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 現在のレベル:2・キョロ充レベル

 次のレベル:3・似非リア充レベル

 レベルアップ特典:デレノート使用時の寿命減少が5割から1割に

 レベルアップ条件: ギャルをひとり口説く

 ファーストキス難易度:プレイステーションのトロフィーレベル60取得と同等の努力を要する

 卒業難易度: 日常生活で隕石に命中するのと同等の運を要する

 備考:ただし対象を家族か男友達とした場合、土下座だけで達成可能


 俺はついに動物を脱し、人間になることができた。

 でも、ノートのイラストがあたりを落ち着きなく見回す人影だったので、不審者みたいであまり嬉しさはなかった。


「やっとキョロ充かよ……」


 あんだけのことをやって、まだ悪口みたいな称号とは……。

 あまりの報われなさに、机にへたり込む思いだったが、コーチ役の妖精はまだまだという感じで腕を組んでいた。


「なに言うてんの、これでもだいぶ甘い判定なんやで。

 友達がふたりしかおらんキョロ充なんて聞いたことないやろ……あっ」


 途中で何かを思い出したように、ぽふ、と小さな手を打つ。


「そうそう、人間レベル以上になると『VRバンダナ』がちょっとだけ鮮明になるんやで」


「ちょっとだけ、ってどのくらいだよ?」


 俺は机に突っ伏したまま、目線だけ向ける。


「PS4が、Proになるくらいやな」


「ほんのちょっとじゃねぇか……」


 コイツの言う例えはいつもわかり辛いが、これはわかった。

 ゲーマーの俺としては喜ぶべきなんだろうが、何の感動も沸いてこねぇ。


「まぁまぁ、そう言わんと、試しにリンとシキでも覗いてみ? まずはリンあたりから」


 そう言いながら飛んできたテュリスが、俺のバンダナにぴたっと張り付く。

 重さでずるりと下がると、世界が勝手に縮まる。


 いつもは俺の部屋と同じくらいか、それよりだいぶ広い所に行くんだが……今回は狭くなった。

 そこにあったのは……地上波ドラマのサービスシーンのような世界だった。


 ざあざあ、ちゃぱちゃぱと水の流れる音が反響する小部屋には……もうもうと立ち上る湯気に包まれた、背後のシルエット。


 雨に打たれているかのように全身びしょ濡れで、髪や身体のあちこちから透明の細い筋を垂らしていた。

 背中のラインだけ見ると完全に女子高生の身体つきだったが、水音に混じる鼻歌のおかげで、俺の一風変わった友達だとわかり……先走らずに済んだ。


 リンは、シャワーの真っ最中だった。


 いくつもの雫を浮かべるうなじは血色良い肌色。

 まだ子供っぽさが残るが、健康的な色気を醸し出している。


 そこから続く背中のラインはなぜかぐっと女らしくなり、クリーム色の花瓶みたいだ。

 腰はキュッと締まって細く、なだらかに盛り上がった臀部はいかにも柔らかそうで、剥いたゆで卵みたいにつるんとしてる。


 この、実に紛らわしい全身(ボディ)……!


 念仏のように男だと言い聞かせてないとあっさり理性を吹き飛ばされるレベルだ。

 このまま眺め続けていると頭の中に悪魔が入ってきそうだったので、もっと寄って肩から上だけを視界に入れるようにしよう。


 近づいていくと、気配を察したかのように背中が振り向いた。


 水もしたたるリンと目が合う。

 驚きと戸惑いの入り混じった上目遣いで見つめられ、思わずドキリとしてしまった。


「さ……三十郎!?」


 続けざまに名前を呼ばれ、


「えっ……!?」


 と声をあげてしまった。

 まさか、向こうもこっちが見えてるのか……!?


 リンは怯えたような表情で、一歩後ずさりする。

 タイル張りの壁際に、追い詰められたように身体をぴったりとくっつけた。


 なんでだよっ……!? 気づかれるなんて、今までなかったことなのに……!?

 覗いているターゲットに近づくなんて、今まで何度もやってきたことなのに……気づかれたのは初めてだ……!


「これは……いったいどういうこと……?」


 問い詰められて、


「あっ、い、いや、これは……これはその……」


 俺はしどろもどろだった。

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