023 ともだちひとり、できるかな?
次の日、俺は朝早く起きた。
やはり休日は、ルナナやバンビに叩き起こされなくても自然と目が覚める。
身体を起こした俺はベッドサイドに腰掛け、まずは枕元の宮棚を確認する。
そこには人形用の小さなベッドがあり、生きたねんどろいどみたいなのがスヤスヤ眠っていた。
昨晩、ルナナからゴルドニアファミリーのベッドを借りてきて、テュリス用の寝具として使っているんだ。
ベッドを借りにルナナの部屋を尋ねたとき、部屋にはバンビも一緒にいた。
ふたりともパジャマ姿で、これから寝るところのようだった。
聞いてもないのにルナナが教えてくれたんだが、怖い話を読んでひとりで寝るのが怖くなったので、バンビに頼み込んで一緒に寝てもらうことにしたらしい。
バンビは、大人のくせして……と呆れ顔だったが、俺にはすぐにわかった。
ルナナはバンビにもっと甘えてもらいたくて、そういう理由づけをしたんだろう。
バンビは強がりだから、甘えたくても自分からはしないはずだ。俺の目もあるしな。
でもルナナから頼んだことにすれば、バンビのプライドは保てたまま、人目を気にせず甘えさせることができる……。
ルナナはノホホンとしてて頼りなさそうだが、こういう時はたいしたもんだ。
ダテに教師をやってるわけじゃねぇな……とちょっと見直しちまった。
まぁ、そんな姉妹のほのぼの話はそれはさておいて……やっぱり昨日の出来事は夢なんかじゃなかったんだな。
妖精の寝顔で、改めて確信した。
ベッドから立ちあがるついでに、パソコンのモニタチェック。
『ファイナルメンテナンス』のアップデートは3パーセントほど進んでいた。
いつも長くかかるアップデートだが、今回は特に長い気がする。
スマホを使って、ツイッターなどを覗いてみたが……あまりに終わらないので阿鼻叫喚が渦巻いていた。
せっかくのゴールデンウィーク、俺もガッツリやり込むつもりだったのに完全な肩透かしだ。
でも、幸いにもというか、やむなくというか、俺にはすべきことができた。
俺は、これから友達を作らないといけない。
友達を作って、モテモテ坂への一歩を踏み出す必要がある。
『ファイナルメンテナンス』ならフレンドは100人以上いるんだが……それは友達とは認められないらしい。
俺がリアルフレンドのターゲットとして定めたのは、華一輪というクラスメイト。
女みたいな名前だなと思っていたが、まさか、人知れず女みたいな格好をしてただなんて……。
しかもソレを、ビデオカメラに収めて……。
そこまで思い返して、ふと気がつく。
もしかして、撮ったのをネットに上げてたりするのか?
俺は流し見していたツイッターから、コスプレイヤーがらみを検索してみる。
すると、あっさり見つかった。
レイヤーネーム『べル』。
コミケとかには出没せず、主に踊ってみた動画などをアップロードしているコスプレイヤーらしい。
かなり人気のようで、ダンス動画には弾幕のような大量のコメントがついていた。
コスプレは『ファイナルメンテナンス』のキャラクターオンリーのようだった。
もしかしてゲームもプレイしているのか? と思いプレイヤーサイトで名前を調べてみたが……『リン』とか『ベル』という名前は山ほど引っかかり、特定には至らなかった。
それにしても、リンのヤツがこんなコスプレ動画をアップしてるだなんて、クラスのヤツは誰も知らないはずだ。
この秘密をチラつかせてやれば、俺の手……友達にならざるを得ないはず。
でも、待てよ……よく考えたら、まだネタはひとつしかねぇ。
ちょっと覗いただけでこんなデカいヤマがあったんだ、もしかしたら、さらなる特ダネがあるんじゃねぇか?
人間ってのは、叩けば叩くほどホコリが出るもんだからな……!
思い立ったが吉日、とばかりに俺はベッドから立ち上がり、部屋の中央に移動。
再びリンのプライバシーに侵入するべく、すり下げる。
メシの時も、フロの時も、寝ている時もずっと着けているバンダナを……!
すぐさま現れる別世界。
そこでは、部屋着のようなラフな服装したリンが、机に突っ伏すようにしてスマホをいじっていた。
女ではなく、見慣れた男の格好で。
「今日は……どこに行こっかなぁ~」
実に機嫌が良さそうに、画面を親指でなぞっている。
侵入者が後ろにいるとも知らず。
俺は悠々と近づいていって、リンの肩越しにスマホの画面を覗き込む。
いじっているのはどうやら地図アプリのようだ。
「自宅」とポイントされた周囲をぐるぐると巡り、お出かけスポットを探している。
「よし、今日は天気もいいし……公園にしよっ」
どうやら近所の「さくら公園」とやらに行くようだ。
コイツがどこに行こうが勝手ではあるが、男子高校生が休みの日に、ひとりで公園かよ……。
頬を寄せるほどの距離で呆れられてるとも知らず、リンは伸びをしつつ椅子から立ち上がる。
振り向いても俺に気づくことなく、反対側の壁にあるクローゼットまで歩いていった。




