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女になった魔王さま  作者: 樹(いつき)
第四話 魔王さまと勇者と山賊王
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見ての通りだ

月が夜空に昇っている。

今日は雲もなく、月明かりだけでも充分ものが見える。


散らかった店の中を片づけなければならないため、ゼオルたちは邪魔にならないよう外へ出た。

夜風が気持ちよく、酔いで火照った体が冷めていく。


「説明しろ、カーレッジ」


ゼオルは少しいらつきながら言った。


「なんで隠していた」

「別に。面白かったから」

「貴様!」


ゼオルは感情のままに掴みかかった。

カーレッジは昔からそうだ。

自分のことしか考えていないから、仲間は誰もついてこなかった。


「離せよ、魔王」

「……ひとつ教えろ。生きているならなぜ連絡をよこさなかった」

「……オレさまも生まれたばっかりなんだよ。転生ってやつだ」

「転生……」


ゼオルは手を離して、その言葉の意味を確かめた。


「だいたい、連絡なんて必要あるか? オレさまはもう他人なんだぜ。この体は勇者の家系でもなんでもない、ただの町娘だ。筋力も魔力も平均以下。あれだけ苦労して習得した魔法や技術も残っていない。残ったのは、ただ性格の悪いオレさまだけ」

「嘘を言うな。何の能力もないやつが、この町を作れるものか」


「……ん? この町をオレさまが作ったって、なんでわかった?」

「古いからだ。今は家を魔法で作る時代だ。木造の家屋なんて骨董品があるのは古くからある集落だけだ」

「……なるほど、やるなお前」

「やかましい。さっさと何をやっていたか話せ」

「見ての通りだ。混血どもを人買いから助けたら懐かれた」


それを聞いて、ゼオルは眉をひそめた。


「さっき全部失ったと言っていたではないか」

「オレさまがオレさまである以上、あの特殊能力だけはそのままだ。お前を倒した時と同じだ。勝てるまで戦っただけだ」

「……貴様のようなやつを勇者と呼ぶのは、やはりおかしい。我から見れば狂人以外の何者でもない」


「死の恐怖を克服したから、勇者と呼ばれるんだ」

「貴様は恐怖を克服したわけではなく、死が価値をもたなかっただけだろう」

「あっはっはっは! お前はやっぱり、オレさまのことをよくわかっている」

「嬉しくないわ」


本心からの言葉を吐く。

カーレッジはひとしきり笑うと、ゼオルに言った。


「それはさておき、ここはオレさまの町だ。せいぜいしっかり楽しんでいけ」

「うるさい。もう寝る。お前の相手は疲れる」

「さっきまで楽しんでいたのにか? ……お姉さん、私と飲み直しませんか?」

「声色を変えるな、気持ち悪い」


まったく、酒を飲む気分ではなくなった。


「あっ、そうだ。そう言えばお前カルディナに行くんだろ? 今、カルディナからある囚人を移送してきているんだが、道中ですれ違ったかどうか通信魔法で教えてほしい」

「囚人? 誰だ?」

「山賊王ゴート。数十件の強盗を繰り返した罪人だ。手下が多くてな、どこの組織にも潜り込んでるってんで、死刑の期日までうちで預かることになってる」


「ここにはいないのか?」

「とっくに始末した。オレさまが生かしておくとでも?」

「……ああ、そうだな。お前はそういうやつだ」

「まあ、そのゴートが逃げ出すとすれば移送中だ。だから、すれ違ったかどうかだけ、オレさまに送ってくれ」


「わかった。要件はそれだけか」

「おう。また来いよ」

「機会があればな」


ゼオルはそう言って宿へ帰っていく。

カーレッジは、満足気にその後ろ姿を眺めていた。


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