022
「そういえば……リンの部屋を視ているときにお前は『妹ちゃうと思うよ』って言ってたよな? 女装したリンのことに気づいてたのか?」
俺が横目をチラリやりつつ尋ねると、机の上で涅槃像のように横になっていた妖精は頬杖をついたまま「うぃ」と器用に頷く。
コイツはなぜか「うん」じゃなくて「うぃ」って返事するんだよな……フランス人かよ。
ま、それはさておき、
「なぜ、気がついたんだ? お前には女装を見破る力でもあるのか?」
「ううん、ただの推理やね。だって、映像が鮮明やったもん」
「……どういう意味だ?」
「仮にリンに妹がおったとしても、妹がおったことも知らんかったような口ぶりの旦那に、妹が好意を抱いているとは思えへんやろ?
ってことは、あんなに鮮明に視えることはありえへんわけや」
俺はブッダの弟子のように、黙って教えに耳を傾けていた。
少し考えて、なるほど、と手を打つ。
「そうか、相手が俺に好意を抱いているほど、視える世界は現実に近くなるんだったよな。
ってことは……あれだけ鮮明に視えるのは、かつて仲の良かった同級生以外にないだろうと推理したわけか」
「そういうことや。でも、確証は持てんかったんよ……なぜなら鮮明すぎるんよね」
「そうなのか?」
「うぃ、今は目しか合わせてへんような相手で、あんなに視えるやなんて……普通はありえへんことなんや」
それについては、なんとなく答えがわかったような気がしたが……怖いもの見たさに近い感情で尋ねてみる。
「それが、意味するものとは?」
「リンは旦那に、今もなお好意を抱いている……っちゅうことや。それもかなりの」
男に、好かれている……だと……?
だからヤツは俺をチラチラ見て、それでたまに目が合ってたってことか……?
それが幼馴染の女であったなら、恥じらいと奥ゆかしさを感じさせる、実にグッとくるシチュエーションなんだが……。
相手は女みたいな男、か……。
暗い気持ちになった俺がうつむき加減になると、テュリスは慌ててつけ加えた。
「あ、でも暗く考えることはないで、むしろこっちから話しかけるのには好都合やんか」
それもそうだな、と俺は顔をあげる。
騙されたショックがでかくて本来の目的を忘れるところだったが、いい話のネタが手に入ったと思えば大成功じゃねぇか。
「よし……そうだな。女装ネタという武器を手に入れたんだ。ソイツを最大限に利用して、リンを俺の手下にしてやる」
「だーかーらー、手下やのうて友達やって!」
「わかったわかった。
まぁ見てろって、俺が本気を出せば、取り巻きのひとりやふたり、簡単にゲットできるってことをな……!
待ってろよ、リン……! 俺の純情を弄んだ報いを、必ず受けさせてやる……!」
俺は、リンがいるであろう遠い空に向かって決意表明をする。
窓ガラスに映り込んだ俺の顔は、何年かぶりの熱い闘志に燃えていた。
いつの間にか肩の上に移動していた妖精は、ヤレヤレと肩をすくめている。
「リンも、えらいのに目ぇつけられてもうたなぁ……それに脅しはムダのような気もするけど……。
ま、話しかけるキッカケになるんやったら別にええか」




