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女になった魔王さま  作者: 樹(いつき)
第四話 魔王さまと勇者と山賊王
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良いこと思いついたぞ

「クソが! いい加減に死ね!」

「いーや、まだ死なねえ」


血まみれのカーレッジが床に倒れ込む。


ゴートは焦っていた。

このままではいずれあの斧に頭を割られる。

さっきから、少しずつ避けにくいところにやつが出現しているのが、その証拠だ。

早ければ、あと五手で、こちらがやられる。


次の出現で、殺さずに捕える。

ゴートは剣を周囲に侍らせて、待機させた。

光の粒子がとどまったところに、やつは現れる。

この十数回のやりとりで、それは掴んだ。


「そこだ!」


光の塊が人の形になった瞬間を狙い、手足と首を剣で挟んで自由を奪う。


「捕まえたぞ!」

「残念でした」


カーレッジが奥歯で何か噛むと、口から泡を吹きながらうな垂れた。


「毒、だと……?」


粒子が呆気にとられたゴートの頭上に溜まっていく。

気がついて身を躱すと、そこに現れたのは斧だけだった。


「斧……だけ……?」


ゴートは一瞬だけ思考が停止し、カーレッジを見失った。

その瞬間に、視界が暗闇に覆われる。

何か、壺のようなものを被せられたのだろう。


視界を奪われると、剣を操ることができない。

抵抗できないまま、腹部に大きな衝撃を感じて、ゴートはあっけなく気を失った。






「……勝った!」


カーレッジは鼻息を荒くして言った。

斧の背で殴りつけるあたり、まだ冷静な判断ができたと褒めるところだろうか。


「お前の戦い方は気持ちよくない」

「うるせえ。こいつ縛るぞ」

「勝手にやっていろ。……む、これは」


ゼオルはテーブルにある果実に手を伸ばす。

これはたしか、頼まれていたものと同じだ。


「メランダじゃねえか。高級品食ってんな、こいつ」

「我はこれを買うためにカルディナへ向かっていたところだ。ここで出会えるとは」

「倉庫行きゃもっとあるんじゃねえの?」

「なるほど!」


ゼオルは意気揚々と倉庫を探した。

外へ出て、荷物がたくさんある方へ行くと、山積みになった木箱の中に、果実のつまったものがあった。


「おお! これだけあれば!」


ゼオルはそのうちのひとつを抱えて、カーレッジのところへ戻った。


「手伝えって。この体じゃ縛るの大変なんだぞ」

「こいつは縄で縛ってもすぐ逃げる。我に任せておけ」


ゼオルは指で輪を作って口へ当てると、紫色の煙を吹き出した。

魔力を奪う煙で、ゴートの体をすっかり覆う。


「これで魔法は使えん。だが、これからどうする?」

「そうだな……。うちで暴れられても困るからな……」


彼が逃げ出すたびに戦うのは、カーレッジも面倒なのだろう。


「……良いこと思いついたぞ」

「お前が思いつく良いことが良いことであった試しがない」


ゼオルは頭を抱えて大きなため息をついた。






「そういうわけだ。頼むわ」


勇者の屋敷の前で、カーレッジは事態を把握できていないアークへ言った。


あれからすぐに、ゼオルはフェルガウへ戻ってきていた。

目的の果実は手に入れており、カルディナへ行く必要はなくなったのだが、まさかこんなことになるとは、ゼオルも思っていなかった。


「あの、どういうわけですか?」


アークが困ったようにゼオルを見る。

手には天空の剣を握らされており、その前には頭に壺を被って紫煙に覆われた男がいる。

これほど珍妙な光景もないだろう。


「だーから、こいつを天空の剣の力で女にしてくれ」

「いや、この人もあなたも誰なんですか」

「オレさまは……やっぱ説明が面倒くさい。あとでそこの魔王から聞け。こいつはゴートって大悪党だ。本来なら死刑ものの重罪人なんだが、簡単に殺せない事情があってな。そこでその剣の力でこいつを女にして、服従の首輪をつけておけ」

「服従の首輪ってなんですか?」

「ああ? あんだろ、剣の中に」

「……ほんとだ。なんで知ってるんですか」

「だからよ、説明はあとで聞けって。そいつを女にして、あとはここで殺さない程度に悪条件で飼ってやってくれ」


「え、なんかこの人酷くないですか? ゼオルさん?」

「我もそう思う。しかし、それ以外に手がないのも事実だ。我からも頼む」

「ゼオルさんに頼まれたら仕方ないですね……」

「オレさまと態度が違いすぎるのはどういうわけだ?」

「お前は黙っていろ」


三人の会話を聞いていたゴートは、小さく震えていた。

殺されるならまだ覚悟もできただろうが、何が起こっているのかわからない状態で、まったく理解できない会話がなされているのだから、当然怯えるはずだ。


ゼオルが煙を解くと、アークはゴートの腹へ剣を突きさした。

すると、白い煙が溢れ、ゴートの体を包む。

壺の外れる音がして、煙が晴れると、呆けた表情で褐色の肌をした黒髪の少女が姿を現した。


「なにこれ、なにこれ、なにこれええええ!?」


自分の体を見て驚く反応も、これで何度目だろう。

ぶかぶかになった服がずり落ちないように、ゴートは両手で抑える。

その首には赤いチョークがついていた。


「マジでなにこれ! おれの体に何をした!?」

「よー、お前は女になったんだよ。神妙にしろ」

「てめえ! 殺す!」


ゴートは怒ってカーレッジに手を伸ばすが、落ちる服を抑えながらだとかすりもしない。


「おい、服従の首輪を使ったことあるか?」

「いえ、どうやるんですか?」

「『おすわり』って言ってみろ」

「『おすわり』」

「ギャン!」


ゴートが頭から地面に突っ込む。


「うわあ……。あの、大丈夫ですか?」

「ウウウウウウ!」

「す、すごい唸ってる……」

「あーっはっはっはっは! おもしれえ!」


腹を抱えて笑うカーレッジを、ゴートは悔しそうに睨みつけている。


「あー、面白い。涙出てきた。じゃあ、オレさま帰るわ。ここからじゃこいつも仲間に連絡をとる手段ないし、また定期的に様子見にくるからよ」


そう言って、カーレッジは馬に乗ってそそくさと帰って行く。


「ゴート、さん? すみません、僕もよくわかっていないんですけど、これからよろしくお願いしますね」

「触るな! くっ、おれがなんでこんなことに!」


ゴートは本当に悔しそうに、地面を殴った。


「こうなると以前のようには魔法も使えん。おとなしくしておけ」

「てめえら全員、絶対殺してやるからな!」

「あの、そのことなんですけど、ゴートさん」

「なんだ、クソガキ!」


「その服従の首輪は悪いことすると爆発するので、気をつけてくださいね」

「……は!?」


ゴートはきょとんとしている。


「えぐい首輪だな……」

「僕が作ったんじゃないですよ!」

「な、なんで、そんなことまでしなくても、ひっぐ、いいじゃん……」


ゴートは大粒の涙を流しながら訴えた。

そうやっていると、ブレインとリンが買い物から帰ってきた。


「……あんたら何やってるの」

「アークくんが女の子泣かしてますよ」

「アーくん?」

「ち、ちが、僕じゃ……」


そこですかさずゴートがアークを指さす。


「この人が首輪つけさせろって!」

「えええええええ!?」

「アーくん、ちょっとお話があります」

「待って、ちょっと、ゼオルさん!?」


ゼオルは無情にもリンに連れて行かれるアークへ手を振った。






後日、さすがに屋敷の中で一緒に住むわけにはいかないので、ゴートのために小さな小屋が作られた。

どうやらゴートは諦めてこの状況を受け入れて、その周辺でのんびりと暮らすことにしたようだ。

今日も庭に寝転がって日光浴をしている。


「……犬だな」


ゼオルは窓からその様子を見下ろして、ぽつりとつぶやいた。


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