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ずっしりしたお土産を受け取っていると、ルナナは「あ」と何かを思い出したようだった。
「そうだ、理事長さんにお会いしたときに教えていただいたんだけど……はあれむ同好会って、うちの学校に昔からあったんですって」
「……なに?」
それは、意外な事実だ。
ハーレム同好会なんて狂った部活、前代未聞だと思っていたのに……。
「うん、かつてのOBの方が設立した部活らしくて……でも、部長さんが卒業しちゃってからは凍結になったんですって。
まだ部室も残っているそうよ。知ってる? 西の部室棟にあるツタでいっぱいの建物」
「出島にある廃墟が、ハーレム同好会の部室だと……!?」
さらなる驚きの真実……! ハーレムって、運動部なのか……!?
まあ確かに、運動っちゃ運動か……!?
「うん、でも、ひとつ問題があって……理事長さんがおっしゃるには、はあれむ同好会を再開するには『開部の儀』をやらなくちゃいけないんですって」
「……なんだそれ?」
「同好会の開設に反対する人を募って、その人たちと部室をめぐって戦うんですって。
それで目的を達成することができたら、開部が正式に認められるんですって」
「……なんだそりゃ」
疑問は、すぐに落胆に変わった。
「理事長さんがおっしゃるには……それが、はあれむ同好会の伝統なんですって」
「伝統、ねぇ……」
出島にある廃墟はたしかに古かったが、そんなに歴史ある活動だったのか?
「もう理事長さんからの指示で、『開部の儀』の準備はできているそうよ。
明日のお昼からですって」
「……な……なにっ!? 明日やるのか!? そんな大事なこと……もっと早く言えよっ!?」
ずっと驚きの爆弾を投げ込まれているような気分だったが……最後に特大のが飛んできて、つい手を振り上げちまった。
連日のイジメの八つ当たりでもあったかもしれない。
「キャ!? ご、ごめんなさぁ~い!」
ルナナはイジメっ子を前にした亀みたいに首を引っ込めようとしていたが、ぜんぜんできていない。
ちょうど迎えに降りてきたテュリスも浦島太郎のように仲裁してくることもなく、「ジャミラみたいやなぁ」と独自の感想を述べていた。
俺はそれで少し冷静になって、振り上げた拳をルナナの頭にポンと降ろす。
コイツはデレノートに名前を書いたわけでもねぇのに、俺のために、連日走り回ってくれてたんだ。
感謝してもしきれねぇな……俺がハーレム王になっても、コイツだけは幸せにしてやるか……!
「……ありがとうな、ルナナ、何から何までやってくれて……」
「エヘヘヘヘヘ」
撫でてやると、ルナナはとろけきったような、しまりのない笑顔を浮かべた。
その日の夜。
久々に4人揃っての夕食を終えた俺は、机に向かってドールの着せ替えにいそしんでいた。
「明日は『開部の儀』なんやろ? 人形なんていじってて大丈夫なんかいな」
より人形っぽいのが、ドールの周囲を旋回しながら言う。
「いまさらジタバタしててもしょうがねぇさ、何をやらされるのかもわからねんだしな。
それにこうやってドールと触れ合ってると落ち着いて、頭がスッキリするんだ」
「なんや、変わった精神統一やね……ところでこの人形、なんやルナナに似とるな」
「……バレたか。そうだ、コイツはルナナをイメージしてる。
実をいうと、ルナナみたいな女はタイプなんだ。
ルナナ自身は血が繋がってるようなもんだから、何とも思わねぇけどな」
「どうせ旦那のことや、一度は求婚したことあるんやろ?」
「……それはなんだ? カマをかけてるつもりか?」
「カマちゃうよ。
この前、ルナナの部屋に行ったとき、おもちゃの指輪を大事そうにリングケースに入れとったからな。
アレ多分、旦那が送ったやつやろ?」
……コイツの洞察力と推理力には、ほとほと驚かされる。
普段は変な関西弁で、頭が悪そうなコトばかりしてるからギャップがすげぇ。
ルナナがいま大事にしてるとかいう、オモチャの指輪と同じモノかどうかは知らねぇが……たしかにガキの頃にルナナにオモチャの指輪を贈ったことがある。
ルナナは9歳の時に家に引き取られてきたんだ。その時、俺はまだ幼稚園に通うくらいの頃だったかな。
当時はまだ「お姉ちゃん」って呼んでたんだよな……。
アイツは家の長女として、気丈に振る舞ってたけど……時たまひとりで泣いていた。
それを目にするたび俺は、本当にいろんなことをやった……。
悲しんでいる原因なんて、ガキの頃の俺にわかるわけもなかったから……動物のマネをしたり、下手な手品をやったり、裸踊りをしたり、くすぐったりした。
そうやって、四六時中笑わせてやることで、涙を流させないようにしてたんだ。
ひょんなことから、悲しみの原因はみなし子になったことだというのがわかった。
家族がおらず、天涯孤独になって泣いてたんだ。
いくら俺たちの家族になったとはいえ、血は繋がってねぇ。
言葉は悪ぃが、ルナナにとって俺たちは、赤の他人……。
そこで俺は考えた。
どうやったらルナナの本当の家族になれるか、って。
そして導き出した答えが「結婚」……。
俺とルナナが結婚すれば、ルナナは本当の家族を得られる……。
なんかドラマとかで見た求婚シーンを思い出して、指輪を買った。
ちゃんとしたのは売ってもらえなかったから、オモチャ屋で買った。
それで、庭の隅で泣いていたルナナの手を取って、指輪をはめてやったんだ。
プロポーズの言葉は……覚えてねぇな。
でも……それからルナナの泣く姿を見なくなったな。
まぁ……俺の見えないところで泣くようになっただけかもしれねぇが。
俺は記憶を辿るようにして語りつつ、ルナナそっくりの人形を下着姿に剥く。
誕生日プレゼントにルナナからもらったドール服を開封すると、ウエディングドレスだった。
「あ、そや、言い忘れとった。
いま旦那がしとるグローブで人形の着せかえをすると、モデルになった本人にもその服を着せることができるんやで。
チーター能力のひとつ『きせかえグローブ』や」
「そうなのか?
じゃあコイツで例えるなら、ルナナにウエディングドレスを着せることができるってことか?」
ひみつ道具みたいだな、と思いつつ尋ねる。
猫というよりネズミみたいなテュリスは、曖昧さを表すように斜めに首を振った。
「うーん……厳密には、ルナナにその服を着たいという衝動を与えることができるだけやけどな。
あくまで衝動やから、TPOに合わん格好はさせられんよ、たとえば海に行くときに水着を着せたらその水着を着てくれるんやけど、山に行くときに着せても着てくれんっちゅうこっちゃ」
「もしかして、VRバンダナと同じ、女の好感度によるのか?」
ピチン、と指を鳴らす妖精。
「さすがにわかるようになってきたな。
そや、旦那が好きやったら、TPOを無視するほどの強い衝動を与えられるやで、真冬の学校に行くのに水着を着させることも可能や」
「そうか……」
「あ、なんや、またよからぬことを考えとるな」
俺はすぐに突っ込まれてしまうほど、嫌らしい顔をしていたかもしれない。
でも、その通り。
デレノートでベタ惚れにさせた女どもを、すっ裸にして……。
街中をあんこう踊りパレードするのも面白いな、って思ってたところだ。




