王さまと猫
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少し乱暴じゃないですか


「ええ、では続きまして……」


彼が演目を続けようとしたその時だ。

会場の扉が勢いよく開く。


「兄貴、大変だ!」


船員が血相を変えて飛び込んで来た。


「プロムナードのやつらが来ている!」

「……なんだと?」

「だから、うわっ!」


突如、彼は後ろから蹴り飛ばされた。

その背後には顔が傷だらけの、恐ろしい風貌の男がいた。


「よお、ダナン。いい船だな」

「プロムナード……」

「貸した金、返せるようになったみたいじゃねえか」


彼の部下が続々と入ってきて、あっという間にダナンを捕まえた。


「ま、待て。まだショーの途中なんだ。話なら後で聞く。だから……」

「てめえ、前もそうやって逃げただろ」

「くっ……」


アークはわけのわからない状況に戸惑っていたが、ある程度把握できたところで、立ち上がってプロムナードへ言った。


「あの、少し乱暴じゃないですか?」

「なんだ、てめえ」

「客です。こんなに荒っぽくやる必要ないじゃないですか」


プロムナードは笑った。


「お前さん、知らねえんだろ。こいつはな、うちから大金を借りてんだよ。人生三回やり直したって返せない額だ。うちだって金が自然に降ってくるわけじゃねえ。取り立てしなきゃ食いっぱぐれる。だがこいつは返す意思も見せず、逃げ回ってんのさ」


アークがダナンを見ると、バツが悪そうに顔を伏せた。


「返さねえってんじゃ、無理にでも取り立てるしかねえだろ。お前さん、俺にビビらず意見を言う気概があるみたいだがよ。こいつを助けることはできやしねえよ」

「……僕が代わりに払います」

「駄目だ。クズを甘やかすな」


プロムナードが顎をしゃくって部下へ指示を出す。

ダナンは船外へ連れていかれそうになったところで、アークはさらに一歩踏み出した。


「待って、待ってください。少し、時間をください」

「時間はもう十分に与えた」

「僕がスポンサーになります。甘やかすなということであれば、ビジネスにさせていただきます。それならいいでしょう?」


プロムナードはため息をついた。


「さっきも言ったが、こいつの借りた金は大金だ。お前がママからもらってるお小遣いじゃ払えねえんだよ」

「でも、その人を連れて行っても回収できる見込みはないのでしょう? 少し待っていてください。連絡をとります。ダナンさん、この船に連絡機は?」

「あ、ある。そこのステージ裏のスタッフルームだ」


アークは連絡機でフェルガウへかけた。

こういうことに詳しいのはおそらくゴートだ。

彼女を呼び出すまで少し待った。


『おう、またなんかやったのか』

「ゴートさん、プロムナードさんって知ってますよね?」

『金貸しだな。なんだ、あいつと揉め事か?」

「いえ、揉めてはいないんですが……」


アークが事の経緯を話すと、ゴートは少し考えて言った。


『貧乏旅団のスポンサーなんか正気じゃねえぞ。まあでも、それならお前がやるよりおれの方に任せてくれ。借金はどうにかしてやる。プロムナードもおれの名前を出せばこの場は引くはずだ』

「わかりました。では、お任せします」


通話が終わるのを待っていたプロムナードは、椅子に座って葉巻を吸っていた。


「で、ママのお許しは出たか?」

「この件はゴートさんの預かりになりました」

「……ゴート?」


プロムナードの葉巻を吸う手が止まる。


「ゴートがこのクズの借金を引き受けるって?」

「正気じゃないとは言っていましたが……」

「そりゃそうだ。だが、やつがそう言うなら金は返ってくるな」


プロムナードはダナンを蹴って、部屋に転がした。


「てめえ、この小僧に感謝して二度とその面見せるんじゃねえぞ」

「は、はい。ありがとうございます」


ダナンは額を床に擦り付けるようにして頭を下げた。

プロムナードたちがぞろぞろと引き上げていこうとしたところで、アークは声をかけた。


「あの、たったそれだけでいいんですか?」

「あ?」

「だって、僕がゴートさんと知り合いである証拠はないんですよ?」

「お前、面白いことを言うやつだな。ふたつ、理由はある。ひとつは、あいつの名前を騙るなんてことは、あいつを少しでも知っていたらやらないことだ。報復が怖いからな。それともうひとつ。俺は金貸しだ。人を信用するのが仕事だ。まあ、お前が嘘をついていたら、その情けねえオヤジが魚のエサになるだけのことだが」


プロムナードが目線を向けると、ダナンは小さく悲鳴をあげた。


「俺も忙しい。利益にならないことに時間をかけている暇はない。質問は終わりか?」

「え、あっ、はい。すみません、引き止めてしまって」


彼の後姿を見送り、扉が閉められてから、アークは床に座ったままだったダナンを抱え起こした。


「……大丈夫でしたか、ダナンさん」

「すまない。助かった……」


涙を流しながら礼を言うダナンの上に、ゼオルが乗る。

変化させられたまま、放っておかれたことを講義しているのだろう。


「ニャー」

「ゼオルさん、乗っちゃダメですよ!」


アークが慌てて抱え上げて床におろす。


「……お客さま、大変申し上げにくいのですが、今日は戻せないかもしれません。というのも、この魔法はすごく繊細で神経を使います。現在の状態で行うのは難しいのです」

「ニャー!」


ゼオルが爪を立てて彼を威嚇する。


「ゼオルさん、仕方ありませんよ。明日までおとなしくしておきましょう」

「ニャー……」

「宿に戻りましょう。僕らはまだ時間もありますから」


アークはダナンへ宿の場所を伝えると、ゼオルを抱き上げて船を出た。

まだ日は高く、眠るには早いが、万が一を考えると、室内にいる方が安全だ。


「猫になって何か変化ありますか?」

「ニャー」

「そうですか。それにしても、柔らかいですね」


アークが喉を撫でるとごろごろとゼオルは音を鳴らす。

白い体は毛並みもよく、触り心地はまるでミンクだ。


宿へ着き、カウンターで事情を説明して部屋へ連れ込む許可をもらった。


「体洗いましょうか? せっかく良いって言ってもらえたので」

「ニャー、ニャー」


「え?恥ずかしい?」

「ニャー……」

「ダメですよ。砂埃ついてますから、洗わないと部屋が汚れます」


アークは力なく緩やかに抵抗するゼオルを連れて、湯場へ向かった。

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