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女になった魔王さま  作者: 樹(いつき)
第八話 魔王さまたちと無人島
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根絶やしにしてやる

ザザー、と波の打ち寄せる音が聞こえる。

まぶしい日射しに、アークは目を細めた。


どこまでも続く青い海と、白い砂浜、緑の森。

浜は湾曲しており、弧を描くように丸くなっている。


「……島?」


そう呟くと少し離れたところでゼオルがブレインの両頬をつねっていた。


「貴様はどうしてわけのわからんものを!」

「ごめんなさい〜!」


どうやらブレインの持っていたワープ装置が暴発したようであった。

三人から少し離れたところから、ゴートがブラドに肩を貸して歩いてきた。


「おい、何が起きたんだ?」

「こいつのくだらん発明品のせいで我らは飛ばされたようだ」


ゼオルがブレインを睨む。


「ブラドさん、どうしたんですか?」

「ああ、こいつ日射しに弱いんだってよ」


すぐに木陰にブラドを座らせた。

ぜえぜえ、と荒い呼吸をしている。


「も、申し訳、ありません……」

「ここはフェルガウよりも太陽の光が強い。気にするな。それよりも、早く帰らせろ」


ブレインは砂浜に土下座している。


「ワープ装置を置いてきたので帰れません……」

「よし、死ぬかお前」

「ま、待ってください! アトルシャンを呼ぶことはできるはずです!」


ブレインがプラヴァシの腕を出して、機械を触る。

そしてすぐに青ざめた。


「あっ……」

「どうした?」

「ええと、その……」

「まさか、呼べないのか?」

「い、いえ! 呼べます! でも、少し、時間がかかります」

「どれくらいだ?」

「三十日……」


ゼオルは手元にあったヤシの実をブレインへぶつけた。

見事に額にぶつかり、ブレインは頭を抱える。


「三十日、ここで待つしかないんですか?」


この島で三十日も暮らせるのだろうか、とアークは森の方を見る。

中に入れば多少は食料もあるだろうが、それだけの問題ではない。


「まあ、仕方ねえだろ。三十日くらいならなんとかなるんじゃないか?」


ゴートだけがあっけらかんと言う。


「ゴートさん、前向きですね」

「おれは山とか森で暮らしてたからな。あんまり変わんねえだろ。おれたちのことより、そいつの心配した方がいいんじゃないか?」


たしかに、ブラドのことが一番心配だ。

顔が赤く、視線も虚ろになっている。

しかしそれについて、ゼオルが言った。


「魔力を生命の維持に回して大人しくしていればこのままでも百日はもつ。問題はない」

「そうは言っても気にかけないわけにいきませんよ。なるべくひとりにはしないことにしましょう。ええと、それでは、ここでのことはゴートさんに一任しても大丈夫ですかね」

「ん、いいぜ。じゃ、すぐに始めよう。ブレインは森の中に入って水と食料。ゼオルは火を起こしておいてくれ。おれとアークは、魚でもとろう」


ひとまずの役割分担を終えて、それぞれ解散した。


アークはゴートと一緒に砂浜を歩き、磯を見つけた。

どうやら島そのものはあまり大きくないようだ。

磯には大小様々な魚が泳いでいる。


「魚ってどうやって捕るんですか?」


ゴートが肩をすくめる。

その背後から四本の槍が飛び出し、次々に魚を突き刺していく。


「魔法があるだろ」

「前から思っていましたけど、ゴートさんの魔法って繊細ですよね」

「うっせ」


喋りながら、アークは森に絡まっていたツタのひとつをとって、木の棒と繋げて魚を刺していく。


「それにしても、ここどこなんでしょうね」


汗をぬぐいながら、アークが言う。


「南の方だろうな。やけに蒸し暑い。それに、海の生物の色がきらびやかだ。珊瑚まで生えてやがる」

「あれが本物の珊瑚なんですね」

「見たことねえのか」


ゴートは槍の一本を使って、落ちていた珊瑚の欠片をアークへ飛ばした。

それをキャッチして、アークはまじまじと眺める。


「へえ、なんだか骨っぽいですね」

「空洞が多いからな」


そんな会話をしていると、突然、海面が大きく盛り上がった。

白い触手が伸び、荒々しく砂浜を叩く。

巨大なイカとしか言い様のない、白い怪物が、海から這い上がって大きな目玉でアークたちを睨みつけている。


「貴様ら! とうとうこの島までやってきたか!」


どこから発声しているのかわからないが、空気を震わせる大声でイカは啖呵を切る。


「な、なんだこいつ!?」

「あの、何の話だかわからないのですが!」

「くどいぞ! ここで根絶やしにしてやる!」


イカは話を聞く様子もなく、触手を振り上げてアークたちを狙う。


「おい! 逃げるぞ!」

「は、はい!」


魚をぶら下げながら、ふたりは砂浜へ走っていく。

その後ろを、猛烈な勢いでイカが追いかけてくる。


「ゼ、ゼオルさん! 逃げてください!」


アークが声をかけると、必死に木の皮と棒とをすり合わせていたゼオルがゆったりと立ち上がる。

滝のような汗をかくその顔には、明らかに苛つきが浮かんでいた。

どうやら、火がうまくつかなかったのだろう。

そのうえ、この暑さと湿気である。

よく我慢していると感心すべきだ。


「まだいたか! 貴様も死ね!」


イカの触手がゼオルに振り下ろされる。

すさまじい衝撃で砂埃が上がるが、ゼオルは防御もせず、その攻撃を頭からまともに受けた。

そして、ぐっと沈み込んだかと思うと、まるで雷鳴のごとき勢いで跳ねて、巨大なイカの胴体を蹴り飛ばした。


あまりにも一瞬のできごとで、イカにも何が起きたかわからなかったことだろう。

そのまま水面を何度も跳ねていき、水平線にほど近いところで大きな水柱が起こる。


「バカが!」


たった一言、すべての苛立ちをぶつけるように、ゼオルは吐き捨てた。

おお、とアークたちは拍手を送る。


「なんだったんですかね、あれ」

「そんなことよりも! おい犬! 全然火などつかんぞ!」

「えっ、魔法使えよ……」

「…………」


ゼオルの手にしていた木の棒が、砂浜に落ちる。

さざ波の音だけが、むなしく響いた。


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