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「嬉しい……私……とっても嬉しい……! うん……なる!

 私が顧問になるから……はあれむ同好会、つくろうね!」


 なにが嬉しいのかわからなかったのと、ハーレムの発音がおかしいのが気になったが……。

 よかった、どうやら顧問の承諾は取り付けたようだ……!


 俺は安堵したが、ルナナの声は急に沈みがちになる。


「私、心配だったの。サンちゃんは教室でもいつもひとりぼっちで過ごしてて……。

 もしかして、お友達がいないんじゃないかって思って……でも、最近は華一さんや大西さんと一緒にお昼ごはんを食べる姿を見たから、ホッとしてたんだけど……。

 いきなり雷横さんとすごく仲良しになってたりしたから、ちょっとビックリしちゃったんだけど、お友達ができたんだなぁって思って……」


 顔は見えなかったが、心の底から心配しているようだった。

 コイツがここまで知っていたとは思わず、俺はちょっと動揺してしまった。


「でも、昨日の夜は大怪我して帰ってきたでしょう?

 お友達となにかあったのかともう心配で心配で……。

 でも……同好会を作りたいってことは、お友達がいっぱいできたってことよね?

 学校生活にやる気を出してくれたことが、私、とっても嬉しくって……!」


 ルナナは感極まってしまったのか、エプロンを翻す勢いで、ついに振り返った。


 傷だらけの俺を、戦地から奇跡的に生還した夫のように、まっすぐに見つめている。

 泣き笑いのような顔……喜びに見開いていた瞳は、水に沈んでいるかのように揺らいでいた。


 そして、瞬きをした拍子にあふれ出し……頬を光の帯となって伝う……!


 次の瞬間、

 ……ドクンッ!

 と心臓を、スレッジハンマーでブン殴られたようなショックが襲った。


 そして、比喩ではなく……たしかに感じる……!

 俺の身体がフルスロットルになるのを……!


 頭の中では目覚まし時計のベルが鳴り響き……アドレナリンが脳から、チーズフォンデュのように染み出す……!

 赤血球がギュンギュンと血管の中を暴走し、かつてないほど血が滾る……!


「お……おう! 俺は絶対に! ハーレム同好会を作ってやる! 命にかえても!

 俺はやる! やるぞっ! やるぞっ! やるぞぉー! やぁーるぞぉぉぉーっ!!」


 俺は天地神明に誓うように、両の拳を突き上げる。


「おーっ! やろーっ!」


 涙ながらにバンザイするルナナ。


「……なによ、うるさいなぁ」


 隣で作業していたバンビは、またメンドくさいことが始まった、みたいな顔をしていた。

 もらったイチゴを抱えながら食べていたテュリスも、同じような顔をしていた。


 この2人……シニカルなところはなんか似てるな。


「旦那……女の涙には騙されん言うとったやん」


「本気で流した涙は別だ!」


「いや、アレたぶん、タマネギ……」


「うるせぇ! ワケのわからねぇこと言ってねぇで、さっさと部屋に戻るぞ!

 ハーレム同好会設立のための作戦会議だ!」


 俺は妖精を置き去りにする勢いで、リビングを飛び出す。

 3段抜かしする勢いで、部屋への階段を駆け上がった。



 ……その日の夜、俺は夢を見た。


 夢の中の俺は、自分の部屋ではない、他の誰かの部屋のベッドに寝ていた。

 部屋の主であろう人影は、俺に背を向けて机に向かっていた。


 デスクライトのみの明かりに照らされたシルエット。

 左手の指先で、髪の毛先を苛立つように弄んでいた。


 「あーあ、また、やっちゃった……」とつぶやきながら、右手に持ったクシャクシャの紙片を眺めている。

 時折、自分の髪をもクシャクシャにするみたいに頭を抱えていた。


 ソイツが悔やんでいるのは傍目にもわかったが、何に対してなのかはわからない。

 ベッドから起き上がって、近づいてみたらハッキリするんだろうが……面倒くさかったのでそれはしなかった。


 ソイツは俺が意識を失うまで、いつまでいつまでもウジウジと悩んでいた。


 しばらくして再び意識を取り戻す。

 どうやら、変な夢から覚めたらしい。


 しかし瞼を開けてみても、あたりは真っ暗闇だった。

 でも、おかしい……耳にはたしかに小鳥のさえずりが聞こえる。


 俺はいつも朝、窓の外に来る小鳥たちの鳴き声か、ルナナかバンビの声で目覚めるんだ。

 しかし窓があるはずの方角に首を動かしてみても、まるで墨で塗りつぶされたような暗黒が広がっていた。


 もしかしてまだ夢の中なのか? と思ったが違った。

 寝ている最中に額に巻いていたバンダナがずり落ち、それが目隠しとなっていたのだ。


 ベットから起き出し、ゆるんだバンダナをハチマキのようにぎゅっと締め直すと……なんだか気持ちまで引き締まったような気がした。


「よし、俺はハーレム王になるっ!」


 ……と、朝に宣言し、意気揚々と登校したまではよかったのだが……クラスメイトの反応が、明らかにいつもと違っていた。

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