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女になった魔王さま  作者: 樹(いつき)
第二話 魔王さまと履物屋
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てめえはてめえのクツを作れ

「あの、もう終わりなんですか? もっと細かく形を決めたりとか……」

「我はこの店を信頼している。それに、何ができるか知らない方が楽しめるだろう?」

「そういうものなんですか?」


店を出ようとすると、不意に、カウンターで大きな音がした。

ゼオルは自分の渡した木箱が重すぎてベルトガルが落としてしまったのだろう、と思って振り返ったが、そうではなかった。


「親方さん!?」

「おい、どうした!」


ベルトガルが床に倒れてうずくまっていた。

苦しそうに胸を抑え、身動きがとれなくなっている。

アークはベルトガルの体を横になるように動かし、ゼオルに言った。


「ゼオルさん、回復魔法が使えるか試してください! 大丈夫ですか? 聞こえますか?」


アークの呼びかけにベルトガルは唸って答えた。


「癒しの力を、かの者へ与えたまえ」


ゼオルの手から緑色の光が飛び、ベルトガルの体を包む。

しかし、まったく容態は良くならない。


「ダメだ。病気にはきかない」


ゼオルはどうしたらいいかわからず、首を振った。

そうしていると、ベルトガルは震える手で無理矢理起き上がろうとした。


「し、心配ねえ……。持病が出た、だけだ……」

「薬はありますか?」

「カウンターの引き出しに……」


ゼオルが引き出しを開けると、三角に折られた紙が入っていた。

水を魔法で出して、コップにそそぐとアークへ渡す。


「親方さん、お薬です。飲めますか?」


ベルトガルは苦しそうにしながらも、なんとか薬を口にして、また横になる。


「親方さんを寝床へ運んでもらえますか?」

「うむ。任せておけ」


倒れている人間への処置はわからないが、力仕事なら得意だ。

ベルトガルを背負って奥の寝床へと連れていき、そっと寝かせた。


「すみません、親方さん少し失礼しますよ」


アークは突然、彼の首元を確かめ始めた。


「どうした? まるで医者みたいなことを……」

「もしかしたら、と思って――――やっぱりだ」


アークは苦々しい表情を浮かべて、服を戻した。


「何かあったのか?」

「首の後ろに、黒いかさぶたがありました。これは恐らく『マガ虫』の仕業です」

「なんだそれは?」

「寄生虫です。最近見つかった虫で、心疾患と似たような症状を起こします」

「だが、虫なら魔力検知で見つかるはずだろう」

「そこが厄介なところなんです。マガ虫は宿主の一部に擬態します。つまり、病巣や寄生虫を調べる魔力検知でも引っかからないんです」

「では、こいつはきかない薬を飲んで死へ向かっているというのか?」

「あれは痛み止めでしょう。医者には原因不明の心臓病にしか映らないはずですから」


薬が効いて楽になったのか、静かになったベルトガルを見て、ゼオルはアークと共に店内へと戻った。

帰ってきていたヨハンが、ひとりでせっせと掃除をしている。


「あ、裏にいたんですか? てっきりもう帰ったのかと……」

「ヨハン、ベルトガルが倒れた」

「親方が!? だ、大丈夫だったんですか?」

「いつごろから体調を崩していたかによります。わかりますか?」


アークが聞くと、ヨハンは指を折って数え始めた。


「ええと、たしか四十日ほど前くらいからだったと思います。最初は我慢していたみたいでした。ある日突然倒れたので医者に診てもらったのですが、何の病気かわからないままで……」

「なるほど。それくらいならまだ助かります」

「え?」


アークはゼオルの方を向いて言う。


「ゼオルさん、僕は馬車の手配をしてくるので、親方さんを外出させる準備を彼と一緒にしていてもらってもよろしいですか?」

「構わないが、どうするつもりだ?」

「マガ虫に詳しい人が知り合いにいます。実績もある方ですし、これから連絡をとって治療してもらいます。少し遠いところに住んでいるので着替えは充分に用意してください」

「あの、親方は治るんですか?」

「治ります。ただし、最低でも二年療養しなくてはなりません。症状が重ければもっとかかります」

「二年!? そんな、この店はどうすれば……」


ヨハンが絶望したような顔をしてうなだれた。


「……てめえ、何なさけねえ顔してやがる」

「親方!」


親方は壁に手をつきながら、ふらふらと歩いてきた。

会話を聞いていると、居てもたってもいられなくなったのだろう。


「歯ぁ食いしばれ」

「親方何を……うっ」


弱々しい拳が、ヨハンの頬を叩く。

倒れそうになった体をアークが支えようとするが、払われてしまった。


「自分の腕だけを信じろ、っていつも言ってんだろうが」

「でも親方、おれくらいの腕じゃ、親方の代わりなんてとても……」

「誰が、おれの代わりをしろって言った。できるわけねえだろ、そんなもん。てめえはてめえのクツを作れ」

「僕の、クツを……」


ベルトガルはそこまで話すと膝をついて、また苦しそうに胸を掴んだ。


「親方さんは寝ていてください。これでは治るものも治りませんよ。では、さっき話した手筈通りに準備をお願いします」


そう言うや否やアークは飛び出していく。

残されたゼオルとヨハンでベルトガルをベッドへと運んだ。


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