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080 ハーレム同好会

 次の日。廊下に残った血痕を辿ったルナナによって見つかってしまい、俺は手当を受けた。

 それだけならまだしも、つきっきりで看病しようとしてきたので部屋から追い出した。


 その後、俺はデレノートの置かれた机に向かい、厳かな気持ちで椅子に腰掛ける。

 ついでに目にした『ファイナルメンテナンス』のアップデート状況は、50パーセントだった。


 つままれストラップのように、パソコンモニターの角に引っかかっている妖精に向かって、俺は言う。


「……俺は決めた」


「なんやぁ?」


 テュリスはやる気ゼロといった感じで身体をぐったりと曲げ、両手をだらんと下げていたが、


「絶対にハーレム王になるぞ」


 という俺の言葉に、ただなぬものを感じたのか顔を上げた。


「おぉう? 気持ちを新たにしたっちゅうことか?」


 プーンと羽音とともに飛んできた虫みたいなヤツに、俺はうむ、と頷き返す。


「ああ……俺は最初、バンビのためと、そしてこのフザけたバンダナとグローブを取るためにハーレム王を目指していた」


「……あ、わかった。新しい目標を見出したんやな?」


 言葉を被せてくる妖精。相変わらず察しがいいな。


「そうだ。リア充になれば、デレノートが使い放題になるんだろ?

 俺はデレノートを使って、もういちどエリカを奴隷化する。

 そして、その後はすべての女をエリカのように奴隷化してやる……!」


 昨夜の屈辱がフラッシュバックして、俺はいつのまにか拳を掲げていた。


「じゃあ、デレノート破らんとよかったのに」


 熱弁に対し、冷水を浴びせてくるようなテュリス。

 だけど俺のハートは焼け石のようになっていたので、いくら的確な突っ込みであっても屈しなかった。


「だから……俺はもう二度と、女の涙の前には動じねぇって決めた……!

 泣いても喚いても、絶対に情けをかけることはしねぇ……。

 いちど俺の女になったら、終身奴隷にしてやる……!」


 昨夜はついエリカの涙に情けをかけちまったが、そんなことをしてもロクな結果が待っていないことを身をもって知った。

 奴隷化したら、家畜のようにひたすら搾取する……それがデレノートの正しい使い方だったんだ。


 しかし妖精は、なおも水を差す態度を崩さない。


「ワイの立場だけでいえば、ハーレム王になる決意を強めてくれたのは嬉しいんやけど……デレノートでしている恋愛は、いわばニセモノみたいなもんや。

 体験してみてわかったやろ?

 旦那のどんな所が好きかとかそういうものが一切ない、禁断症状みたいな感情だけや。

 そんなんでハーレムを作ったところで、砂上の楼閣やで?

 ホンモノの恋愛っちゅうのはな、相手と一緒になにかを成し遂げて、相手と一緒に歩いて行くということなんや」


「相手と一緒になにかを成し遂げるなんて、そんなめんどくせぇこと、できるかよ……」


「でも、デレノートを使う前の旦那は、それをやろうとしてたやん」


「……なんだと?」


 妖精の説教なんざ、俺は吐き捨てるつもりだったが……意外な一言に、つい拾いあげちまった。


「まず、リンについては、女の子になりたいという願いに対し、旦那は求婚という答えを出した……。

 これは『まわりからどんなに白い目で見られようとも、俺だけはずっと味方でいる』という意思表示をしたかったんやろ?

 ちょっと突飛で極端すぎるような気もするけど、旦那が味方でいてくれるという安心感が、リンが性別を乗り越える決意をさせたんやと思うで」


 うん、と自分自身で再確認するように頷いたテュリスは、さらに続ける。


「シキについてもそうや。

 シキが憧れているシチュエーションを、旦那なりに再現してやることで、ずっと抱いていた声へのコンプレックスを取り除いた……。

 リンもシキも、ひとりではできんかったことや。わかるか?

 自分がどれだけのことを成し遂げてきたかを。

 それは、マジになっている人間を応援したいっていう、旦那がガキの頃から持っとる熱い思いから来たモノなんや……。

 ビッチどもにからかわれて押し込めていた思いが、恋愛チーターをきっかけにして、再び顔を現したんや……!」


 熱を帯びていくティリスの弁。

 コイツはコイツなりに、思うところがあるんだろう。


「背中を押してやった女は、さらなる高みに昇るんや!

 そしてそこから男を引き上げてくれる……!

 男と女っちゅうのはそうやって、お互いを引っ張りあって、どんどん上へ上へと昇っていくもんなんや!

 わかるか、モテモテ坂はひとりで登るもんやない、女たちと一緒に昇っていくもんなんや!

 そしてそれができるのが、真のハーレム王なんや……!」


 テュリスは「恋愛とはこうあるべきだ!」と熱血教師のように語っていたが、すでに腐ったミカンのようになっていた俺の心には響かない。

 むしろ天秤のように、ヤツが熱くなればなるほど、俺は冷めていくのを感じてた。


 仮に、リンとシキの背中を押してやったとしよう。

 でも、ヤツらは俺に何をしてくれた?


 むしろ、デレノートのエリカのほうが、俺にとっては心地良かった。

 対等よりも、牧場主と家畜の関係のほうが、俺には合ってるんだ。


 女とともに手を取り合って、ピラミッドに登るなんて……バカバカしい。

 もし引っ張り上げる女が、途中で手を離したらどうなる? 俺だけまっさかまさだ。


 そんな思いをするくらいだったら、俺は女でできたピラミッドを踏みつけて登りたい。

 例え頂点に着いた時点で、崩壊する運命にあってもだ。


 それに崩れ去る時は、下にいる女どもも諸共。みんなでまっさかさまだ。

 俺ひとりだけが、痛い思いをするのはもうたくさんなんだ……!


「……もういい、テュリス。

 本物の愛を求めてこんなに辛い思いをするんだったら、俺はニセモノでじゅうぶんだ。

 これは、俺が望んだ恋愛……お前と愛の真贋について語り合うつもりはねぇ。

 さっさと次のレベルアップのための作戦会議をするぞ」

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