036
『タッチでドッキリ作戦』。その詳細はこうだ。
まず、図書館でこっそり様子を伺って、ターゲットが本棚に近づいたときに背後から接近する。
ターゲットが本を取ろうとしたときに、すかさず同じ本に手を伸ばす。
手が触れあって、あっ、となる。
そこで一言、
『おっと、君もこの本好きなの? 僕もなんだ。
……あっ、ゴメンゴメン、僕は寿三十郎。三度のメシが本なんだ。
良かったら、この本について夜明けまで語り合わない?
そう、ちょうどステキなお城を知ってるんだ、よかったらそこで……』
肩を抱いて図書館を出る。
「……どや? 手が触れることにより、ちょっと相手をドキっとさせられるうえに、話すキッカケまで作れるんや!
同じ本好きというアピールにもなるやろ?」
しかし俺は、気が乗らなかった。
「て……手を触んのか……? ちょっとハードすぎねぇか?」
「そこからかい!? せめて肩を抱くくだりで躊躇せいや!」
頬にドスッと突っ込んでくる妖精。
「それにもし手を触ったせいで、責任取れって言われたらどうするつもりだよ」
「言われるか! 戦後でもそんなこと言うやつおらんわ! なんぼほど純情やねん!?」
俺が及び腰なのが気に入らないのか、頬にグリグリとめり込んでくる。
「い、いきなり触るとかそんな野蛮なのじゃなくて、もうちょっとやさしいの……その手前のステップの作戦はねぇのかよ」
頬を歪めながら注文すると、落胆を形にしたような溜息をつかれた。
「はぁ……野蛮て……旦那のその妙な倫理観はいったい何やねんな……。
リンをナンパしたときに強引に手を引っ張ったんやないんかい?
そのうえメス犬呼ばわりしたそうやないか」
「あれは男だったから躊躇なく全力を出せたんだよ。実物の女が相手なら、もうちょっと経験を積まねぇと」
「そんなんでよう人のことスライムベス呼ばわりしたな!
……まぁええわ、ワイはそんなヘタレでもできる作戦も持ち合わせてるんやで!」
ヘタレ呼ばわりされてムカついたが、手は出さずに聞いた。
「ほなら次は『耳がきこえる』作戦~!」
内容によっては、壁に叩きつけてやろうと思った作戦はこうだ。
事前に、ターゲットが読んでいる本の傾向を調べておく。
ただ今回は『チックルキラー』を読んでいることがわかっているので省略。
図書館に行き、ターゲットが次に読みそうな本の貸出カードに、手当たり次第に名前を書いていく。
最初は気づかれないかしれないが、やがてターゲットは、
『まぁ、この本にもあの人の名前が書いてあるわ……。
私と同じ本が好きなこの人……いったいどんな人なの……?
ああっ、気になって夜も眠れないわ……もしかしてこの気持ち、恋……?』
という淡い気持ちを抱きはじめる。
「どや? これなら本人と直接触れあう必要はないから、野蛮ちゃうやろ?
それに名前は強烈に印象に残るはずやから、話しかけるハードルもだいぶ下がるはずやで」
しかしまたしても俺は、気が乗らなかった。
「なんか消極的っていうか、回りくどいやり方だなぁ……」
「……どの口が言うん?」
「まぁ、最初のヤツよりはマシか。その『耳がきこえる』作戦とやらを、明日さっそくやってみることにするか」
さすがの妖精もイラッときたようだったので、このあたりで手を打つことにした。
そして次の日。
いつもより早めに家を出た俺は、学校の図書館に直行した。
うちの学校の図書館は全学年、幼稚園までも利用するのでかなりデカい。
ちょっとした球場くらいある。
ただ、俺は図書館を使う授業とかでしか来たことがなかった。
本を借りたことも一度もない。
棟は円形のドーム状になっていて、外側の壁が一面ガラス張りの閲覧ブースになっている。
本棚はすべて円の内側を向く形で並んでいて、中心点にあたる部分には貸出カウンターがある。
朝は図書館の利用者も少ないようで、人の姿はほんとんどなかった。
大学生らしき私服のやつらがチラホラいるくらいだ。
あとは見回りをする司書の先生と、本を棚に戻す図書委員らしき人影。
もしかしたら例の眼鏡っ子もいるかなと思ったのだが、それらしき姿は見あたらない。
俺はまず『チックルキラー』を探すことにした。
でも、これだけ広い中で探すのは大変だなあと思っていたのだが、ところどころに置かれている検索機を使ったら簡単にありかがわかった。
現代文学区画の海外、そこからさらに北欧ブースに入った先。
イギリスコーナーと称される一角の本棚に、ずらりと並ぶ『チックルキラー』シリーズ。
1巻から全て揃っているようだったが、98巻と99巻は借りられているのか欠落していた。
俺は100巻を手に取る。まずはコイツの貸出カードに俺の名前を書いてやろう。
ふと、コイツを俺が借りたら、七並べで止めてやったみたいにシキを悶々とさせられるんじゃないかと考えた。
だが、そんなことをしているヤツを好きになってくれるとも思えなかったので、名前を書くだけにとどめておくことにする。
しかし……本のどこを探してみても、貸出カードなるものは存在しなかった。
テュリス曰く本の裏、見返しのあたりに小さな袋があって、そこに名前を書くカードが差し込んであるらしいのだが……。
おかしいなと思いつつ本をクルクル回していたら、ちょうど通りかかった司書の先生が「どうかしましたか?」と声をかけてきた。




