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 フクオは発売前のゲームソフトのパッケージを、惜しげもなく開封。

 中からディスクを取り出し、ゲーム機にセットした。


 コントローラーを握るその姿を、ショーウインドウのトランペットに憧れる少年のように眺めていると、


「ちょっと、三十郎! なにボーッとしてんの!」


 外野のリンから注意されて、正気に戻る。


 ああ、しまった。羨ましすぎて、ただのリスナーになっちまってた。

 しかし相手の戦法はわかった。コイツ、ゲーム実況者なのか……。


 とはいえたいしたことないだろうと思ってたが、まさか最新ゲームソフトのフラゲ実況とは……!


 大人気ソフトの実況となると、かなりの注目が集まる。

 誰もが発売を心待ちにしている最新タイトルならなおさらだ。


 しかし発売前のゲームソフトの動画配信は、利用停止になる可能性が大だ。

 それを覚悟のうえでやってんのか!?


 しかし、リスクを背負っているだけあってインパクトも絶大だった。

 噂を聞きつけたのか、リスナーがガンガン増えてってる。


 期待に満ちたコメントで、もう画面が見えねぇ。

 得票もすでに千票に近づきつつある。俺はまだなんにもしてねぇからゼロのまんま。


「早く! 三十郎も何かやんなよ!」


 と外野から急かされたが、何をやればいいんだ?

 俺は身ひとつで、何も持ち込んでねぇんだぞ……!


 考えろ、考えるんだ、三十郎……この俺に、何ができる?


 特技なんてねぇし……。そうだ! 妖精だ! アイツを見世物にすれば……って、いないんだった!

 くそ、ちょっと前に確認したばっかじゃねぇか! 俺はどんだけアイツに頼ろうとしてんだよ!?


 頭を抱えていると、思いも寄らなかった所から助け舟がやってきた。


「おい、三十郎! 自分が演舞でもしてやろうか!?」


 呼びかけに顔をあげると、ステージの外でヌンチャクを振り回すリッコがいた。


 そ……そうだ! 俺は……ひとりじゃねぇんだった!


「リンっ! ちょっと、こっちに来い!」


 手招きすると、「えっ、ボク?」と自分のことを指さすリン。

 俺が頷くと、先の戦いのダメージを感じさせない軽やかなステップでステージあがり、俺の元へとやって来た。


「お前も動画配信してただろ! 踊れ! 踊ってくれ!」


「えっ、いいけど……コスチュームないよ?」


「構わん! 今のお前は、初回特典のスペシャルコスチュームに近い格好だ!

 むしろそのほうがいい!」


 ゲームのプレイヤーでないリンは俺の言っている意味が理解できないのか、ひたすら小首をかしげていたが、


「うーん、よくわかんないけど……でも、わかった!

 三十郎がそう言うなら! 踊ればいいんだね!?」


「おう、頼む! 俺も一度、生でお前のダンスを見てみたかったんだ!」


 俺は気合を入れるように、リンの腰をパンパンと叩く。

 生のダンスを見てみたかったというのも、嘘偽りない気持ちだ。


 妖精が側にいないのに、こんなに素直になるとは……なんでだろうな。

 ふとヤツのホームポジションである胸ポケットを見てみたが、相変わらず空っぽだった。


 でも、いつもの虹色に輝く鱗粉は、ワイシャツを不自然に彩っている。

 もしかしてこの残り香みてぇなヤツのせいかもしれねぇな。


「どうしたの? 三十郎?」


 リンが不思議そうに覗き込んできたので、俺は顔を上げた。


「あ、いや、なんでもねぇ、それよりも、がんばれよ!」


 さらなる励ましを受けたリンは、心の底から湧き上がってきたような笑顔を浮かべる。


「……うんっ! ボク、やるね!」


 男たちの脈を、否が応にも乱れさせる最高の表情のまま……片足を軸にクルッと回転、スカートをなびかせつつリンはカメラのほうを向いた。


『うおおおおおおお!?』


『天使キター!』


『なになに、ぐうかわ!』


『もしかして、ベルちゃんじゃね?』


『マジだ、レイヤーのベルちゃんだ!』


 コメント欄が塗り替えられる。


 そうだ、よく考えたらリンって『ファイナルメンテナンス』のレイヤーで有名だったんだ。

 今のリスナー層にはストライクじゃねぇか。


 フクオがプレイしているゲームのBGMにあわせ、リンがステップを踏んでリズムを取りはじめた途端……ゼロだった俺の票カウントが勢いよく回りはじめる。

 しかもフクオの票が吸い取られるように減っていっている。投票をやり直したヤツがいるんだ。


 よし……いいぞ! このまま一気に逆転だ……!


 これには敵も焦っているだろうと思ったが……ヤツの福顔は、崩れていない。

 むしろさらに不気味さを増し、まるで禁断のペットを彷彿させるほどになっていた。

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