087
何日かぶりに訪れた「出島」。
先の訪問では泥棒のようにコソコソしていたが、今回は覇王のように堂々と橋を渡ろう……と思っていたが、できなかった。
部室棟はどこも、人でごったがえしていたからだ。
運動部のヤツらだけじゃない、『開部の儀』を見るために学園じゅうの人が集まっているみてぇだ。
迷路みたいな通路にはなぜか露店が出ており、まるで学祭のような賑わいを見せている。
俺は満員電車のサラリーマンのように人ごみをかき分け、進んでいった。
「廃墟」のまわりは、巨大盆踊り会場さながらだった。
ツタのからまったビルをやぐらとするならば、まわりにうじゃうじゃと集まっているのは踊るアホウども。
四方を囲むように巨大モニターが設置され、ビルの入り口や観客の姿が映し出されている。
しかもなぜか特設ステージまであって、そこではヒステリックにがなりたてるヤツらがいた。
「女性の尊厳を踏みにじり、女性の社会進出を阻害するハーレム同好会、はんたーい!!!」
スピーカーからの声の続いて、
「はんたーい!!!」
とシュプレヒコールをあげる女ども。
ハーレム同好会は、もうすっかり周知の事実のようだ。
俺だけのことかと思ったら、これだけ大勢のヤツが勝手に首を突っ込んで、勝手に盛り上がって、勝手に反対してやがる。
まぁ、せいぜいバカ騒ぎをしてるがいいさ。
明日にはここにいる全員、俺に歓声を送る愚民どもになっているんだからな。
人をかきわけかきわけビルの入り口に近づいていくと、チェーンポールで区切られた広い空間があった。
乗り越えて中に入ろうとすると、サングラスにスーツの女性たちが走り寄ってきた。
「入ってはいけません!」
と注意されたのでビクッとなったが、俺の顔を見るなり、
「……寿、三十郎ですね!? こちらへ!」
と引っ張り込まれてしまった。
周囲の巨大モニターがどれも、俺をアップで映し出す。
どおっ! と噴火するように沸き立つ観客たち。
「アイツが、『開部の儀』に挑戦するヤツらしいぞ!」
「なんか、パッとしねぇヤツだな!」
「あっ、アイツ、俺のクラスのヤツじゃん!」
「マジ!? なんてヤツ!?」
「えーっと、知らねぇ!」
なんていう言葉も聞き逃さないほど、俺は落ち着いていた。
昔の俺だったら腰を抜かしてたかもしれねぇが、ここんところ注目されっぱなしだったからな……もうだいぶ慣れちまった。
何千人もの美女に比べたら、コイツらはカボチャ同然だ。
俺は騒音のなか、スーツの美女に取り囲まれる。
コイツらは理事長によって派遣された『開部の儀』の運営スタッフらしく、まずはルールについて説明された。
ルール1 『開部の儀』(以下、儀式)には、ハーレム同好会の発起人となる人物が部室内に入った時点で、開始したものとみなされる。
ルール2 儀式は部室内のどこかにいる、錠前により拘束されている人質を救出するのが目的である。
ルール3 錠前を外すための鍵は、部室内のどこかに必ずある。
ルール4 人質の身柄とともに、部室から出ることができれば目的達成とする。
ルール5 目的達成が確認された時点で、ハーレム同好会の開設は正式に認められる。同時に部室は、ハーレム同好会のものとなる。
ルール6 いちど儀式を開始したが最後、目的達成まで部室から出てはならない。目的達成前に部室から出てしまった場合、いかなる理由にかかわらず失敗とする。
ルール7 儀式を行うハーレム同好会の発起人は、着衣以外のものを持ち込んではならない。ただし、他の参加者についてはその制限を受けない。
ルールを聞きながら、俺は身体検査を受ける。
所持していたスマホと弁当箱、そしてデレノートまで没収されてしまった。
くそ……最後の手段として持ってきていたノートが取られちまった。
強敵が立ちはだかった場合、最悪、寿命を払ってノートに名前を書いてやろうと思ってたのに……それができなくなっちまった。
となると……俺の武器は『VRバンダナ』と『きせかえグローブ』だけってことか……。
どちらも戦いに使えるモノではないので、ようはチーターの能力に頼らず、身ひとつで戦えってことなんだろう。
検査をパスした俺は、「廃墟」のビルの入り口に案内される。
コンビニとかにありそうな、観音開きのガラス扉。
いつもは引き手をチェーンでグルグル巻きにされて入れないようになってるんだが、今日は鎖が取り払われていた。
この扉をくぐれば、『開部の儀』の始まりらしい。
もはや、迷うことなんて何もねぇ。
俺は焦ることも、臆すこともせず、普段どおりの歩みで、運命の扉に近づく。
押し開けた瞬間、
「これより……『開部の儀』を行うっ!!!!!」
厳格な男の声が、スピーカーを通して響きわたる。
呼応するように、さらに大きくなる歓声。
それは別にいいんだが……なぜか花火まで打ち上げられたようだ。
俺は、空を駆け抜ける軽快な爆発音を聞きながら……扉をくぐった。




