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034 ようやく女

 『ファイナルメンテナンス』のアップデートは、10パーセントほど進んでいた。

 ちびりとしたプログレスバーの映るPCモニタの前には、開きっぱなしのデレノート。


 ユニコーンだったイラストは、オタマジャクシに変わっていた。


 現在のレベル:-2・オタマジャクシレベル

 次のレベル:-1・猿レベル

 レベルアップ特典:デレノート使用時の寿命減少が30割から20割に

 レベルアップ条件:異性の知り会いをひとり作る

 ファーストキス難易度:国民栄誉賞を受賞するのと同等の努力を要する

 卒業難易度: ジャンボ宝くじで1等前後賞当選と同等の運を要する

 備考:ただし対象を家族か男友達とした場合、土下座だけで達成可能


 学校から帰宅した俺は、テュリスと次のレベルアップのための作戦会議を開いているところだ。


「さて……ちょっと変則的やったけど、なんとか男友達もできたことやし、次は異性の知り合いやな」


「やっぱりリンは異性としては扱われないか……」


 リンは下手な女よりもよほど女っぽいので、異性の知り合いとしてもみなされることを期待したのだが……ちゃんと性染色体で判定されるらしい。


「当たり前やがな! いったい何のハーレム作るつもりやねん!? お前は戦国武将か!」


 「戦国武将か!」のところで、自転車を飛ばしてるときに顔にぶつかってくる虫みたいに体当たりしてくるテュリス。

  これが妖精流の突っ込みなんだろうか。


「アホなこと考えんと、次は正真正銘の女の子へのアタックやでぇ、目星はついとるんか?」


 俺は評定中の信長のようにウム、と重々しく頷くと、出しっぱなしにしていた中学の卒業アルバムを開いた。


「こいつだ」


 と、アイウエオ順に並んだ女子の中から、比較的序盤のほうにいるヤツの顔を、トントンと叩く。


 髪型は長い三つ編みで、前髪は左右二本づつのヘアピンでしっかり止められている。

 キッチリした黒縁の眼鏡の奥には怯えるような半開きの瞳。


 青白い頬に「地味」という二文字を顔に貼り付けたような草食系。

 ……いや、その草食動物にすら食われてそうな、植物みたいにおとなしそうな女。


「おっ、どれどれ、見せてみ見せてみ」


 示す指のそばに着地したテュリスは、最初は未知の床下収納を覗き込むようにワクワクしていたのだが、


「ええっと、大西(おおにし)四季(シキ)……? なんや、光学迷彩かっちゅうくらい目立たんやっちゃな」


 扉を開けてみたら中には何も入ってなかった、みたいにつまらなそうにしていた。

 おおむね俺と同じような感想だが、まさにそこが目の付け所だったんだ。


 大西シキ……。

 中学ん時の修学旅行の班ぎめで、どこにも入れてもらえなかったヤツらで組まれた班のなかに、ヤツはいた。


 ちなみにヤツは旅行中も終始無言だった。

 必要最低限のことを女としゃべるのみで、男とは一度もしゃべらなかった。


 それであまりに存在感が薄くって、逆に記憶に残ってたんだ。


 ジミーちゃんってアダ名がつくほどの地味さ。

 そう呼ばれても言い返せないほどの気弱さ。


「そう、コイツは持ち前の目立たなさで、スクールカーストの底辺に追いやられている女……。

 きっと男とは手も繋いだことすらないだろう。

 いわば、恋愛ザコ……モンスターでいえばスライムベスみたいなもんだ。

 だから、練習も兼ねてピッタリの相手だと思ったんだ」


「えらい言われようやなぁ……この地味子が底辺なら、旦那は澱みたいなもんやん。

 この地味子がスライムベスなら、旦那はただのスライムやないか」


「うるせぇなぁ、俺は成長率がハンパないんだよ。コイツをのしたら、すぐにメタルキングにくらいにはなるさ」


「んー……まあ、なんでもええわ。内容や理由はどうあれ、旦那が自分の意思で選んだのが大切なんやからな。じゃあ、さっそく視てみよか」


 俺は戦いを前にした政宗のようにヨシ、と意を決して頷く。

 慣れた手つきで『VRバンダナ』の力を発動した。

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