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056 緊急ミッション

 そして……次の日。

 四時間目の授業の終わり際。


 これが終わればシキ待望の昼休みか……今日は俺からもなるべく話しかけてやるかなぁ……などと思いつつ、カバンの中に筆記用具をしまう。

 ふと、カバンに入れっぱなしにしていたデレノートからうっすら赤い光が漏れていることに気付いた。


 授業のまとめに入っている教師に見つからないように、コッソリ机の上に出して開いてみると……レベルアップ条件のところに赤文字で『緊急ミッション発生!』とあった。


「おい、これはなんだ?」


 胸ポケットに向かってささやきかけると、ひょこっと顔が出てきて、


「緊急ミッションやな」


 緊急感のカケラもない声が返ってきた。

 そのまま引っ込もうとしていたので、摘んで引き戻す。


「な、なんやねんな?」


「おい……『緊急ミッション』って、なんかヤバそうな響きじゃねぇか! ちゃんと教えろ!」


 妖精はさも面倒くさそうに口を開いたかと思うと、大きなアクビついでに教えてくれた。。


「ふぁ~あ、別にたいしたことやあらへん、書いてある条件を制限時間内に達成すれば、2レベルアップするっちゅうだけのことや。あと、ちょっとしたオマケもつくけどな」


「達成できなかったらどうなるんだ?」


「高レベル……具体的にはリア充レベルより上やとペナルティがあるんやけど、今は低レベルやから達成できなくても何ともあらへんよ。だからほっといてもかまへん」


 『緊急ミッション』の側にある小さな赤字を読んでみると……『大西シキを1時間以内に口説け!』とある。


 い……1時間!? 昼休み中ってことじゃねぇか! 昨日初めて一緒に昼メシを食っただけの相手だってのに……絶対に無理だ!

 俺は、いてもたってもいられない焦燥感に包まれる。


 妖精はほっといてもいいといっていたが、俺はそのつもりはなかった。

 なぜならこれは……ゲーマーの性とでもいうやつだろうか。


 『ファイナルメンテナンス』をはじめとするネットゲームには「緊急ミッション」というのがよくある。

 同じように時間制限があって大変なんだが、得られる見返りが大きいんだ。


 そして俺はその「緊急ミッション」を取りこぼしたことは一度もなかった。

 ゲームにおいては完璧主義というかなんというか、どんな理不尽なミッションでもキッチリ全部こなしておかないとスッキリしない。


 ミッションリストに「未達成」があるともどかしくてしょうがねぇんだ。

 この気持ち、妖精に熱弁したところでわかってくれそうもなかったので、もう端的に命令することにした。


「おい、テュリス! 昼休み中にシキを口説き落とせる手を考えろ!」


「はぁ? 旦那、緊急ミッションに挑戦するつもりなん? ほっといてもええ言うたやん!」


「いいからとっとと考えろ! でないと校舎の裏に住み着いてる野良猫一家のランチにするぞ!」


「そ、そんな!? そりゃムチャ振りにも程があるがな!」


「グチってるヒマがあったら考えろ! 思いついたら教えろ、いいな!」


 昼休みのチャイムが鳴ったので立ち上がると、ちょうどリンが誘いにきた。

 一緒に教室を出て、食堂へと向かう。


 道中、ちらりと胸ポケットを一瞥すると、空っぽだった。

 いつの間にか妖精は肩の上であぐらをかいていて、「ポクポクポクポク」とつぶやきながら人さし指でこめかみを揉んでいた。


 どうやら妙案を捻り出そうしているらしい。

 ポケットを出ちまってるが、そのほうが考えやすいのであればしょうがない、と見逃す。


 食堂に着くとシキはいつもの最深部、昨日と同じ場所にいた。


 俺たちを待っているのかトレイの焼鮭定食には手をつけておらず、肩を寄せたままうつむいている。

 緊張しているのか、石のように固まったままだ。


「シキちゃーん! お待たせー!」


 ロコモコ丼の載ったトレイを手にしたリンが、シキの右隣に座った。


 俺は勇気を振り絞ってシキの左隣に挑戦する。

 口説く以上、その位置取りは必須だと思ったからだ。


 正面に座るのは何ともなかった……テーブルがあるおかげで、自然と距離をあける形になるからな。

 でも、隣に座るとなると……ちょっと腕を動かせば肘が触れるくらいの距離なので、なかなか抵抗感がある。


 シキも同じ気持ちだったのか、近づいたとたん低周波治療器を最大にされたかのように身体を跳ねさせていた。

 が、俺は「ままよ!」とばかりにどすんと腰かける。


 するととうとう、家に来たばかりのチワワのようにプルプル震えだしやがった。

 そんなに嫌なのか……? と何度離れようかと思ったが、心を鬼にしてポールポジションに居座る。


 口説きの第一声として、「隣、いいよな? なんだったら、アーンって食べさせてくれてもいいぜ?」とかっこよく声をかけようとしたのだが、


「とっとっととと……隣……いい……ぜ?」


 まるでシキみたいな謎の震え声になっちまった。

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