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女になった魔王さま  作者: 樹(いつき)
第五話 来訪者と山賊王と天候の竜
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絶対だぞ

ふたりがいなくなって、エキドナがおもむろに口を開いた。


「お前は、いつの間にあのような者たちを従えるようになったのだ。前に会った時はこんなに小さかったというのに……」

「あはは、人の成長は早いですからね」


エキドナは、フッと微笑んだ。


「あのふたり、なかなかに強い力を感じる。私が魔王軍にいたころでも、あれほど力を持っていた者はあまりいなかった。どうやら力は、力を持つ者の周囲に集まるらしい」

「だったら、ゼオルさんのおかげですかね。ゼオルさんがいなければエキドナさんとも知り合えなかったと思いますから」

「私のような老いた竜と知り合っても仕方あるまいよ。しかし、ゼオルが人間の子を育てると言い出した時は驚いたものだが、どうやらうまく育てられているようだな」


「……ゼオルさんは、よくしてくれています。いくら感謝してもしきれません」

「そのように思ってもらえることが、親の誉であろうな。私も昔は子を育てたものだが、ここ数百年何の連絡もない。生きているのか死んでいるのか、それすらもわからない」

「きっと、元気に暮らしてますよ」

「そうだといいがな」


魔王軍の二番手を務めていたエキドナは、勇者に魔王が負けてからこの山で静かに暮らすことに決めた、とアークは聞いていた。

昔はストームライダーとしての特性をいかして、悪天候で勇者の行く手を遮る仕事をしていたらしい。

とはいえ、直接人に危害を加えたことはなく、天候を操る能力も自然のままにしているのは、元々そういう気質だったからだろう。

エキドナは、心優しい竜であった。


「しかし、この冬山ではなかなか野生の獣など見つかるまいが、あのふたりは大丈夫なのか?」

「ゴートさんは山暮らしが長くて知識がありますし、ブレインさんは地域全体を総当たりする方なので、ふたりいればいくらかは獲物も捕らえられると思いますよ」

「あの調子では協力も難しいだろうな」

「そうでしょうか? あのふたりはけっこう合っているように感じるのですが」

「本当か?」


エキドナは訝しんだ様子で言った。


「ふたりとも、利害さえ一致すれば誰とでも協力できる方ですよ。理性が本能に打ち勝つタイプです。ああやって勝負って言っていますけど……」

「おーい!」


山の下から声がする。

ふたりがかりで、五メートルはありそうな大きなクマを運んでいた。


「全然何もいないなと思っていたら、すっごくでっかい動物がいたんですよ!」

「ビビったぜ。ブレインひとりだったらどうなってたか……。こんなもんひとりじゃ持ちあがらねえから、こうして戻ってきたってわけだ」

「ジュウラクマですね、これ。今の時期はだいたい冬眠しているはずですけど、穴持たずがいたのでしょう。体が大きすぎると穴が見つからないこともありますから」

「足りるか? 足りねえならもう一回行ってくるぜ」

「いえ、ありがとうございます。エキドナさん、充分ですよね?」

「うむ。助かるぞ、人間」


エキドナはクマを自分の元へ引き寄せると、豪快に丸のみにした。


「おおー! 力強いですね!」

「何に興奮してるんだ、お前……」

「さて、僕らは帰りましょうか。エキドナさんも食事が終わったらあとは眠るだけですし、邪魔になってはいけませんから」

「いや、帰るっつったって、もうすぐ日が暮れるぞ」


空は段々と赤く染まっていく。

アークがどうしようか、と考えているとエキドナが立ち上がった。


「私が屋敷まで送ろう。世話になった礼だ」

「大丈夫かよ。体悪いんだろ?」

「これでも竜だ。すぐに良くなる」


背に乗るように、エキドナが三人に促す。

竜の背は石畳のようになめらかな鱗になっていて、掴むところなどないように見えたが、よく見ると鱗の隙間から毛が生えている。

まるで、山の中に生える草木のようで、アークたちが掴んだくらいではびくともしなかった。


「振り落とされるなよ。人間を乗せるのは初めてなのだ」


エキドナが大きな翼を振るうと、体が宙に浮いた。

ブレインは心底楽しそうに、ゴートは心底怖そうに、みなそれぞれ必死に掴まっている。


夕日の射す寒空の中を抜け、フェルガウへ近づくと、屋敷の庭で待つゼオルの姿が見えた。

雪はすっかりなくなり、綺麗に片付いている。

町中にはところどころ残っているが、生活に支障のない程度のようだ。


エキドナはフェルガウの近くの開けた場所に降り立ち、背中の三人を降ろす。


「ゼオルさんには会っていかないんですか?」

「会うほどのことはない。それよりも、お前たちに礼をやっておこうと思ってな」


エキドナが鼻先に魔力を集中すると、透き通ったガラス質の大きな玉が現れた。


「これは竜玉と言って、竜の魔力が固まったものだ。人間の作った宝玉よりも多くの魔力が含まれている。ひとつだけだが、これをお前たちにやろう。なに、この分の魔力などはすぐに回復できる。美味い肉をとってきてくれた礼だ」

「ブレイン、もらっとけよ」

「え? ボクですか?」


アークも頷く。

ブレインは震える手で慎重に竜玉を受け取った。


「うむ。では、さらばだ人間たちよ」


エキドナは羽ばたいて山へと帰っていく。

竜玉に夕日が反射して、きらきらと赤く燃えるように輝いていた。




「――――んで、どうするんだ、それ」


夕飯を食べながら、ゴートはブレインに聞いた。

ブレインの部屋の食卓の上には、置物のように竜玉が鎮座している。


「んー。そうですね。まだ決まっていないのですけれど、魔力を活かせる機械を作れたらいいですね」

「それもしできたらよ、おれにも貸してくれねえか?」

「……いいですよ。でもたぶん、あなたが想像しているようなものじゃないですよ」

「なに?」

「やだなあ。自分の手を直接使わなければ悪いことできると思ったんでしょう? わかりますよ」

「ちっ……」

「でも絶対面白いものを作りますから。期待していてください」

「……絶対だぞ」


ゴートは口をへの字に曲げて言った。


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