表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女になった魔王さま  作者: 樹(いつき)
第九話 魔王さまたちと七つの大罪 前編
43/103

本当の目的を話せ

幌馬車に揺られ、アークたちは水上都市カルディナのほど近くを進んでいた。


荷台の中にはカーレッジもいて、ゴートとふたりでずっとカードをやっている。

どうやら運が絡むとゴートの方に分があるらしく、五回のうち四回はゴートが勝っていた。


「うはははは、またおれの勝ちだ」

「クソだな、クソ。もうやらねえ」


カーレッジはカードを放り出した。


だんだん、周囲に滝の音が響き始める。

木々の合間を抜けて、だだっ広い草原に出ると、馬車の行く先に大きな湖と、そこの中心に作られた都市カルディナが見え始めた。

岸辺と橋で繋がれた人工島には、建造物がまるで山のように段々と連なって、中心ほど高くなっている。


「相変わらず派手な都市だ」


ゼオルが窓から顔を出して言う。


「地下にある大宝玉のおかげで、絶対崩れることはないらしいですよ」


アークが言うと、ゼオルは、ふーん、と興味なさそうに返事をする。


「おおおお! 水の都ですかっ!」


ラメールは興奮しているようで、目を輝かせている。

身を乗り出しすぎて馬車から落ちかけたところをブラドが無言で掴み、中へ引っ張り戻した。


アークも、ここへは何度か来たことがある。

カルディナは大陸の中でも代表的な都市で、情報の集まるところだ。

ここにある大図書館などは、その蔵書数もさることながら、閲覧制限のある貴重な古物なども置いてある。

アークはそういったものを一日中でも眺めていられた。


馬車は大橋を渡ったが、都市の中へは入らず、入り口の大門で止まった。

ここは構造が特殊で、螺旋状に道路が続いている。

荷馬車で入ると方向転換も難しく、大きな荷物でもない限りは入り口で降りるのが普通だった。


アークたちが馬車から降りると、門番が敬礼をする。

カーレッジの組織は、いわゆる何でも屋であり、そういうところで繋がりがあるのだろう。

今回も、この町の衛兵と協力して例の魔法『家貧孝子ロストチャイルド』の出所を突き止めたらしい。


「サナさま。ようこそおいでくださいました」


カーレッジの今の体の名前で、彼はそう言った。


「あー、いい、そういうのは。楽にしてくれ」


カーレッジが面倒くさそうにそう言う。


「話通ってんだろ?必要なことは先に済ませちまおう」

「かしこまりました。では、こちらへどうぞ」


兵士に連れられ、一行は門の隣にある扉から中へぞろぞろと入っていく。

下に続く階段を進むと、だだっ広い地下通路に出た。

左右には松明が灯っており、床には赤い絨毯が敷かれている。

通路は奥まで続いているが、手前ほど明るくはない。

どうやら町の地下と繋がっているらしく、水のせせらぎが微かに聞こえていた。


衛兵の案内で通された部屋は、大きな机のある作戦会議室だった。

壁にはこの町と周辺の大きな地図が飾られている。


「こちらのお部屋で少々お待ちください。ただいま、ドレイク首長をお連れいたします」


衛兵が出て行くと、ゼオルが口を開いた。


「カーレッジよ。もったいぶってここまで話をしなかったが、我々全員を呼ぶほどのことがあるのか」


カーレッジは頷く。


「ある。正直、オレさまひとりじゃ、ちときつい」

「お前が?」


その言葉には、全員が同意したことだろう。

いざとなれば人海戦術もとれる、彼の手に余るほどの人間がそうそういるとは思えない。


「首長が来てから詳しい話をしようと思っていたが、先に軽くしておくか。前提の知識もあるしな」


カーレッジは一枚の羊皮紙を懐から取り出して、机に広げた。


「ここに書いてあるのは『七つの大罪』って連中の名前だ」

「罪人なんですか?」


アークの質問にカーレッジは難しい顔をする。


「それぞれが強欲、傲慢、嫉妬、暴食、怠惰、色欲、憤怒を担当する、自称罪人だ。この中で素性のわかっているやつはひとりだけだが、全員がそいつと同列だと考えると、厄介なやつらである可能性が高い」


それを聞いてゼオルが鼻で笑う。


「たいそうな呼び名だが、それに見合う人間なのか?」

「強えぞ、こいつらは」


カーレッジがにやりと笑う。

ゼオルの興味のとっかかりになることをよく理解しているのだろう。


「話を続けるぞ。この大罪の中のどいつかが、この町からあの魔法を放った」


記憶に新しい、人から人へ移る赤ん坊の呪い。

あんなものを使える者を野放しにはしておけない。


「目星は?」


ゼオルの問いにカーレッジは首を振る。


「さっきも言った通り、この中で素性のわかってるのはひとり、暴食のグーラだけだ。こいつは生粋の剣士で、魔法使いじゃない。だからそれ以外で魔法の得意なやつがいる」

「だったらその暴食とやらを捕まえて聞き出せば良い」

「それができたら苦労してねえんだよ。こいつがやべえやつでな、今まで殺されたやつは千をくだらない。剣の達人らしく、何人がかりでも簡単に逃げちまう」

「剣を奪えばよかろう」

「奪う段までいってねえの」


カーレッジがうんざりしたように言う。

すると、会議室の扉がノックされ、厳しい白髪の男性が入ってきた。


「みなさん、はじめまして。私が首長のドレイクです」

「ドレイク首長、硬い挨拶は抜きだ。実際、すぐ対処しねえとやべえんだろ」


そう言われて、ドレイク首長は苦々しい顔をした。


「カーレッジ殿の言う通り、現在このカルディナは危機に直面しています。七つの大罪がここにいるのは間違いなく、我々はまだその足取りも追えていません。そこであなた方に依頼したい。大きな事件になる前に、大罪を捕まえてほしいのです」


首長の言いたいことはわかる。

しかし、なぜ、とゼオルが聞く。


「我らがやらねばならない理由がわからない」

「ゼオルさ――――」


割って入ろうとしたアークを、ゼオルが制した。


「この都市にも衛兵もいるし、必要なら国を頼ればいい。我らが個人的に危険を感じたやつがたまたまその七つの大罪とかいう輩であったというだけだ。それを少し曲解していないか?」

「助ける理由がない、と仰るのはよくわかります。危険ですし、良心につけこもうとしているのではありません」

「本当の目的を話せ」


ゼオルの目つきが鋭くなる。

どうやら彼女はドレイク首長のことを、どこか疑っているようであった。


「……七つの大罪を捕まえると、国から恩賞が出ることになっています」

「ほーら、見たことか。金か?褒賞か?」

「今、この都市は大変な資金不足に見舞われております。ご理解くだされ……!」


ドレイク首長は床に両膝をついて、ゼオルへ懇願した。


「だからと言って、我々に押しつけてよいというものでもあるまい」


ゼオルは冷ややかに言う。

アークはその様子を黙って見ていられず、つい口を出した。


「ゼオルさん、やりましょうよ。カルディナがなくなると困るのは僕も同じですから」

「ああ、なんとありがたいお言葉……」


ドレイク首長はアークに頭を下げた。

ゼオルは軽くため息をつく。


「そんな甘やかし、こいつらはすぐに忘れるぞ。結局は、自分の立場を守ること以外に興味のない連中だからな」

「だって、みんな困っていますよ」

「そういう動機を思い起こさせることを、良心につけこむと言うんだ、アーク。覚えておけ。お前にはこの首長が、情けない姿を晒して、恥も外聞も捨てて頼み込んでいるように見えるのか?  我にはとてもそう見えない」


ゼオルは首長を見下すように正面に立った。


「聞け。これで味をしめて二度目、三度目と続けるようなことをしたら、我がこの都市を湖の中に沈めてやる」


ドレイク首長の肩が震える。

ゼオルは本気の目をしていた。


「それに、まだお前の口から、我々に何をどうしてほしいのか。そしてその対価のことを何も聞いていない。まさか危険なことを全て任せて自分たちは避難しておくなんて寝言、その口から出すつもりじゃないだろうな」

「め、滅相もございません。私は事件が解決するまでここでじっとしております……。それに、大罪を捕まえていただければ、国からいただける報酬の三割をお支払い致します」

「四割なら聞いてやる」

「う、わかりました……」


ドレイク首長はすっかり意気消沈していたが、アークが慰めてなんとか話せるくらいには回復した。

今回の報酬は全額募金してあげたいところだが、アークの一存で決めるわけにもいかない。


「さて、七つの大罪の目的がわかれば裏をかきやすいが……」


ゼオルが聞くとカーレッジが言った。


「素性もわからない、目的もわからない。だが、何か企んでいることはわかる」

「どういうことだ?」

「ここ最近の行方不明者を調べたところ、年代、性別ごとに満遍なくいなくなっている。普通は偏りがあるはずだ」

「何かの目的でさらわれている、ということですか」


アークが聞くと、カーレッジは町の地図を指さした。


「この都市は中に迷路みたいに入り組んでる水路がある。隠れるにはもってこいだ」


広げられた地図では、カルディナの内部が地下までアリの巣のようになっている様子がわかる。

これ全てを調べるのは、かなりの人数が必要だ。

この都市の衛兵では確実に足りないだろう。


「どうやって炙り出す?」

「敵が目的を果たす瞬間を狙うのが、ベストだろうな。オレさまが魔族と戦った時はほとんどそうやって倒した」

「待つのは苦手だ。水路を塞いでしまえないのか」

「無理だな。この地図に載っているだけが全てじゃない。湖の中にも出られる場所はある」

「だったら、火をつけてやろう。空気がなくなれば出てくるはずだ」

「オレさまもそれは考えたが、水路の老朽化もあるし、場所によっては木材を使っているところもある。都市が倒壊しちまうかもしれない。悪人の墓標にするには、この都市はもったいないだろ」

「そうか?」


ふたりがそんな物騒な話を交わしていると、ゴートが発言した。


「……つーかよ、そんな手の込んでることやるやつらなら、協力者がたくさんいるんじゃねえの?そいつら追えばいいだろ。食料品や衣類を定期的に購入してるやつ、とか」

「やはり犯罪者はこういう時頼りになるな」

「おい犯罪者、その役割はお前に任せたぞ」


ゼオルとカーレッジはそう言って、ゴートの肩を叩いた。


「は?」


ゴートはしばらく、ポカンと口を開けていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ