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女になった魔王さま  作者: 樹(いつき)
第三話 来訪者と事件
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おいしいでしょう


「タロコ、お前、いったい今までどこに……!」


すっかり夕方になったころ、ブレインはタロコを見つけてエルパーレへ戻った。

彼らの記憶にはちゃんとタロコの向かった先があった。

となり村の宿でタロコは寝泊まりしており、帰るに帰れなくなってしまったらしい。


ブレインたちは彼らに恐怖の洗脳を施したあと、タロコを迎えに行った。

彼は最初帰らないと意地になって言っていたが、脅威が去ったことを伝えると、渋々戻ってきた。


「すまない、合わせる顔がなかった」


顔を伏せるタロコに、エルパーレの主人は抱きついた。


「馬鹿野郎! 店に火をつけられてもいいじゃねえか! お前がいないと店は成り立たねえんだよ! どっちかひとりだけじゃ生きていけねえって、昔そう言ったじゃねえか!」


タロコはブレインたちに構わずおいおいと男泣きをした。


「お嬢ちゃんたち、ありがとよ! 本当ならこれからこいつとふたりで酒でも飲みたいところだが、お礼をしないわけにはいかねえ。おい、今から一仕事できるか?」

「……当たり前だろ。おれはプロだぞ」


消え入りそうな声で、タロコは言う。


「だが、食材はあるのか?」

「お前がいつ帰ってきてもいいように、毎日仕入れてたさ。さあ、やってくれ!」

「くそ、馬鹿だな、お前……」


ブレインとハルワタートは、その日初めての食事にようやくありついた。

ふたりの前には、焼き魚や野菜のいためものなど、たくさんの料理が並ぶ。


「お礼だ。好きなだけ食ってくれ」

「おわーっ! ありがとうございます!」


ブレインが興奮してお礼を言った。

しかし、いくらお腹がすいていると言っても、ハルワタートの反応を見ずに食べ始めることなどできない。


「さあさあ! 食べてごらんなさい」

「……いただきます」


ハルワタートは焼き魚をほぐして、一口分を口に運ぶ。


「どうですか!? おいしいでしょう!」

「……これは、美味ですね」

「ふっふーん、そうでしょう、そうでしょう」

「お屋敷の食事も美味ですが、それとは系統の違うもの……。これが、商品になる食事というものなのですね」


ハルワタートが真面目な顔をして言う。


「喜んでるのかわかんねえな」


店主が困った顔をして言った。


「すごく喜んでますよ! じゃあボクもいただきます!」


ブレインは湯気の立つ食事に手をつけた。

その日初めての食事は大変おいしく、ブレインは満足して帰ることができた。


帰り道、ハルワタートが何気なく言う。


「ブレインさま、人参残してましたね」

「はて、何のことやら」


ブレインはとぼけた顔をした。


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