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女になった魔王さま  作者: 樹(いつき)
第一話 魔王さまと異世界からの来訪者
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殲滅だ

「ブラドさん、まだ帰ってこないんですか?」


アークの声がして、ゼオルは外を見るのをやめた。


「うむ……」


部下へ指示を出してすでに丸一日が過ぎている。

魔族の能力をもってすれば、周辺の調査など半日で終わるはずだが、まだ何の知らせもない。


(まさか、とは思うが……)


部下のブラドは頭が良く、何より強い魔族だ。

生存能力だって高い。

何しろ、あの勇者と戦闘を交えて生き残っている数少ない魔族なのだ。

そのため、例え外敵に負けることがあったとしても、死ぬことはないだろうと思っていた。


考えごとをしていると、アークの視線が、外へ向いていることに気がついた。


「何でしょう、あれ」


外から、一匹の傷ついたコウモリがふらふらと入り込んだ。

やっとの思いで机の上に乗り、肩で息をしている。


「お、おい! 大丈夫か!」


ゼオルの言葉に反応したように、かすかに顔を動かすと、コウモリは気を失った。


「……アーク、すぐにリンを呼んできてくれ」


理由も聞かず、アークは駆け出した。


(ブラドよりも強い相手が、この近くにいる……)


久しく感じていなかった危険の匂いに、ゼオルは口元が歪むのを感じた。

昔とは事情が違い、守るべきものもできた。

彼らは弱く、いつ死んでもおかしくない。

そう、だから、彼らを守るために、仕方がない。


「……殲滅だ」


押し殺そうとした笑いが漏れてしまう。

そこでようやく、部屋を訪れたアークとリンの複雑な表情に気がついた。


「……何の用?」

「このコウモリはブラドの一部だ。それがこんな形で見つかるということは、好ましいことではない」

「何か、やばいやつがいるってこと?」

「そう考えていい。目的はわからないが、お前の直感は正しかった。周辺に出ている護衛隊の人間は戻しておけ。こいつがやられるような敵なら、護衛隊程度では盾にもならん。町の人間を全員北へ避難させろ。魔族の集落だが、この町の人間なら歓迎するはずだ」


ゼオルの指示に、リンは危機感を覚えたようで、表情が引き締まった。


「まって、そんなにやばいの?」

「……ブラドは我が配下の中でも三位の強さだ。さらにその眷属も、それに準ずる強さを持つ、影の一族だ。たった十五人の部隊だが、人間の国のひとつやふたつくらいなら簡単に落とせる。それがおそらく全滅となれば、ただ事ではない」

「ゼオルさん、敵って、いったい誰なのでしょう」


アークがそう聞く。

勇者の血筋と言っても、剣すらろくに振ったことのない彼に今できることはない。

長く続いた平和のせいもあるが、自分が守ればいいだけだとゼオルは思っていた。


「人間でも、魔族でもない連中かもしれん」

「人と魔でないとなると、天界の……」

「それはない。やつらはこんな遠まわしなことをしない。アーク、お前は我の近くを離れるな。守ってやれなくなる」

「わっ」


ゼオルは少し強引にアークを引き寄せた。

そのぬくもりに、少しだけ火照った頭が冷静になる。


(人命優先、だな)


戦いたいという欲求は抑えて、とにかく今は現状の把握に努めることにした。






「鳥のような生き物を捕獲いたしました」


ハルワタートは、耳にした通信機のスイッチを入れて報告した。

転移に成功したあと、外の様子を伺っていると何やら意識を感知したため、敵の姿も確認せずに攻撃を仕掛けたのだが、どうやら大した獣ではなかったようだ。


「しかし、この世界の生き物というのは興味深い。我々と似た姿をしている……」


冷凍弾で砕かれて死んだ獲物を見ながら、ハルワタートは呟いた。

最後の一匹だけは姿を目視できたため麻痺させて捕えたのだが、それ以外は殺してしまった。


鳥に似た黒い生き物を実験室へ転送し、ハルワタートは移動式要塞アトルシャンへ戻ることにした。


「ああ、その前に……」


懐から取り出した人形のコアをばらばらと地面にまく。

こうしておけば、即席で使える土人形の兵隊が作れる。

元の世界では当たり前の技術だが、この異世界にも似たようなものはあるのだろうか。


「……今考えても仕方がないな。しかし、空がきれいだ。こんなに透き通っているものなのか」


灰色のスモッグに覆われていない空など、初めて見る。

銃のスコープを覗いて見ても、濃紺の空に散らばる星々の輝きは変わらない。


「この世界を、僕たちのものにできるのか……」


ハルワタートは星へ手を伸ばし、ぐっと握った。


「おい、楽しそうだな」

「ホスロウ……」


赤い髪を逆立てた、体格のいい男が木に寄りかかって立っていた。

ホスロウは、体のほとんどを機械化している兵士であり、ハルワタートと同じく『将』の位を持つ。


「ホスロウも、散歩?」

「まあな。こんなに澄んだ空気はなかなか味わえない」

「ブレインさまは?」

「あの方はこの世界の成分分析で忙しいらしい」


ブレインはアトルシャンの頭領であるが、一級の科学者でもある。

好奇心が最高潮に達すると、倒れるまで飲まず食わずで研究を続ける人物であった。


「アトルシャンの人間も、おれたちとブレインさまだけだ。何としてでも領地を確保して、国民を増やさねえとな」

「そしてまた、あの世界に帰る……」

「次は負けねえ。そうだろ?」

「……うん」


炎将ホスロウと凍将ハルワタートのふたりは、しばらく無言で空を眺めたあと、アトルシャンへと帰って行った。






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