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女になった魔王さま  作者: 樹(いつき)
第十一話 魔王さまと猫
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美味そうな匂いがする

「ロージアンが見え始めましたね」

「やけに急勾配な町だな」

「ここ、前は谷だったんですよ。海面上昇で水位が上がって、谷が底に沈んでいるんです」


白くまぶしく四角い建物が谷の形に沿って作られており、入り江の向こうからは大きな商船が入ってきている。

その周囲を海鳥が群れを成して飛んでいる。


そんな様子を見ながら、アークたちは馬車を停めてもらい、ロージアンの町へ降り立った。


「宿はどうする?」

「屋敷を出る前に連絡をして予約してありますよ。この時期は観光で訪れる人がいますからね。行きましょう」

「よく準備をしているな」


アークは照れ臭そうに笑いながら宿を目指して歩き始めた。

その隣を、ゼオルは並んで歩く。

こんなことですら、久しぶりに感じる。


建物の間を網の目のように張り巡らされた階段を進み、坂の上にある、景観の良い宿屋へとふたりはたどり着いた。

受け付けを済ませて部屋へ行く。


柔らかなふたつのベッドが並ぶ、広めのツインルームだ。

窓から一望できる、透き通るような青緑色の海はまさに絶景と言うほかない。


「たまには旅行もいいものだな」


ゼオルが海風に当たりながら、笑顔を浮かべた。

いつもは周囲を山に囲われて暮らしているからか、こういうだだっ広い景色は、筆舌に尽くしがたい開放感と爽快感がある。


「喜んでもらえて良かったです」


アークもとなりから外を覗く。

そのうちに、風に乗って香ばしい匂いが漂い始めた。


「港の方から美味そうな匂いがする」

「今日、というかここ十日間くらいはお祭りなんですよ。昔の有名な航海士の方の生誕祭があっているんです」

「航海士か。名前は?」

「ドメニコさんです。東から西へと海が繋がっていること、世界が丸いことを証明した方ですね」

「知らんな」


あはは、とアークは苦笑いをする。

ふたりは一休みしたあと、宿を出て港へと向かった。

建物が密集している場所を少し離れると、途端に炭焼きの匂いが辺りに漂い始めた。


「ア、アーク!あれを食べよう!」


ゼオルの視線の先にあるのは炭火で焼かれた串刺しのイカだ。

茶色のタレが塗ってあり、それがポタリと炭へ落ちると、じゅわっと香ばしい匂いの白煙が上がる。


「イカですか? 僕食べたことないんですけど……」

「美味いぞ。何より歯応えがいい」


イカ焼きをふたつ購入してアークへ渡す。


「そういえば、イカってラメールさんと同じ種族になるんですかね」

「まあ、そうなるな。しかし形だけだろう。猿と人くらいには差がある」


海の見えるベンチへ座り、ゼオルはイカにかぶりつく。

肉厚な感触に、噛んだところからうま味のある汁が溢れる。

その味に引き込まれるように、一気に食べ終えてしまった。

となりでは、アークが初めて食べる硬い肉に苦戦しながら少しずつ食べ進めている。


ゼオルは残った串を蒼炎で燃やしながら、港へ入ってくる商船を眺めた。

屈強な男たちが積み荷をおろしている周囲には、たくさんの猫がいる。

どうやら、あの積み荷は魚のようだ。

溢れた小さな魚を、男が猫のところへ放ると、体の大きな猫が飛びつき咥えて走り去って行く。

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