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女になった魔王さま  作者: 樹(いつき)
第四話 魔王さまと勇者と山賊王
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また死んだ

ゴートの攻撃は、凄まじかった。

鋼の嵐とでも言うべき無数の剣は、そのひとつひとつが殺意を持ってカーレッジを狙っている。


しかし、カーレッジも万を超える死闘を行った熟練者だ。

体のどこが狙われやすいか、攻撃の角度などを知っている。

いくつかの攻撃はかすっているが、有効なものはひとつもない。


ゼオルはテーブルの上にあった鶏の丸焼きを食べながら、ふたりの戦う様子を見ていた。


「当たらねえな!」

「クソが!」


カーレッジは少し距離をとると、革のベルトを外す。


「次はこっちからいくぜ」

「させるか!」


ゴートの剣を、カーレッジが斧の腹で弾きながら、距離を詰めていく。

ゼオルの位置からは、ゴートが剣を振り回しながらも、一本を常にカーレッジの真後ろに待機させている様子が見えていた。


(なんと器用なことをやる。やはり、手練れだったか。うー、惜しい。カーレッジに勝って我とやってほしい)


カーレッジが斧を担ぐと、ゴートは暴れまわる剣を一瞬だけ止め、真後ろにあった一本でカーレッジの左腕を切り落とした。

ゴートはしてやったりという顔をしたが、カーレッジは顔色ひとつ変えず、斧をゴートに向けて振り下ろした。


「え、な、なんだと!?」


焦る様子を見せながら、ゴートは転がって避ける。

カーレッジはそれを追って、斧を投げた。

しかしゴートまで届かず、床へ突き刺さる。


初めて、ゴートの顔に恐怖の色が浮かんだ。

目の前の少女が、左腕からおびただしい量の出血をしながら、特に気にする様子は見せず、斧を拾いに行こうとしているのだ。


「やっぱ、筋力が足りねえ。鍛えようにも年齢も足りねえしな……」

「クソが! 死ね!」


冷静ではなくなったゴートが、剣を操って、カーレッジの体を次々に切り裂いていく。

十本の剣が体に刺さり、カーレッジは床に倒れ込んで完全に動かなくなった。


「は、は、やった、やったぞ……」


息を切らせて、ゴートは剣を消した。


「次はお前だ、ゼオル!」

「いいや、まだ終わってないぞ。後ろを見てみろ」

「は?」


ゴートが後ろを見ると、斧を振り上げたカーレッジが立っていた。

横へ飛び、その斧を避ける。


「おい! お前余計な助言すんなよ! 今当たってたのに!」

「どういうことだ!?」


カーレッジの死体は消え、生きている彼女が背後に立っていたことを、うまく処理できないのだろう。

ゼオルも初めて見たときは度肝を抜かれた。


不屈の勇者コンテニュー』というカーレッジ固有の能力は、カーレッジが死を認めるまで、何度でも復活させる。

そして、カーレッジの恐ろしいところは、それだけではない。


「もう一度殺してやる!」


ゴートがまた剣を出して、先程と同じように、カーレッジに攻撃を仕掛ける。

しかし、今度は先程のようにはいかない。

カーレッジが、まるで風に舞う薄布のように、剣を避けながらゴートへ近づいているのだ。


「それはもう見た」

「ふざけるな!」


ゴートは剣の一本を自分で握り、カーレッジを突き刺す。

すると、カーレッジはすぐに死に、遺体は光の粒子となって消え、今度はゴートの真上に出現した。

ゴートはまた、大きく飛んで斧を躱した。


(やつの最も恐ろしいところ、それは学習能力だ)


カーレッジは無数に死を繰り返し、こちらのパターンを覚えてくる。

身体能力が優れているわけではなく、覚えられるまで死を繰り返す。

戦いの中で癖を変えられる者などそうそうおらず、カーレッジの命を奪いながらも追い詰められていく感覚は、対峙した者にしかわからないだろう。


(やつを倒す最適解は、覚えられる前に体の自由を奪うこと。しかし、戦う前にその準備をするのは不可能。そもそも自死する方法を体中に仕掛けまくっているせいで、どうしたら死なずに拘束できるのか、我にもわからん)


一撃でも当たれば致命傷必至の巨大な斧が、徐々に迫って来るところも想像したくない。


「あ、また死んだ」


ゼオルは鶏を口に頬張りながら、その泥沼のような戦いを観戦していた。




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