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女になった魔王さま  作者: 樹(いつき)
第一話 魔王さまと異世界からの来訪者
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なんだこれ!?

「勇者よ、やるではないか」


腹に刺さった白刃の剣を見て、魔王ゼオルは笑った。

力の差はほとんどなく、ゼオルから見ても五分の勝負だった。


最後に勝敗を分けたのは、勇者の放った命がけの一撃。

ゼオルの魔剣を潜り抜け、彼の持つ天空の剣が正面から腹部を貫き、体を壁面へと張りつけにした。


本来ならば、この程度たいした傷ではない。

魔族の王であるゼオルの再生能力は、半身を消し飛ばされても数秒で完治する。


しかし、幾度も刃を交えた勇者はそのことを知り尽くしている。

これで終わるはずはなかった。


「天を統べる神々の名の下に、一切を灰燼へと還さん! 白き稲妻よ、闇を切り裂け! 『天雷召喚ケラヴノス』!」

「――――ッ!!」


今までに放った勇者の魔法とは違う、凄まじい衝撃だった。

上空から落ちた雷が、城の天井を突き破り、身動きの取れないゼオルへと到達した。

周囲の景色と共に、視界のすべてが白い光に包まれる。


(反魔力天撃魔法!? これは、まずい。体の再生が追いつかん……)


焼けつく魔力と脳は思考力を奪う。

それでも死ぬことはないだろうが、ここから勝つ方法も思いつかない。


(オレの負けか。まあ、魔族も散々やられたあとだ。いい引き際だろう)


最後に一騎打ちを行ったのは、ほとんど自己満足のようなものだ。

ここで勇者を負かしても、軍を立て直せるだけの人手や物資はない。

人間と和睦を結ぶしか、魔族の生き残る道はなかった。

共に暮らせずとも、不干渉という立場くらいなら認めさせることはできるはずだ。


勇者の魔法がやみ、体の焼ける臭いが鼻をつく。

剣を抜く力もなく、ゼオルは膝をついた。


「……勇者よ、オレの負けを認め――――」

「おい、どんな気分だ?」

「は?」


勇者は、口元を歪ませて笑みを浮かべていた。

まるで、奸臣の企みが上手くいったときのような、下品な表情だ。


「苦労したぜ。お前の化け物じみた戦闘力と再生能力、どうやって攻略したもんかってな」


勇者の意図がつかめず、ゼオルは眉をひそめた。


「さっきの魔法は、お前を倒すためのもんじゃねえ。元気なままじゃ天空の剣の破邪の力が使えないからな。一度ひん死に追い込む必要があった」


ゼオルの体の再生が終わり、朽ちた表皮がぱりぱりと剥がれ落ちる。


「力の一部を飛ばしたんだよ。……って、なんだその姿! あっはっはっはっは! 自分の体を見てみな、魔王さまよ!」


ゼオルは言われた通り、目線を胸元に落とす。


魔族一の剛腕と呼ばれた腕は、細く華奢になっていた。

分厚く硬かった胸板には、大きなふたつの乳房がぶら下がっている。

肩幅と身長も縮み、心なしか、顔も小さくふっくらとしているような気がする。

短かった髪も伸び、まるで白い絹が頭に被せられているかのように、体を這っている。


「は、は、はあああああ!? なんだこれ!?」


ゼオルの絶叫が、勇者の笑い声と重なって、古城の中に響き渡る。

魔族の王ゼオルは、極悪な勇者の手により、美しい女になってしまった。


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