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086 開部の儀 開会

 決戦の朝を迎えた。

 テュリスはいつもは俺が動き出すまでグースカ寝ているのだが、今日に限っては枕元にある人形用のベッドはもぬけのカラだった。


 朝メシを食うためにダイニングに降りたが、いつも朝日以上にまぶしい笑顔で迎えてくれる姉妹の姿もなかった。


 『先に学校に行きます。ヨーグルトとフルーツは冷蔵庫にあります。トースターにパンが入れてあるので、スイッチだけ入れてください。バンビ&ルナナ』

 という書き置きと、ラップのかかったハムエッグとサラダが追いてあった。


 学校でのひとりメシは珍しくないが、家でのひとりメシは初めてのような気がする。

 いつもルナナかバンビ、どっちかが家にいたからな。


 家ではずっとひとりメシに憧れていた。

 自分の部屋で好きなアニメを観たりネトゲをしながらメシを食うんだ。


 その憧れの時間を初めて得られたというのに……特に嬉しさはこみあげてはこなかった。


 メシを食い終えたあと、制服に着替える。

 いつもだったら胸ポケットにやかましいのが挟まってるんだが、今日はいない。


 アイツがいないと、肩にフケみたいに残っている鱗粉も妙に浮いている気がする。

 テュリスが俺の肩をホームポジションにするようになって、制服私服、どちらも胸から上あたりが虹色でラメラメになっちまったんだよな。


 まるでフィギュアスケートの衣装みたいで嫌なんだが、いくら洗濯しても落ちないらしい。

 ルナナに手洗いするよう頼んだんだが「似合うから無理に落とさなくても……」と残念そうにしていた。


 結局、手洗いでもクリーニングをしても全然消えなかった。

 もう柄みたいになっちまってるんだろうな。


 ひとり家を出たあとの通学路も、今日は誰も俺を見ようとしない。

 ここ最近はずっと、注目を集めることばっかりしてたような気がするが……過去に戻ったように何事もない。


 クラスに着いてもそう。

 机と椅子もちゃんとあったし、足を引っ掛けてくるやつもいなかった。


 クラスメイトは大勢いるというのに、俺は言葉の通じない異国に置き去りにされたようにひとりぼっちだ。


 理由はすぐにわかった。今日はエリカとレオンの席が、空席だったんだ。

 おそらく休みなんだろう。あのふたりがいないと俺への風当たりも弱まるようだ。


 最近は、チャットアプリで欠席状況が共有されるらしいな。

 もちろん俺は使ってないので、今の今までふたりの欠席を知らなかった。


 まぁ、別にいいんだけどな……誰が休もうが転校しようが死のうが気にするこっちゃない。

 誕生日の前、俺が恋愛チーターとなる前の状態に戻っただけのことだ。


 ホームルームでは、まだ担任のルナナの姿はなかった。

 昨日家に帰ってきてたから、復帰するかと思ったんだが。


 代わって副担任の先生が、何やらゴチャゴチャと連絡していたが……ふと、わあっと歓声が起こった。

 どうやら今日は、『開部の儀』のため半ドンになるらしい。


 これには虚を突かれた思いだった。

 なんだよ……『開部の儀』って、学校行事なのか? 


 たしかに開始は昼からだってルナナも言ってが、てっきり昼休みの時間でチャッチャと終わるような内容かと思ってたのに……。

 まさか、午後いっぱい使うような壮大な内容なのか……?


 クラスは半休のうれしさに溢れていたが、俺はひとり、不安にかられていた。



 そして、いよいよ……というか、あっという間に午前中の授業が終わった。

 まわりのヤツらは帰宅なり部活なりに向かうのかと思ったら、普通に昼休みを満喫しはじめやがった。


 『開部の儀』って何やるんだろうね~。とか、「廃墟」でやるらしいよ~。とか、噂でもちきりだ。


 ……まさか、見に来るつもり? っていうか、さっさと帰れよ……!

 などと言えるはずもなく、俺は恨みのこもった視線を投げかけつつ、席を立ち上がった。


 戦いに備えて腹ごしらえをするべく、教室を出る。

 途中でリンがこちらを見ていることに気づいたが、特に言葉を交わすことはしなかった。


 秘密の部屋で、ひさしぶりのルナ弁。なぜかいつもより豪華で、量が多かった。

 ルナナなりの応援なんだろう。力を蓄えるように味わい、完食する。


 途中で買った紙パックのコーヒーでひと息いれたあと、万感の思いで出陣。

 いろいろあったが……ついに最後の戦いだ。


 ハーレム同好会が設立できれば、すべてを終わらせるだけの力が手に入る。

 すべての女を、俺の足元に平伏させる力が……!


 俺が16歳になってから、まだ何週間かしか経ってねぇが、もう何年も前のことのように思える。

 濃密だった日々を回想していると、ひと足はやく王になったような気分になる。


 俺は壮年の王のように荘厳で、堂々とした足取りで……今生最後の決戦へと赴いた。

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