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女になった魔王さま  作者: 樹(いつき)
第二話 魔王さまと履物屋
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それでもやれ

「ヨハン、準備を手伝ってくれ」

「……はい」


意気消沈した様子のヨハンに手伝わせながら、ゼオルはせっせとカバンに必要な道具を詰め込んでいく。

すべて終えるころに、アークがブレインを連れて戻ってきた。


「ブレイン?」

「はい! この世界でも珍しい寄生虫だということで、ボクも来ました!」


ブレインは胸を張って言う。

事態をきちんと把握しているのかも怪しい様子だ。


「人手が足りないので僕がお願いしたんです。ブレインさんも興味があるでしょうし」

「そうか。余計なことはするなよ?」

「しませんよ! それで、患者さんは奥の部屋ですか?」

「はい。ブレインさん、親方さんを馬車へ運んでください」

「了解です!」


緊張感のないブレインにベルトガルを任せ、アークは荷物を持ちあげて馬車へと持っていく。


「ゼオルさん、僕たちは十日ほど戻れませんので、その間のことをお願いしますね」

「我がついていかなくて大丈夫か? 危ない目にあったりとか……」

「ブレインさんもいますし心配ありませんよ」

「むう……」


心配いらないと言われると少し寂しいが、ついていっても特別役には立てないこともわかっているため、ゼオルはおとなしく居残りすることにした。

アークたちを乗せた馬車が見えなくなるまで見送り、ゼオルは店に戻った。


「さて、ヨハンよ、できるのか?」

「…………」


椅子に座り、うつむいたまま床を見つめるヨハンにゼオルは問うた。


「できないなら、やつが目覚めるまで店を閉めればいい。病気だと報せておけば評判が下がることもあるまい」

「それは……」

「なんだ? やるのか、やらないのか、はっきりしろ」

「やります、やりますよ……。でも、できるのかわからないんです」


彼は力なく言う。

ゼオルはため息をついた。


「我のクツを作れ」

「え?」

「聞こえなかったか? 我のクツを作れと言っている。元々この店に頼みに来たのだ。お前がやっても構わないはずだ」

「ぼ、僕がゼオルさんのクツを……」


またうつむいてしまった彼と、目線を合わせるようにしてゼオルは屈んだ。


「自信がないのなら、つくまでやるしかないだろう」

「でも、もし失敗したら、どうしたら……」

「それでもやれ」

「そんな……」

「いいか? 自信というのは経験だ。成功する経験や、褒められる経験も大事だが、どうすれば失敗しないかというのも経験だ。注意する場面を想定でき、対応できることが自信につながる。

お前は今までたくさんのクツを作ってきたんだろう。あの魔力合皮のクツを見ればすぐにわかる。だが、人のために作ったクツではない。それはお前もわかっているだろう? だから、自信がない」

「……その通りです。作ってほしい人の好みにあったクツが作れるかどうかが、わからないんです」


彼の悩みは技術の問題ではなかった。

しかしやらなければ解決しないことでもあり、彼にその気になってもらわなければならない。


「ひとつ、昔話をしてやろう。もう何十年も前の話になるが、この町のとあるクツ屋の話だ。

お前と同じように、徒弟制度を行っているクツ屋があってな。その弟子がまた粗暴なやつで、クツを作るよりも衛兵の世話になっている方が多かった。だが、クツを作る腕前だけはあった。

親方は頭を抱えて、どうしたら彼が更生するか悩んだ。そこで、客ひとりひとりの注文を受けて、その相手にあったクツを作るように言った。

当時でも効率が悪く、なぜこんな面倒なことをする必要があるのか、と弟子は怒った。客の好みにあったクツを作るには、相手のことをよく知らなければならない。ひとつ作るのに、かなり長い時間が必要になった。

だが、そのおかげで弟子は人のことを考えられるようになった。そして、真面目に取り組んだおかげで、たくさんの常連を生み出した」


ヨハンは何も言わず、ただ話を聞いている。


「結局のところ、その弟子の暴力的だった部分は、自信のなさの裏返しだった。彼は嫌々でも続けることで自信を得た。お前はどうする?」


ゼオルはヨハンのとなりの椅子に腰かけると、ブーツを脱いだ。

裸足になり、小さな作業台の上に乗せる。

艶やかなな素肌に窓から入った日差しが反射して、淡い光の衣を作っている。


「……ゼオルさん、クツを作らせてください。今の僕にできる精一杯を、ゼオルさんにぶつけてみようと思います」


ヨハンは決意したように、強い目をしてゼオルを見た。

ようやく店を背負って仕事をする覚悟ができたのだろう。


「その意気だ。さて、採寸をしてもらおうか」


ゼオルは微笑んでそう言った。


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