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 シキはお気に入りの本をまた最初から読み返しはじめたので、俺は付き合いきれなくなってバンダナを額に戻した。


 サーバーダウンちゃんの声を聞いたせいで、急に『ファイナルメンテナンス』が恋しくなっちまった。

 でも、まだアップデート中。PCモニタには30%ほどのプログレスバーが映っている。


 肩の上の妖精はというと、脇目も振らずに両手の指を激しく絡みあわせて何かをやっていた。


「……それは、何をやってるんだ?」


「これか? クモのケンカや」


「クモのケンカ?」


「ああ、自分にも勝敗がわからんからオモロいでぇ」


 言われて理解した。右手と左手をそれぞれクモに見立てて戦わせる手遊びだったのか。

 でも、自分でやってんだから勝敗がわからねぇなんてことはないだろ。


 もしかしたら、これも古いネタなのか? と思ったが、興味もないので触れずにおいた。

 それよりも、もっと聞きたいことがあったんだ。


「ところでさ、ひとつ聞いてもいいか?」


「なんや?」


「なんでシキは、ハルカの正体を隠してるんだ?」


「目立つのが嫌や言うとったやん」


 まだケンカは続いていたが、打てば響くような即答だった。


「なんで目立つのが嫌なんだ?」


「笑われる言うとったやん」


「なんで笑われると思ったんだ?」


「さぁ? 明日にでも本人に聞いてみたらええやん」


 熟練の老夫婦の餅つきのようなスムーズなやりとりだったが、求めている答えはそんなんじゃねぇんだ。


「そんなこと聞いたら覗いてるのがバレちまうじゃねぇか!

 だからお前の推理を聞かせろって言ってんだよ!」


「ああ、なんや、それならそうと言いなはれや」


 顔をあげるテュリス、つられて俺のほうを向いた右手が不意をつかれ、左手に押し倒されていた。

 それからワシャワシャやっているうちに、右手が動かなくなった。どうやら左手の勝利のようだ。


 妖精はいい汗かいたとばかりに額を拭いながら、肩から飛び立っていく。

 しばらくして例の帽子とコートとパイプの三点セットを身に着けて戻ってきた。


 三度目ともなるとだいぶ探偵ぶりも堂に入っているな……と思っていたら、


「ボク、トイレ~」


 とミニチュアのオマルに跨ったまま俺の顔の周りをグルグル周回しだした。

 突っ込んで欲しいのか、目の前を通り過ぎる時にチラチラ目配せしている。


 ひたすら無視を続けていると、


「えーっと、まず確認やけど……」


 根負けしたのか、推理を始めた。


「シキの地声はアニメ声のほうで、眼鏡のときのボソボソしゃべりが作っとるほうやってのは間違いないよな?」


「……ああ、そう思う。

 独り言も、姉との会話もサーバーダウンちゃんの声だったし、きっと家ではそうなんだろう。

 ってことは、地声と判断してもよさそうだ」


「なら、次に疑問なのは……なんで学校ではあんな地味な格好をして、ボソボソしゃべりをしとるかってことやね」


「だな」


「旦那、小学校のときの卒業アルバムある?」


「ああ、たしか隣の部屋にあったはず」


 俺はストレージから小学校の卒業アルバムを引っ張り出してくると、机の上で広げた。


「おやぁ、小学校のときの旦那ってめんこい顔しとったんやなぁ」


 推理の手助けをするために持ってきてやったのに、テュリスはガキの頃の俺を見つけた途端そっちに食いついた。

 俺が映っている写真が他にもないかとしきりに探している。


「俺のことはどうでもいいだろ、いまはシキを探せよ」


「でもでも旦那、中学のアルバムと違って、なんかリア充っぽいで?」


 オマルの下には、運動会のときの写真があった。


 一位のフラッグふたりで持つ、幼い頃の俺とリン。

 祝福する多くのクラスメイトたちに囲まれている。


「ああ、この頃は友達がたくさんいたんだ。勉強もスポーツもできたから、女にもモテた」


「ホンマに神童やったんや……でもそれがどないしてこんなに落ちぶれてもうたんや?

 実は旦那、前作主人公やったりするん?」


「落ちぶれた言うな、俺はより高みに昇華しただけだ。くだらないヤツらを置き去りにしてな。

 それよりも、シキを探すんじゃなかったのか?」


「え、でも、なんか旦那の過去のほうが面白」「挟んで捨てるぞ」


 脅してようやく、テュリスはシキのほうに意識を切り替えた。

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