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女になった魔王さま  作者: 樹(いつき)
第四話 魔王さまと勇者と山賊王
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その見た目で魔法使いかよ

山中の洞窟には、山賊の手下たちが作った隠し砦がいくつもある。

この近辺にあるこの砦は、その隠し砦の中でも、とりわけ大きなところだ。

ゴートが帰って来ると、手下たちは総出で出迎えた。


「お頭、おかえりなさい!」

「腹が減った。飯の支度してくれ」

「着替えと一緒に用意してあります!」

「おー、気が利くやつだな」


ゴートは自室へ帰ると、準備してあった服に着替える。

ボロボロの囚人服とはこれでお別れだ。

薄い麻の服を着て、上にシカの毛皮を羽織る。

オオカミの牙の首飾りをつけて、ゴートは鏡で自分の姿を見た。

捕まってからの二十日間、着慣れた囚人服だったが、やはりいつもの服は着心地が違う。


「鋼の刃よ、我が元に集え」


何もない空間から、短剣が飛び出す。

伸びきったヒゲを整えて、うっとうしくない程度に髪を切る。


「ふん、こんなものか」


ひとまず、これで恥ずかしくない格好にはなった。

広間へ出ると、手下たちが食事の用意をして待っていた。

鶏の丸焼きやパンや果物の盛り合わせたものが、テーブルの上に並んでいる。


「ん? これなんだ?」


ゴートが果物のひとつを指さして手下に聞く。


「それはカルディナでこの時期にとれる果物で、メランダというものです。この前襲った商人が積んでいました」

「へー、カルディナのね。どれ……」


メランダを口に運ぼうとした時、手下のひとりが、大慌てで広間に入ってきた。


「お頭! 妙なふたり組がこちらに向かってきています!」

「あー、あの小僧生きてたか。追跡魔法辿ってきた追手だろ。ぶっ殺してやれ」

「そ、それが、女のふたり組なんです」

「女ぁ?」


それは確かに妙なふたり組だ。

ゴートは食べようとした果物を置いて、砦の窓から外を覗いた。


「何だお前ら!」

「うわ!」


外で見張りをしていた手下たちが、怪しい女たちから、まるで子供の相手でもするように、軽くいなされている。


「門を閉めろ! あいつらを中に入れるな!」


ゴートの指示に、手下たちは慌てて木でできた門を閉める。

しかし、次の瞬間、門が青い炎で燃え上がった。


「この程度で我々を止めようなどと」


白い髪の女が、微笑を浮かべてそう言う。


「相手が悪かったな!」


不相応なほど大きな斧を背負った少女も、笑って言った。


「お前ら、総出でかかれ。あいつらただもんじゃねーぞ」


ゴートは手下をけしかけて、敵の手の内を探ることにした。

たったふたりで乗り込んでくるくらいだ。

青い炎と斧だけではないはずである。


「ザコが群れてやがるぜ」

「よくその体でそこまでイキがれる」

「あっはっはっは! この体でもこんなやつらに後れはとらねえよ」


金髪の女は、素早く手下に近づき、アゴを掌底で打ち抜く。

白い方の女は、剣で切りかかった腕を掴んで、力に任せてへし折る。

対称的な戦い方をするふたりだ、とゴートは思った。


(相手にするなら、金髪のガキからか。挟まれたら厄介だな)


敵の実力は少し高めに見積もるくらいでなければ、山賊は長く生き残れない。

ゴートは、金髪の少女は自分より弱いと、白い女は自分よりも強いと判断した。


まずは数を減らして、逃げる算段を整えておく。

命をかけて戦うなんてバカな真似はしない。

生きて逃げのびれば、それだけで勝ちだ。


「そろそろ限界か……」


手下たちは完全に戦意喪失して、逃げ出す者まで現れている。

彼女たちもそれを分かったのか、相手をやめて、まっすぐゴートのいる砦へ向かって進み始めていた。

ゴートはこの大広間でふたりを迎え撃つため、出入り口から最も遠いところに陣取った。


「中は誰もいないのか」

「あれで全員なんて、人望ないのな」

「お前が頭だったら全員守りもせず秒で逃げ出している」

「バカ言え。大人気だぞ、オレさま」


まるで普段通りの会話をするような様子で、そのふたり組はゴートの待つ大広間へ来た。


「お前が山賊王か?」


少女が言う。


「そうだ。自分で名乗っているわけではないけどな」


それを確認して、少女は肩を回した。


「よーし、じゃあ、やるか」

「待て、我にやらせろ」

「あー? これはオレさまの案件だろ」

「あいつ強そうだし、我にもやらせろ」


「ふざけんな。遊んでんじゃねえんだぞ」

「じゃんけんで決めるか」

「負けたらおとなしくその辺で指咥えてろよ」


どうやら、ひとりずつで来てくれるらしい。

ゴートにとって、舐められていることが逆に勝機を感じさせた。


「へ、オレさまの勝ちだ。邪魔すんじゃねえぞ」

「くう! 我がやりたかったのに……」

「つーわけで、よろしくな」


少女は、不敵に笑う。


「戦う前に、君たちの名前を教えてくれ」


ゴートは焦っているふうを装って、そう聞いた。


「オレさまはサ……いや、カーレッジでいいや。こっちはゼオル」


どちらも聞き覚えのある名前だ。

会話している隙に攻撃を仕掛けるつもりが、予想していなかった返答で目を丸くした。


「カーレッジに、ゼオル……? 勇者カーレッジと、魔王ゼオルのことか……?」

「ほー、名前知ってるだけでたいしたもんだ。ほんもんだぜ。どれくらい知ってるか知らねえけどよ」


語りに違いないとは思うが、そう判断できるだけの材料がない。


「さあ、かかってこい。勇者カーレッジとやり合う機会なんて貴重だぜ」


ゴートは舌打ちをして、詠唱を始めた。


「鋼鉄一閃、我が元に集え、雄々しき剣たちよ。『鋼の戦神ソード・ダンス』!」


ゴートの周囲に、十本の様々な短剣や長剣が浮かぶ。

ひとつとして同じものはなく、そのどれもが長さの違う剣だ。


「その見た目で魔法使いかよ」


カーレッジは武器を構える様子もなく、そう言う。

ひと泡吹かせてやる、とゴートは駆けた。


剣は飛ばしても使えるが、近くならばもっと高度な攻撃ができる。

どれほどの手練れでも、前後上下左右から自在に襲いくる刃を無傷では潜り抜けられない。

攻撃が始まった途端、カーレッジの目つきが、少女から戦士のものへと変わった。



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