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083 めくるめく日々

 俺は今までクラスの中では、いてもいなくても気づかれない、石ころのような扱いだった。

 それはそうなんだ。俺がみんなを見下して、無視してきたんだからな。


 しかし……今朝は違った。明らかなる敵意が向けられているのを感じた。


 いつもあるはずの俺の机と椅子は消え去っていたし、当然のように「おめーの席ねーから!」とヤジられ、クラスが爆笑に包まれた。


 歩いていると足を引っ掛けられ、後ろから突き飛ばされた。当然知らん顔だ。

 上履きは当然のように隠され、体操服はゴミ箱にぶちまけられていた。

 弁当にはゴミを入れられたし、秘密の部屋でメシを食っていると、もれなく汚水が降ってきた。


 ……明確な「イジメ」の始まりだった。


 それまで、うちのクラスにイジメは存在しなかった。

 クラスの出来事に興味のねぇ俺でも知っている。


 なぜならルナナがいたからだ。

 アイツの前でイジメの気配をさせるのは、猫にちゅ~るをチラつかせるようなもんだからな。


 だが……ルナナはうちのクラスの担任から、一時的に外れることになった。

 何か重要な仕事があるとかで、本人から申し出があったそうだ。


 別の担任が来たことでイジメは事実上、完全解禁となった。

 ルナナなんかに頼るつもりなんざサラサラなかったが、クラスメイト全員からターゲットとして狙われるのはさすがに辛い。

 テュリスにとばっちりを食らわせるわけにもいかなかったので、学校には連れて行かないようにした。


 それからの毎日は生傷が耐えず、陰湿なイジメに晒される日々となった。


 正々堂々と暴力を振われるほうがまだいい。

 誰がやってるかわからないように巧妙にイタズラされるのは精神的に、かなり来るものがある。

 ガマンできなくなって誰彼かまわず殴りかかっていったこともあったが、大勢から返り討ちにあった。


 でも……首謀者だけは最初からハッキリしているんだ。


 エリカとレオンだ。クラスのヤツらは、ふたりの指示に従ってるだけ。

 男子のトップのレオンと、女子のトップのエリカ……このふたりに逆えるヤツは、このクラスにはいねぇ。


 俺を知っていヤツ、知らないヤツ……ガキの頃に仲良く遊んだことのあるヤツも、等しく俺の敵に回った。

 俺は本当の意味での「ぼっち」、そしてスクールカーストの一番下になったんだ。


 味方はどこにもいなかったが……俺はくじけることはなかった。


 少し前だったら、とっくに登校拒否になってたと思うが……今の俺にはハーレム王になるという野望がある。

 それにあと一歩……あと一歩のぼりつめれば……ハーレム同好会さえ設立できれば、デレノートが使い放題になる。


 そうすれば……このクラス、いいや、この学校の女すべてが俺のモノになるんだ。

 せいぜい俺をバカにするがいいさ、この借りは何倍にもして返してやる。


 誰がどんな仕打ちをしたのか、俺はハッキリと覚えているぞ……!

 ソイツら全員、かつてのエリカみてぇに土下座させてやる……!



 今日も、背中めがけて飛んでくるガムやコンパスの針のイジメに晒されながら、いったいどんな辱めを与えてやろうか、と考えていた。

 そうこうしているうちに、あっという間に昼休みになる。


 リンはいつものように、チラッと俺を見たあと、さっさと教室から出て行ってしまった。

 アイツは唯一イジメに参加してないようだから、レオンの息も、エリカの息もかかってないんだろう。


 まさしく中立……ハーフな存在。でも、助けることもしやがらねぇ。


 たしかアイツのルールだと、好きな物に落書きされた場合、二時間の絶交だったはず。

 でも、もう長いこと口を聞いてない気がする。


 どうやら俺はアイツに対して、「好きな物への落書き」以上の悪さをしてしまったらしい。

 いつになったら、許してくれることやら……でも、機嫌がよくなるまで待ってるわけにはいかねぇんだよな。


 俺は立ち上がると、リンの後を追った。

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