一緒に出かけませんか
「ゼオルさん、一緒に出かけませんか?」
突然の誘いに、ゼオルは目をパチパチとさせた。
改まって言うことでもあるまいとは思うが、せっかくの誘いなので新しい服を出してみた。
もう初夏の時期であることを思うと、そろそろ薄着でも差し支えないだろう。
暑さや寒さは感じないが、こういうものは目で見て楽しむものだ。
鏡を見て何度も吟味して、似合う服装を考える。
悩みながらも鼻歌が出ていたのは、知らず知らずのうちに気分が高まっていたのだ。
「準備できましたか?」
部屋の外からアークの声が聞こえる。
「もう少し待ってくれ」
「僕、外で待っていますね」
待たせるのも悪いとは思うが、適当な格好で出て行くのも悪い気がする。
結局、悩み抜いて選んだ服装は普段とあまり変わらないものになった。
もう少し新しい服にも挑戦すべきだったのだが、アークと一緒にいて恥ずかしいような格好になってはいけないと思い、保守に走ってしまった。
「すまん。待たせた」
「あっ、新しい服ですね!」
「ふふっ、わかるか?」
ゼオルは気がついてもらえたことに嬉しくなって頰が緩む。
屋敷の前に止まっていた馬車にアークと共に乗り込むと、ゆっくりと進みだした。
「そういえば、港町ロージアンへ行くと言ったが、何をしに行くんだ?」
行き先は聞いていたものの、目的は聞いていなかった。
「遊びに行くだけですよ」
「遊びに?」
「ええ。最近、忙しかったじゃないですか。それに、屋敷にも人が増えて、ゼオルさんとふたりで出かけることもなくなったので」
「我に気を使ってか?」
「いえ、僕がふたりで出かけたかったんですよ」
馬車は休まずに進み、翌日の朝、山をひとつ越えると潮の香りが漂い始めた。




