また死んだ
ゴートの攻撃は、凄まじかった。
鋼の嵐とでも言うべき無数の剣は、そのひとつひとつが殺意を持ってカーレッジを狙っている。
しかし、カーレッジも万を超える死闘を行った熟練者だ。
体のどこが狙われやすいか、攻撃の角度などを知っている。
いくつかの攻撃はかすっているが、有効なものはひとつもない。
ゼオルはテーブルの上にあった鶏の丸焼きを食べながら、ふたりの戦う様子を見ていた。
「当たらねえな!」
「クソが!」
カーレッジは少し距離をとると、革のベルトを外す。
「次はこっちからいくぜ」
「させるか!」
ゴートの剣を、カーレッジが斧の腹で弾きながら、距離を詰めていく。
ゼオルの位置からは、ゴートが剣を振り回しながらも、一本を常にカーレッジの真後ろに待機させている様子が見えていた。
(なんと器用なことをやる。やはり、手練れだったか。うー、惜しい。カーレッジに勝って我とやってほしい)
カーレッジが斧を担ぐと、ゴートは暴れまわる剣を一瞬だけ止め、真後ろにあった一本でカーレッジの左腕を切り落とした。
ゴートはしてやったりという顔をしたが、カーレッジは顔色ひとつ変えず、斧をゴートに向けて振り下ろした。
「え、な、なんだと!?」
焦る様子を見せながら、ゴートは転がって避ける。
カーレッジはそれを追って、斧を投げた。
しかしゴートまで届かず、床へ突き刺さる。
初めて、ゴートの顔に恐怖の色が浮かんだ。
目の前の少女が、左腕からおびただしい量の出血をしながら、特に気にする様子は見せず、斧を拾いに行こうとしているのだ。
「やっぱ、筋力が足りねえ。鍛えようにも年齢も足りねえしな……」
「クソが! 死ね!」
冷静ではなくなったゴートが、剣を操って、カーレッジの体を次々に切り裂いていく。
十本の剣が体に刺さり、カーレッジは床に倒れ込んで完全に動かなくなった。
「は、は、やった、やったぞ……」
息を切らせて、ゴートは剣を消した。
「次はお前だ、ゼオル!」
「いいや、まだ終わってないぞ。後ろを見てみろ」
「は?」
ゴートが後ろを見ると、斧を振り上げたカーレッジが立っていた。
横へ飛び、その斧を避ける。
「おい! お前余計な助言すんなよ! 今当たってたのに!」
「どういうことだ!?」
カーレッジの死体は消え、生きている彼女が背後に立っていたことを、うまく処理できないのだろう。
ゼオルも初めて見たときは度肝を抜かれた。
『不屈の勇者』というカーレッジ固有の能力は、カーレッジが死を認めるまで、何度でも復活させる。
そして、カーレッジの恐ろしいところは、それだけではない。
「もう一度殺してやる!」
ゴートがまた剣を出して、先程と同じように、カーレッジに攻撃を仕掛ける。
しかし、今度は先程のようにはいかない。
カーレッジが、まるで風に舞う薄布のように、剣を避けながらゴートへ近づいているのだ。
「それはもう見た」
「ふざけるな!」
ゴートは剣の一本を自分で握り、カーレッジを突き刺す。
すると、カーレッジはすぐに死に、遺体は光の粒子となって消え、今度はゴートの真上に出現した。
ゴートはまた、大きく飛んで斧を躱した。
(やつの最も恐ろしいところ、それは学習能力だ)
カーレッジは無数に死を繰り返し、こちらのパターンを覚えてくる。
身体能力が優れているわけではなく、覚えられるまで死を繰り返す。
戦いの中で癖を変えられる者などそうそうおらず、カーレッジの命を奪いながらも追い詰められていく感覚は、対峙した者にしかわからないだろう。
(やつを倒す最適解は、覚えられる前に体の自由を奪うこと。しかし、戦う前にその準備をするのは不可能。そもそも自死する方法を体中に仕掛けまくっているせいで、どうしたら死なずに拘束できるのか、我にもわからん)
一撃でも当たれば致命傷必至の巨大な斧が、徐々に迫って来るところも想像したくない。
「あ、また死んだ」
ゼオルは鶏を口に頬張りながら、その泥沼のような戦いを観戦していた。