表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女になった魔王さま  作者: 樹(いつき)
第四話 魔王さまと勇者と山賊王
24/103

お前の選択は正しかった

「む、ここで大通りと合流するのだな」


ゼオルは朝から旧道を歩いて、昼前にようやく森を抜けた。

ここからはまた、綺麗に整備された大きな街道を進むことになるだろう。

いまだ景色の中にカルディナの姿はなく、果てしない山脈の影が連なっている。


ふと、山のふもとに停まっている馬車が見えた。


(あれが、山賊王とやらか?)


護衛の兵がいないことや、馬の手綱を引く御者の姿が見えないことが気にかかるが、それらしいものは他にない。


「血の匂いがする……」


風に乗って漂う生臭さにゼオルは眉をひそめ、馬車に駆け寄った。

そこには誰もおらず、鉄格子が鋭い刃物で壊されている。


(襲撃されたにしては、馬車が綺麗すぎる……。それに、普通なら興奮して暴れるはずの馬も繋がれたままだ)


ゼオルは未だ感じる血の匂いを辿って、道から外れて草原の中を進んだ。

草をかき分けると、無造作に転がされた青年がいた。


「おい、しっかりしろ」


どうやらつい先程怪我をしたらしく、心音は弱いが、まだ生きているようだ。

ゼオルが回復魔法をかけると、しばらくして意識を取り戻した。


「ここは……」

「何があった? 馬車はあるが、中は空だ」

「……ああ! ゴートが逃げ、ぐう……」


起き上がろうとした彼は、苦しそうに胸の傷を抑えた。


「ゴートが逃げたのだな? 待て、今助けを呼んでやる」


ゼオルはカーレッジに通信魔法でこの場所と状況のことを送った。

すぐにでも駆けつけてくるだろう。

待っている間、ゼオルは事の顛末を彼から聞いた。


「家族が、心配で……」

「おそらくは家族のことは心配いらん」

「なんでそんなことわかるんですか?」

「お前を殺したと思っているなら、もう人質としての価値がない。お前の選択は正しかったということだ。下手に協力していれば、家族のことを盾にして永遠に搾取され続けていただろう」


「でも、やつを捕まえないと、不安です……」

「それも任せておけ。乗りかかった船だ。我が捕まえてやろう」

「あなたはいったい……」

「我はただの、通りすがりの魔王だ」


そんな会話をしていると、馬に乗って来る集団が見えた。

その先頭は、金髪の長い髪を揺らすカーレッジだ。


「おう、お前がゴートを移送してたやつか」

「はい、あの、申し訳ございません! ゴートを逃がしてしまいました!」

「今はいい。予想できたことだったしな。どっちに逃げたかわかるか?」

「あの、追跡の魔法をかけたはずなんですけど、どうやら詠唱が不十分だったようで……」


彼の指先から細い糸のような魔力線が出ている。

しかし、釣り糸のように見えづらく、山の方へ向かって伸びていた。


「おい、ゼオル。追えるか?」

「我を誰だと思っている。楽勝だわ」


事実、ゼオルの目には魔力の糸は景色に同化することなく見えている。


「よし、じゃあ、追うぞ。お前らはこいつを連れて帰って手当てしてやれ」

「ボスはどうするので?」

「オレさまがゴートを捕まえてやるからよ」

「承知しました。どうかご無事で!」


近くにいた部下のひとりが、背負っていた巨大な斧をカーレッジに手渡す。

そして、青年を馬に乗せると、引き上げていった。

追跡の魔法は地面に刺さっており、ここからたどっていけば、ゴートの元へ行けるだろう。


「連れてこなくてよかったのか?」

「お前とオレさまがいれば充分だろ。つーか、あいつら邪魔だ」

「それは本心のようだな。しかし、その大きな武器は何だ」


カーレッジは、その少女の体と同じほどに大きな斧を、革のベルトで体に装着している。


「『無垢なる雄牛ファラリス』って名前だ。この体は火力でねえからよ、こういう武器じゃねえと戦えねえ」

「振れるのか?」

「一、二回ならな。それでも肩抜けちまうけど」

「無茶をする……」

「無茶こそ勇者の本分だぜ。さあ、追え」

「我を犬みたいに言うな。先導してやる。ついてこい」


細い糸をたどり、ふたりは山の中へ入っていった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ