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女になった魔王さま  作者: 上辻樹
第九話 魔王さまたちと七つの大罪 前編
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無駄ですよ

ブレインがグーラを引きつけたことで、住民の島外への避難が始まった。


「しかし、あの状態から回復できるとはな」

「あんなの治るわけないじゃないですか。入れ替えたんです。ver.2.0ですよ」

「……よくわからんが、以前よりも力を感じるぞ」


グーラが剣を構える。

もうすでに、異常に速い剣筋のタネは分かっている。

ブレインがグーラの周囲を回って、太陽が背にくるように動き、グーラに影を被せた。


「……気がついたのか」

「信じ難いことですけど、あなたの剣、反射する光に乗せられるのですね。目、見えないのに……」


グーラの剣が走るも、ブレインは難なくプラヴァシの腕で受け止める。


「無駄ですよ」

「甘いわ!」


グーラの姿が消え、背後に気配を感じる。

相手がブレインでなければ、彼の剣の速さであれば、簡単に体を断てていただろう。


だが、今のブレインに死角はない。

視線を向けずに剣を掴み、空いた方の手で彼の胴を殴りつける。


「貴様、見えているのか……」

「ボクには未来が見えています。あなたは負ける」

「やかましいぞ!」


グーラは次々に剣の技を放つも、ブレインは片手でそれをいなし、グーラの胴を打つ。


「くっ……!」

「言ったでしょう。あなたはもう、ボクには勝てません」


しかし、未来が見えているからといって、それだけではまだ足りない。

ブレインの強みは、その予知を活かすことのできる反応の速さだ。

グーラの剣の速さを、ブレインの反応速度が大幅に上回っている。

グーラは敵わないことを悟ったのか、後ろへ跳ねてブレインと距離をとった。


「おや、もう終わりですか?」

「舐めるなよ、小娘!」


グーラが何かを飛ばし、一瞬だけブレインの視線はそちらに奪われる。


「針……?」


二本の針がブレインの左右へ放たれていた。

意図が読めずに、ブレインはすぐに予知の体勢に入る。


しかし未来予知と言えども、万能ではない。

予知と言うのは、数多ある未来の中からそのひとつを選択することである。

そこで見たことは必ず起こるから、予知は成り立つ。

だから攻撃の過程までは見られても、結果を見ることはできない。

もし当たる予知を見てしまうと、必ず当たってしまうからだ。


ブレインの予知では、針の刺さった地面に、一瞬で移動してくるグーラが見えた。

プラヴァシの腕を、その予知のあった場所に狙いを定めて振るう。

完全に捉えたはずだった。


しかし、現れたグーラの姿が消え、反対の針へと移動する。

理屈はわからないが、仕組みを考えればこれも予想できることだ。


「見えてるって!」


ブレインは腕を反転させ、グーラを狙った。

だが、ここでもブレインの弱点がもうひとつ浮き彫りになった。

弾こうとしたグーラの剣が、拳に当たる直前に引かれた。


ブレインが最も戦いやすいのは、ゼオルのように力任せの攻撃をしてくる相手だ。

ブレインのいた世界に、グーラのような武具の扱いに秀でた人物はいなかった。

つまり、ブレインの技量では、武芸者の戦闘技術に対応できない。


「シェアアアア!」


グーラが雄叫びとともに、拳を空振りしたブレインへ突撃する。

鋭い剣が、胸元へ伸び、突き刺さる。


「獲ったぞ!」

「…………」


ブレインは口から血を流しながらも、グーラの剣を掴んだ。


「足掻くか、小娘。もう勝負は決したというのに」

「く、くくく」

「……なんだ?」

「あはははは! 仕込みが活きる瞬間って、快感ですねぇ!」


ブレインは胸元に突き刺さった剣を叩き折った。

グーラはわけがわからない、という表情をして一歩後ずさる。


「アダマンタイトとオリハルコンの超合金骨格プレート!」


目の見えない彼に、この渾身のドヤ顔が伝わらないのは悔しい。

しかし、声色だけでもブレインの思惑通りになってしまったことはわかるようで、その顔には憤怒の色が浮かんでいた。


「小娘ええええ!!」

「ボクを小娘と侮らない、と言っていたのに。やれやれ、感情とはままならないものですねえ」


武器のなくなった盲目の老人など、敵ではない。

ブレインは左腕のアッパーカットで彼を打ち上げる。


「次に目を覚ました時に、五体が無事であることを祈っていてくださいね」


右の拳で、彼を地面へと打ちつける。

石畳の道路に大きな穴をあけて、グーラは完全に動かなくなった。






ブレインたちが戦っている間に、アークは住民たちの避難を成功させていた。


「アーク坊ちゃん。全員、岸へと渡り終えました」


カルディナの周囲にある湖にかかる橋が崩されていなかったのは、幸運だった。

水の壁も橋を壊すまでは至らなかったのだろう。


「ありがとうございます。ブラドさん、さっき逃げた敵の居場所はまだ分かりますか?」

「さっき私が打ち込んだのは死の楔です。まだ生きているようですが、虫の息ですね」

「そんな、殺しては……」


アークの脳裏に、血塗れの部屋が浮かぶ。

あれだけのことをしても、命を保証しなければならないのだろうか。

アークが言葉を続けられず迷っていると、ブラドがその両頬を優しく冷たい手の平で覆った。


「アーク坊ちゃん。坊ちゃんは今、岐路にいるのです。人を守り、助けること。そのためには正義を信じて悪を裁くことが一番の近道なのです。悪人を滅ぼせば、悪人に悲しまされる人もいなくなります。ですが、坊ちゃんは悪人も助けたいのでしょう? それは、最も険しく難しい道です。全員が言葉によって更正するものではありませんし、逆恨みにあうこともあります。それでもやると言うのなら、坊ちゃんは覚悟をしなければなりません」

「覚悟……?」

「頑固に、自分の信念を曲げない覚悟です」


アークは、拳を強く握った。

何を迷っていたのだろう。

ブラドは初めから、アークがやりたいことを後押ししてくれていた。

自分で決めたことは最後までやり遂げろ、と彼女は言っているのだ。


死んでもいい人間なんていない。

アークはずっとそう信じてきた。

そしてそれは、これからもそうだ。


「坊ちゃん、敵の場所を教えます。楔を抜いたところでどうせもう、ろくな反撃はできませんから、私たちはついていきません。坊ちゃんが、自分で考えて、自分で判断してください」

「ありがとうございます。ブラドさん」


アークは一礼して、路地へ向かって走り出した。


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