買うために捨てるのだ
昼下がりの屋敷に、爽やかな日の光が射し込む。
ここ数日快晴で、秋口だというのに過ごしやすい日が続いている。
天気もよく暇だったため、ゼオルは持っているクツの整理を行おうと、朝からごそごそと棚の中をまさぐっていた。
「しかし、よくもこれほどまで増えたものだ。勝手に増えているんじゃないか?」
女性ものの服や下着や装飾品に触れ始めると、それはもう買い集めるのが楽しくて仕方がなかった。
大昔に魔王であったころは、侍女や妃などが煌びやかなものばかり欲しがるのを小馬鹿にしていたものだが、いざ自分が女になってみると、これは大変面白いものだということに気がつかされた。
と言うのも、男が身につけるものと女が身につけるものは表現の幅がまったく違う。
男でも衣装にこだわる者はいるが、行きつく先はほとんどが中性的な容姿であることからも、それはうかがい知れることである。
「申し訳ございません、ゼオルさま。私がこのような姿でなければお手伝いするものを……」
棚の上にとまったコウモリが俯きながら言った。
「よい、ブラド。我の持ち物は我が管理する。当たり前のことではないか」
「しかし――――」
「しかしではない。お前は体を休めておけ。その姿ではあまり長く活動できないのだろう?」
クツを棚から出し終えて、次は不要なものを弾いていく。
前回整理したのは五十年ほど前になる。
棚の中は魔法によって湿度や温度は保たれているが、時が経てば品質は劣化していくものだ。
特に革製品の劣化が酷い。
最後に履いたのが思い出せないほど前のものは、潔く捨ててしまうことにした。
そうして片づけを続けていると、アークが外から帰ってきた。
「掃除ですか?」
「まあな。もう終わったところだ」
捨てるクツと修理するクツをそれぞれ木箱に放り込み、ゼオルは手をはたいた。
「すごい数ですね」
「五十年分だからな。アーク、これからクツを買いに行くが、ついてくるか?」
「えっ、捨てたのに買うんですか?」
「買うために捨てるのだ」
ゼオルは微笑んで言った。