047
現在のレベル:-1・猿レベル
次のレベル:1・人間レベル
レベルアップ特典:デレノート使用時の寿命減少が20割から10割に
レベルアップ条件:異性の友人をひとり作る
ファーストキス難易度:MIT首席卒業と同等の努力を要する
卒業難易度: 麻雀で天和をあがるのと同等の運を要する
備考:ただし対象を家族か男友達とした場合、土下座だけで達成可能
「無事、ターゲットの眼鏡女と知り合いになれたようやから、次は友達になるための策略やね」
開いたデレノートの上に文鎮のように据わる妖精が、俺の顔を見上げながら言った。
「友達って、シキと友達になれってことか?
……なぁ、他のやつに変えちゃダメか?」
俺はげっそりした気分だった。もしかしたら頬もこけていたかもしれない。
実際にシキと接触したのは総計で30分もないのだが、痩せるような思いだった。
それに知り合いになれたとはいえ、それだけのコミュニケーションすらとれた気がしなかった。
さらにこれから先もとれる気がしねぇ。
地球外からやって来た、美少女エイリアンを口説けと言われるほうがまだやれそうだ。
しかし、異世界からやって来たような妖精は首を左右に振った。
「せっかく名前を覚えてもらったんやから、引き続き眼鏡女にアプローチするのがええんやって、鉄は熱いうちに打て、や!」
「お前は鬼みたいなフェアリーだな」
すると、さも心外そうな顔つきをされた。
「全部旦那が選んだんやろ? それに、眼鏡女の部屋はまだ覗いてへんやないか。
図書館で本読んでるところを視ただけや。
校門で旦那と話したあと、眼鏡女は帰ったんやろ? なら視てみたらええやん」
なんか引っかかる物の言い方だった。
「シキの部屋を覗いたら、俺の考えが変わるみたいな言い方じゃねぇか」
「うぃ、変わると思うで。これはさっきの推理よりは自信ないけどな」
まんざらでもなさそうなテュリスに、ちょっとイラっときた。
「チッ、なんでもお見通しみてぇな顔しやがって。
そこまで言うなら視てやるよ。だけど俺の気持ちが変わらなかった覚悟しろよ」
俺はブツクサ言いながら、半ば引きずり降ろすようにしてバンダナを下げた。
「今度はコンクリートの壁に叩きつけて……や……る……」
脅かすようだった俺の言葉が、ピタリと止まる。
それどころか、アゴが外れんばかりに口をあんぐりと開けてしまった。
俺のまわりには、既視感ある世界があった。
それも、かつて視たときより鮮明に、初代PSくらいにグレードアップして。
間違いなく大西シキのことを思い浮かべながら操作したはずのに……。
俺はなぜか、アイドル声優の秋冬春夏の部屋にいたのだ。
「ど……どういうことだ……!?」
俺は混乱しつつも、3日前に『VRバンダナ』の力を初めて使った時のことを思い出していた。
かつて視たハルカの部屋と、俺が今いるシキの部屋は、寸分たがわぬレイアウトだった。
例のクマのぬいぐるみと、特徴的な本棚もちゃんとあった。
数日ぶりの、ハルカの部屋。
その机には、俺が数時間前にディスコミュニケーションをしていた大西シキが着席している……!
そして、また熱心に読書をしてやがる……!
「ハルカの部屋に、シキが侵入したのか……!?」
俺の肩で、ずしゃっ、とずっこけるような音が聞こえた。
「んなわけあるかい! 眼鏡女の正体は声優やったんや……ムギュッ!?」
すかさず肩に向かって手を伸ばし、倒れていた妖精の身体をさらう。
胴体を両手で握りしめ、藁人形のように恨みを込めて睨んだ。
「お前……知ってたのか……!?」
「そう怖い顔せんと……これもただの推理やって、す・い・り」
「その推理とやらを、聞かせろ……!」
目線で先を促したが、テュリスは例のもったいつけるような薄ら笑いでそっぽを向きやがった。
腹立ちにまかせてギュッと締め上げてやると、不承不承といった様子で語りはじめる。
「べっ、別に、たいしたネタやないんや。
なんとなく顔の作りが似てるなと思うて、旦那がおらん間にアニメ雑誌と卒業アルバムを見比べとったんよね。
あ、ちなみに、怪しむキッカケになったのは名前や」
「名前……だと?」
「ホラ、秋冬春夏と、四季。……本名を芸名の由来にしたんやろうね」
「そういうことか……」
そう口に出してはみたものの、俺はまだ受け入れられずにいた。
今をときめくアイドル声優と、あの常に毒電波を浴びてるような女が、同一人物だと……?
「ところで、どや? これでもやる気が出ぇへんか?」
握りしめられたまま、妖精は俺をからかった。
信じられねぇ……まだ信じられねぇが……やる気だけは出てきた。
本当に同一人物かどうか、この俺が、確かめてやる……!
「いいや……やってやる。俺はやる……! やったるでぇ!」
俺はテュリスを自由にしてやると、宣戦布告をキメる。
なおも机に向かう三つ編み女の後頭部、その稲妻のような分け目をビシッと指さした。
「待ってろよ……人気声優と呼ばれるお前の正体、暴いてやる……!
あんな死にかけの蚊みてぇな声じゃなく、あのよく通る鈴なり声で、俺の名前を呼ばせてやる……!」
声優さんにキャラの声で、名前を読んでもらうのはある種の夢だよな、と思った。




