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女になった魔王さま  作者: 樹(いつき)
第三話 来訪者と事件
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ボクも気は長くないよ

ちょうど昼過ぎになり、大通りは人で賑わっていた。

がらんどうなエルパーレとは反対に、件の店は行列ができていた。

通りまでスパイスの香りが漂い、空腹に訴えかけてくる。


「くっ、お腹すきましたね……」


鳴る腹を手でおさえながら、ブレインは言う。


「何か食べてからにしますか?」

「いえ! この空腹はエルパーレの焼き魚定食でしか満たされません!」

「意地ですね」

「そりゃあもう!」


怒りにも似た苛立ちを表に出しながら、ブレインは行列の一番後ろに並んだ。

いくら急いでいるとはいえ、行列に割り込むのは重罪だ。


そのまま、一時間が経過し、待ちくたびれたころにようやく自分たちの番が来た。

扉を開けて中へ入ると、外よりも濃厚な唐辛子やゴマ油の匂いが鼻をつく。

これほど濃厚な食の匂いに、欲を刺激されない者がいようか。


ブレインはあふれ出る唾液に耐えながら、空席へは向かわず、忙しそうに走り回る店員へと声をかけた。


「すみません、ちょっといいですか?」

「はい! 席はあちらですよ!」

「あっ、そういうことではなくて……」


店員の勢いにしどろもどろになっていると、ハルワタートが間に入った。


「僕は護衛部隊の人間だ。この店に容疑がかかっている」


そう言うと、店員のにこやかな笑顔が固まる。

ハルワタートが目配せし、ブレインが言う。


「幻覚作用のあるキノコを使っていますよね? それも常用すると中毒性のある……」


そこまで話すと、店員が店の奥を指さす。

中にいる人間に話せということなのだろう。


ブレインは一礼すると、奥へ向かった。

厨房とは違い、店員が休憩するための部屋のようで、いくつかのベンチがあるほかには何もない。


「おや……?」


てっきりこの店で一番偉い人がいると思っていたが、誰もいないことに少し拍子抜けする。

そう思った矢先、背後から大男が三人入ってきた。


ブレインとハルワタートは部屋の一番奥へと追いやられ、逃げ道を失った。


「お前ら、どこでキノコのことを知った」

「ふん、食べればわかります。ボクは知覚系の閾値が常人とは違うので」

「わけのわからないことを! おい、誰かに喋ってねえだろうな!」


男はずいっと詰め寄る。

臭い息が顔にあたり、ブレインは思わず顔をしかめた。


「……取引をしましょう」

「なに?」

「向かいの店のエルパーレで働いていたタロコさんの行方を知りませんか?」


空気が一変した。

彼らの表情は明らかに強張っている。


「黙らないでくださいよ。居所を教えてくれたら、ボクは君たちがマジックマッシュルームを使って不正にリピーターを増やしていることを黙っています。正直、興味がないので」

「それはできねえ相談だ」

「ふーん?」

「教えといてやるよ。あいつも同じようにして詰め寄ってきた。だから、消えねえと店を燃やすと脅してやったのさ。最初は強気だったが、おれたちがボコボコにしてやったら、そのままいなくなりやがったよ。情けねえ男だ。おかげでうちはあの店の客ももらえて大繁盛だぜ」


男達は下品に笑った。

ブレインはにっこりと笑い、言い返した。


「料理じゃ敵わないから、中毒性のある食材を使い、そのうえ暴力を使ったんですね。ああ、なんて頭の悪い人たちなのでしょう。馬鹿ですね」

「なんだと? おい、女だからって調子に乗ってんじゃねえぞ。後ろの彼氏も黙ってないでなんとか言ったらどうだ? ビビっちまったか?」


言われて初めて、ハルワタートは顔をあげた。


「……ああ、すまない。聞いていなかった。馬鹿の話を聞くと脳が腐るからな」

「てめえら!」


男が拳を振り上げると、ほぼ同時に乾いた発砲音が響く。

男の頬をかすめ、壁に当たった凍結弾が周囲に冷気をふりまく。


「僕はブレインさまほど気が長くない。次は当てるぞ。隠していることを全て話せ」

「舐めるなクソガキ!」


男たちは三人がかりで飛びかかってくる。

舌打ちをして銃を構えようとするハルワタートを、ブレインは制した。


「いや、まったく。ボクも気は長くないよ」


ブレインの肩越しに鋼鉄の両腕が浮かぶ。

突風のような勢いで、ひとりめの男の拳を砕き、ふたりめの男の鳩尾に一撃をくわえ、もうひとりの男の首を捕まえる。


「あ……ぐっ……」

「ボクは怒っていない。だが、交渉が決裂した以上、これからここは戦場だ。身の安全が保証されていた時間は終わったんだよ。だから馬鹿だと言ったんだ。ハルワタート、こいつらをアトルシャンに連れていく。脳を解析して情報を引き出したあと、二度と消えない恐怖の記憶を植えつけてやる」


ブレインは笑ってそう言った。


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