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女になった魔王さま  作者: 樹(いつき)
第六話 勇者と呪いと最古の魔女
32/103

あのババア

「お前はうちに問題を持ちこまないと気が済まないのか?」


ゼオルが呆れた顔で言う。


「仕方ねえだろ! 他に頼れるやついねえんだから」


勇者の屋敷のリビングで、カーレッジはソファに腰をおろして、腕を組んだ。


「それと、股を開いて座るな。アークの教育に悪い」


下着が見えているのか、目をそらしているアークがゼオルのとなりに座っている。


「なーにが教育だ。その歳にもなったら見飽きてるだろ」

「お前と一緒にするな。アークはお前のような薄汚いやつとは違う」

「誰が薄汚いだと!? だいたいオレさまはな――――」


そう叫んだところでまた首をねじ切られる。

ここに来て五回目の死だ。


「もうずっとそのままでよくないか?」


窓際に立って遠巻きに様子を見ていたゴートが、棒のついたアメを口の中で転がしながら言う。


「我もそう思う」

「薄情なやつらめ!」

「情を持ってもらえるような人間でもあるまい」


ゼオルとゴートはそう淡々と、カーレッジの頼みを断る方へ持っていこうとしていた。


「ふたりとも、さすがに可哀想ですよ。それに、この魔法が周囲の人を巻き込まない保証だって、ないのでしょう?」

「そう、そうだぞ! 小僧の言う通りだ!」


アークがふたりを説得している間、カーレッジの肩に乗っている不気味な赤ん坊を、ブレインがつついている。


「魔法なのに、みんなには見えないなんて、不思議ですね」

「お前はなんで見えるんだよ……」

「はっはー、ボクは感覚をいじってますからね! 見えないものはだいたい見えます!」


ブレインが自慢げに言う。


「頼ってくれて悪いが、そんな魔法は我も見たことがない。どうにもできないぞ」

「知ってそうなやつを教えてくれ」

「心当たりがない」


ゼオルは即答する。


「……言おうか迷ったんですけど、僕はひとり心当たりがあります」

「小僧! お前はやればできるやつだ! 誰なんだ!?」


アークはゼオルとカーレッジを交互に見て、しばらく考える素振りを見せた。


「なんだよ、もったいぶるな」

「……いえ、おふたりもよくご存知の方なので、すごく言いづらいのです。本人からは好きにしてくれと言われているんですけど……」

「オレさまとゼオルが知ってるやつ? 魔族か?」


聞きながらゼオルの顔を見るも、首をかしげている。


「最古の魔女、キテラさんです」


その名前を聞いて、カーレッジは全身が粟立つ感覚がして、思わず立ち上がった。

知らないはずはない。

キテラは、勇者だったころのカーレッジが結婚した女性の名だ。


「待て、待て待て待て! キテラ!?」

「はい……」

「どうなってんだよ! キテラはオレさまが死んだときにはすでにババアだったんだぞ!?」


慌てるカーレッジとは対称的に、ゼオルは口元に手を当てて考えていたようで、静かに口を開いた。


「もしや、キテラはたどりついたのか」

「そのようです。僕も少し聞いただけですけど、キテラさんが今も確かに生きていることが、その証拠と言えるでしょう」


「何だよ。何にたどりついたってんだ?」

「魔術の根幹、根源、混沌へ至り、知識を得たのであれば、すでにキテラは人間とも魔族とも違う存在となっているはず……」

「あのババア、何やってんだ……」


「お前の死後、キテラは旅に出るとだけ言い残してこの地を去った。死に場所を探すためのものだと思っていたが、まさか今も生きていようとは。しかし、キテラならお前のその不可解な魔法のこともわかるだろう」

「とにかく、他に案もありませんし、さっそく支度をしましょう。馬車の手配をしてきますね」


アークがてきぱきと準備を始める様子を見ながら、カーレッジは頭を抱えた。

この厄介事を解決するためには彼女に会わないといけないことが、わかっているにも関わらず、まったく会いたくないのだ。


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