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021

 う……。


 ううっ……。


 うううっ……!


「うぎゃああああああああああーーーーーーーーーーーっ!」


 俺は天に向かって叫ぶように身体をのけぞらせ、世紀末のような絶叫を振り絞る。


「ああっ、プラトーンみたいになって……! 旦那、落ち着け、落ち着くんや!」


 俺はそのままうつ伏せに倒れると、気が触れたように頭をかきむしり、部屋じゅうを転げ回った。


 人目もはばからず大騒ぎしていたので、心配した姉妹がノックも忘れて部屋に飛び込んでくる。


「ど、どうしたの!? サンちゃん!? 大きな声出して……!」


 ルナナは泡のついた食器を握りしめていた。

 どうやら洗い物をしている最中に駆けつけたようだ。


「大げさに騒いじゃって……どーせまたセーブデータでも消えたんでしょ?」


 廊下から呆れ顔で覗き込んでくるバンビ。


「なんでもない! なんでもないでぇ! ちょっと悪霊の神々に呼ばれただけや!」


 テュリスは余計に誤解を招きそうなことを口走ったが、


「ホラ、やっぱりゲームじゃない、心配して損しちゃった。戻ろっ、お姉ちゃん」


 バンビの勘違いで大騒ぎにならずにすんだ。


 小一時間後。


 正気を取り戻した俺は、机の上に妖精様を祀り上げると、床に土下座して拝みまくっていた。


「なんという、なんという僥倖……!

 ありがとう、ありがとうございます、テュリス様!

 あなた様が止めてくれなかったら、一体どうなっていたことか……!」


 危うくクラスメイトの男で自家発電するところだった。

 それこそ自由化にも程があるってもんだ。


 ……たまにインターネットでも、顔の映ってない美脚コスプレ画像とかがあるよな。


 ソレに一度騙されかけたことがあって、それからは性別を確認できるまでは興奮しないようにと、自分の中で検査項目を増やしたつもりだったんだが……完全に油断した。


 俺はひれ伏したまま、ひしひしと後悔を噛み締めていると、上空から妖精様のお言葉が降ってくる。


「旦那って、相当惚れっぽいようやな。それに加えてすぐ舞い上がるタイプや。

 落ちた消しゴム拾ってもらったくらいで『惚れてまうやろ~!』って心の中で叫んどるんちゃうん?」


 妖精様とはいえプライバシー無視の一言に、俺はキッと顔あげた。


「なっ、なんだよ、お前は俺の学園生活を覗き見でもしてたのか?」


 抗議の意味も込めて正座を崩す。


「見てへんけど、大体わかるわ」


 妖精はさらりと言ってのける。

 そして改まった様子で、コホンと咳払いした。


「……あのな、よう聞きや、恋愛には秘孔ってもんがあるんや。

 いわばツボ、弱点みたいなもんで、そこを突かれるとどんなに嫌いだった相手にもコロっといってまうんや」


「そんな便利なもんがあるのか? なら、それを教えろよ」


「アホ! 秘孔ってのは人それぞれ違うんや! だからそれを見つけるためにもチーターの力があるんやろうが!」


「なんだ、女を口説くための情報収集の話か? ならちゃんとやるつもりだから安心しろって」


 しかし妖精は、パンと机を叩いてさらに声を荒げた。


「ううん、そうやない! 今ワイが言いたいのは旦那の秘孔のことや!

 秘孔は普通ひとつかふたつくらいやのに、旦那は秘孔だらけやろ!

 消しゴムだけやない、他にもあるはずや!

 当てたろか? きっと朝の挨拶されただけでも惚れるやろ?

 電車で隣に座られただけでも惚れるやろ?

 女やったらどこ触られても『あべし』ってなってまうやろ!?」


 容赦ない指摘の百裂拳。

 図星を北斗七星のように突かれ、俺もつい声を荒げてしまう。


「あっ……ああ、そうだよ! その通りだよ! それが一体どうしたんだ! さっきからお前は何が言いてぇんだ!?」


「あのな、これは防御力の話でもあるんや。

 そんなんでいちいち惚れとると、悪い女にコロっていかれてまうで。

 ただでさえ旦那みたいなタイプはストーカーになりやすいんや、もうちょっと女を見る目を養わんと……」


 さんざん言い散らかして疲れたのか、テュリスはコロンと横になる。


「ったく、うるせえよ……持って回った言い方しやがって……」


 俺はふてくされたようにそっぽを向いた。


 くそ、俺の秘孔は全部正解だ。


 たしかにコスプレしたリンにも惚れてたさ。

 一目惚れさ。

 コロッとやられたさ。


 頼まれたら童貞でも土地の権利書でも、なんでも差し出してたさ……!


 ……この妖精、妙に察しがいいのが厄介だな。

 それだけならまだしも、口うるさい小姑みたいにネチネチ言うからタチが悪ぃ……。


 ……あっ、そうだ。察しがいい、といえば……。


 俺はそれで、テュリスの以前の指摘を思い出した。

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