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 食堂。いつもの最深部では四人がけの席で隣り合い、楽しそうに昼飯をつつくリンとシキの姿があった。


 シキはもうあのボソボソしゃべりじゃなくて、サーバーダウンちゃんの声だ。

 ただ、いつも元気なキャラの感じじゃなくて、だいぶ抑えめのトーンだ。


 それでも周囲のオタクっぽい男どもが、時折会話に反応してチラチラと見ている。

 きっと、サーバーダウンちゃんの声に似てるな……くらいに思ってるんだろう。ホンモノとも知らずに。


 それはさておき、俺はリンとシキの前に座った。

 俺の姿を認めるなり、ふっと真顔になるリンと、緊張したように居住まいを正すシキ。


「同好会を作ろうと思うんだ、入ってくれないか?」


 単刀直入に切り出し、入部届けをそれぞれふたりの元にスッと差し出す。

 学校のウェブサイトに入部届けのフォーマットがあったので、家で印刷してきたやつだ。


「は……はあれむ同好会……?」


 印刷されている部の名前を読み上げ、レンズごしの瞳を白黒させるシキ。

 ハーレムの発音がルナナと同じだ。


 リンは入部届を一瞥すらしない。俺を見据えたまま、


「……考えさせて」


 とだけ言った。

 いつも大げさなくらい感情を込めて喋るコイツにしては珍しい、平坦な声で。


「……もう、だいぶ経っちゃったよね、三十郎がハーレムを作るって言い出してから。

 最初聞いた時は、ボクはすぐにでもハーレムに入りたいと思った。

 でも、今の三十郎が作ったハーレムには、入りたいとは思わない」


 キッパリと言われて、俺は多少の苛立ちを持って尋ねた。


「……なんでだよ?」


「三十郎って、マジになってる人をバカにすることだけはしないって思ってた。

 マジになってる人を見たら、いっしょになってマジになってくれる、それが三十郎っていう男の子だって思ってた」


「……そりゃ、買いかぶり過ぎだろ」


 俺はハッ、と自嘲気味に笑う。

 リンは毅然とした態度のまま頷いた。


「うん、それは昔の三十郎だよね。

 今の三十郎は、マジで好きだって言ってくれてるエリカちゃんを、バカにして、からかって、オモチャにして……人の好意で弄ぶ、最低の男の子だった」


「それは、アイツが俺にニセのラブレターをよこしやがったからだ」


「……そう、だからって仕返しするんだ」


 ダアン!

 俺は、テーブルに拳を叩きつけて席を立ち上がる。


 それ以上言葉を交わすことなく、リンとシキに背を向けた。

 この食堂で、こうして注目を集めながら立ち去るのって、何度目かな……とどうでもいいことを考えながら。



 それから何日かしたある日のこと……学校から帰宅した俺に、珍しくルナナが出迎えてくれた。

 なぜかベトナムの民族衣装である、アオザイを着て。


 ここ数日、ルナナは件の大切な仕事とやらで家に帰らなくなってたんだ。

 だから晩メシも俺とバンビだけで食っていた。


 それにしてもいったい、どこに行ってたんだ……?


「サンちゃんサンちゃん! やったやった! 私、やったよ!」


 ルナナは薄汚れた紙を広げ、百点満点のテストを見せる子供のようにはしゃいでいる。

 その手にはテストではなく「開部届」があった。


 どうやらルナナはハーレム同好会を開設するため、顧問として先生各位の許可を取り付けるために駆けずり回っていたようだ。

 古代の地図みたいに端がボロボロ欠けてる開部届けには……各教師の承認印がずらっと並んでいた。


 そしてなぜか、返り血のようなものまでついている。


「大変だったんだよぉ。

 職員会議に出したら、はあれむなんてけしからん! って全員の先生から反対されちゃったから、ひとりずつお願いしてたの。

 教頭先生だけはいくらお願いしてもぜんぜん承認してくださらなくって……。

 でも、可愛いお城みたいな所の駐車場で女の人と一緒にいるところを土下座してお願いしたら、承認してくださったの!

 あんなに反対されてたのにあっさり承認してくださったから、ちょっと不思議だったわ……」


 そりゃ、偶然不倫の現場を押さえたからだろう。

 それにしても、恐ろしい執念だ。


「最後は理事長先生の承認が必要だったんだけど、理事長さんはいまイギリスにいるらしくて、飛行機でブーンって行ってきちゃった。

 途中で飛行機が墜落して、無人島に漂着したりして大変だったけど……なんとかご承認いただいたの。

 はいこれ、おみやげ」


 開部届の脇から差し出されたものは、ロンドンバスの文鎮とエッフェル塔の文鎮、そして自由の女神の文鎮とスフィンクスの文鎮だった。


 いったいどこまで行ってきたんだよ。

 それになんで……文鎮ばっかりなんだよ。

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