077 はじめてのデート
その日の夜、我が家の食卓ではルナナとバンビがやけに気にしていた。
どうやら俺が、エリカをいじめているという噂が流れているらしい。
教師のルナナと、小学部のバンビまでもがもう知ってるとは……俺は改めて、噂の高速っぷりに驚いていた。
でも、俺はふたりに言ってやったさ。
「そんな噂、週明けにはなくなってるさ」と。
食事を終えて自室に戻ったところで、さっそくエリカを覗いてみることにした。
きっと、さらなる苦痛に晒されているだろうと思ったからだ。
案の定、エリカは部屋のベッドの上で、身体を投げ出し喘いでいた。
それも制服のまんまで……着替える時間も惜しかったんだろうな。
額に玉の汗を浮かべながら、熱にうなされるかのようにウンウンと身悶えしている。
めくれあがったスカートもおかまいなしに、艶めかしい太ももをよじらせていた。
デレノートで俺にベタ惚れなせいか、ルナナを視たときと同じくらい仔細までハッキリしてる。
のけぞったうなじの産毛、ハァハァという熱い吐息や、胸からつぅと垂れ落ちる汗の粒……JKギャルのあられもない姿が、手中にあるかのようにハッキリと見える……!
開け放たれたブラウスとブラからまろび出た双丘は、波打つように小刻みに震えている。
ショートケーキでいうところの、イチゴに相当するあたりからカップとホースが伸びていて、ウインウインと機械音がしていた。
やはり予想していたとおり、明日に備えたケアをやっているようだな。
今日の放課後、デートの待ち合わせ場所を決めるときに言ってやったんだ。
「あ、ひとつ言っとくが、俺は陥没乳首の女が死ぬほど嫌いなんだ。
もしお前が陥没乳首だったりしたらエッチどころじゃねぇ、一生絶縁だからな」
そん時のビッチったらなかったね、医者から末期ガンを告知されたみたいな顔してやんの。
そんで俺と別れるなり猛ダッシュして帰ってったな。
きっと、今使っている乳首吸引の装置を買いに走ってたんだろう。
しかも時間がないからって、最大パワーで吸引しているようだ。
まるでバラエティ番組の罰ゲームみたいになってるじゃねぇか。
ふふ、ムチャしやがって。
「うぅ……痛い、痛いよぉ……でも、ガマンだよね……明日、三十郎とデートなんだから、それまでに治さないと……嫌われちゃう……!
三十郎に嫌われるのだけは、絶対ありえないから……!
あうっ、イテテテテテ……!」
念仏のように自分を励ましながら、痛みを堪えているエリカ。
「これを狙ってたんやな」
苦痛に歪む顔を見下ろしていたテュリスは、いつもよりだいぶ冷めた様子で言った。
俺はチッと舌打ちする。
「うるせぇな。このバンダナも、手袋も、デレノートも……俺が受け継いだチート能力なんだろ?
だったらどう使おうと勝手じゃねぇか」
「別に責めとるわけちゃうよ。
目標であるギャルは口説き落としたんやし、ちゃんとハーレム王を目指してる以上、文句は言わへんよ」
妖精は俺の目の前まで飛んでくると、まっすぐ見据えながら続ける。
「……でもな、チーターの力は女を苦しめるためにあるんやない、女を幸せにするためにあるんやで」
それだけ言い捨てると、どこかへ飛んでいってしまった。
次の日。昼頃に目覚めた俺は、再びエリカの様子を視てみた。
もしかしたらもう帰ってるかなと思ったが、まだデートの待ち合わせ場所にいた。
俺が指定した場所は、桜葉町の駅前広場。
市場に魚を見に行くとかなんとか言って、朝4時に来るよう命じたんだ。
エリカは広場のベンチに座ったまま往来を眺め「三十郎、おっそいなぁ……もしかして事故にでもあったんじゃ……」と不安そうにしている。
もう8時間は待ちぼうけだろうに、俺の心配をするなんて健気なこって。
お探しの人間は目の前に立ってるんだが、もちろん気づくはずもない。
それにコイツは俺の電話番号やメアドを知らない。
昨日「待ち合わせするなら」って何度も聞かれたけど、ずっとはぐらかして教えてやらなかったんだ。
だからコイツは、連絡をすることもできず……ただただ俺を待ち続けるしかないんだ。
でも……俺は永久に行く気はないから、とっとと帰ったほうがいいと思うんだけどなぁ、ふふふふふ……。
だ……ダメだ、コイツが8時間もこうしてたんだと思うと、自然と笑いがこみあげてくる。
さんざん俺をバカにしてきた報いを、今まさに受けているんだ……!
しかも当人はそのことを知らず、俺が来ると信じて、アホ面さらして待ち続けてる……!
8時間も待ってこないんだったら、絶対来るわけねぇのに、まだ待つつもりだよ……!
たまらねぇ、笑いが止まらねぇ! 傑作だ!
ああ、気持ちいい……! なんて気持ちいいんだ!
親に捨てられたとも知らず、待ち続ける子供みてぇなコイツを眺めてると、心が洗われるようだ……!
心の奥底に澱のようにたまっていた汚れが、きれいさっぱり洗い流されたような……実にスッキリとした、爽快な気分……!
俺を他の誰かと見間違えて顔を明るくして、人違いだとわかったとたん落ち込む……その顔、たまらねぇ……!
それだけでたまらないエクスタシーが湧き上がってくる……!
昼に食堂で感じたゾクゾクが、ずっと続いてる……!
復讐からは何も生まれないなんて絶対にウソだ……!
俺はこんなに前向きで、生産的な気持ちになっているぞ……!
もし俺がウミガメだったら、間違いなく産卵してたレベル……!
俺が最初に感じたのは、さんざん騙されてきたエリカを騙し返してやったという達成感だった。
それはやがて復讐を遂げたという爽快感に変わり、そして最後にはたまらない官能となって俺を包んでいた。
もう笑いを堪えるのはやめだ、往来の真ん中で地面に寝っ転がり、腹を抱えて爆笑する。
こっからだと、悲しそうにうつむいたビッチ顔もハッキリ見え、それがまた笑いを誘う。
しかも角度的に、たまにパンツが見えるのがまたオツなんだ……!




