おいしいでしょう
「タロコ、お前、いったい今までどこに……!」
すっかり夕方になったころ、ブレインはタロコを見つけてエルパーレへ戻った。
彼らの記憶にはちゃんとタロコの向かった先があった。
となり村の宿でタロコは寝泊まりしており、帰るに帰れなくなってしまったらしい。
ブレインたちは彼らに恐怖の洗脳を施したあと、タロコを迎えに行った。
彼は最初帰らないと意地になって言っていたが、脅威が去ったことを伝えると、渋々戻ってきた。
「すまない、合わせる顔がなかった」
顔を伏せるタロコに、エルパーレの主人は抱きついた。
「馬鹿野郎! 店に火をつけられてもいいじゃねえか! お前がいないと店は成り立たねえんだよ! どっちかひとりだけじゃ生きていけねえって、昔そう言ったじゃねえか!」
タロコはブレインたちに構わずおいおいと男泣きをした。
「お嬢ちゃんたち、ありがとよ! 本当ならこれからこいつとふたりで酒でも飲みたいところだが、お礼をしないわけにはいかねえ。おい、今から一仕事できるか?」
「……当たり前だろ。おれはプロだぞ」
消え入りそうな声で、タロコは言う。
「だが、食材はあるのか?」
「お前がいつ帰ってきてもいいように、毎日仕入れてたさ。さあ、やってくれ!」
「くそ、馬鹿だな、お前……」
ブレインとハルワタートは、その日初めての食事にようやくありついた。
ふたりの前には、焼き魚や野菜のいためものなど、たくさんの料理が並ぶ。
「お礼だ。好きなだけ食ってくれ」
「おわーっ! ありがとうございます!」
ブレインが興奮してお礼を言った。
しかし、いくらお腹がすいていると言っても、ハルワタートの反応を見ずに食べ始めることなどできない。
「さあさあ! 食べてごらんなさい」
「……いただきます」
ハルワタートは焼き魚をほぐして、一口分を口に運ぶ。
「どうですか!? おいしいでしょう!」
「……これは、美味ですね」
「ふっふーん、そうでしょう、そうでしょう」
「お屋敷の食事も美味ですが、それとは系統の違うもの……。これが、商品になる食事というものなのですね」
ハルワタートが真面目な顔をして言う。
「喜んでるのかわかんねえな」
店主が困った顔をして言った。
「すごく喜んでますよ! じゃあボクもいただきます!」
ブレインは湯気の立つ食事に手をつけた。
その日初めての食事は大変おいしく、ブレインは満足して帰ることができた。
帰り道、ハルワタートが何気なく言う。
「ブレインさま、人参残してましたね」
「はて、何のことやら」
ブレインはとぼけた顔をした。




