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109 開部の儀 ???

 無事、お姫様の救出に成功した俺たちは、エレベーターで1階へと戻っていた。

 この部室という名の魔境に飛び込んだときはひとりぼっちだったが、何だかんだと仲間が増えて総勢8人パーティになっている。


 扉の外には、俺が出て来るのを今か今かと待ち構えている観衆たちがいた。

 祝福するためか……それとも、さらなる罵倒を浴びせるためか、花道を作っている。


 何にしても、勝ったのは俺だ。

 この扉をくぐれば『開部の儀』は成功、晴れてハーレム同好会の設立が認められることとなる……!


 栄光へのロードの始まりに、胸が高鳴る。

 俺の隣には、リンがいた。目が合うと、「うん」と頷き返してくれた。


 そうだ、これからだ、俺はついに名実ともにリア充になったんだ。

 俺は万感の思いで、扉の取っ手を掴む。


 ぐっ、と押し開こうとした瞬間、


『でもな、ひとつだけアドバイスや。

 人を信じて、マジになる前に、一瞬だけ立ち止まってみてや。

 そして、少しだけ考えてみることや。

 それだけ、それだけでええ……それだけで、旦那は人生はずっと良くなるはずやで』


 頭の中に妖精の声が響き、手が止まった。


 なぜ……今になって、そんなことが頭をよぎるんだ?

 それに……なんだろう、この違和感。

 テュリスが今そばにいないことが原因か?


 そうだ……なんで、アイツはずっといないんだ?

 俺の誕生日から、ヤツはずっと俺の側にいてくれた。


 『開部の儀』なんて、ハーレム王にとっては大切な儀式のはずだ。

 なのになんで、ヤツは俺の前から姿を消してるんだ……?


「行かないの、三十郎?」


 隣から、不思議がるリンの声がする。


「ちょっと、ちょっとだけ、待ってくれるか……」


 俺は言い繕いながら、扉から手を離す。

 そしてそのまま、額に巻いたVRバンダナをずり降ろした。



 それから数分後のこと……俺たちは、部室の屋上にいた。


「まさかお前が、真のラスボスだったとはな……」


 絡みつくような足元のツタをよけながら、ソイツに一歩ずつ近づいていく。


「あ、危ないわ、危ないから、こっちに来て、ね!?」


 俺の背後から、悲痛なルナナの声がする。

 それは俺に対してじゃねぇ、ラスボスに向けられたものだ。


 ヤツは、とんでもない所にいた。

 なんと、屋上の古びた手すりの向こう側に立っていたのだ。


 完全に、自殺志願者のポジション。でも格好のせいか、悲壮感は全くない。


 ヘソが出るくらいの丈の短いシャツに、デニムのショートパンツと、まるで夏の海に遊びに来たかのようなコーディネート。

 サングラスを引っ掛けた独特のヘアスタイルを風に揺らしている。


「来ないで!」


 鋭く警告されて、俺は歩みを止めた。

 ラスボスとの距離は、あと三メートルくらいか……。


「それ以上近づいたら、落とすよっ!?」


 ラスボスの小さな手にはネックレスのような細いチェーンが握られていた。

 その先には、チェーンでスマキにされた妖精が、錠前ごとくくりつけられてプラプラと揺れている。


 きっと相当やかましかったんだろう、口はセロテープで封じられている。

 俺に気づいたテュリスは、モガー! ムグー! とくぐもった声で喚きながら、アメリカンクラッカーのように激しく暴れだした。


 しかし、ラスボスは容赦なく、べちん! と手すりに叩きつけて黙らせる。

 インパクトの瞬間、錆びた手すりに、ミシッ! とヒビが走った。


 4階建ての建物の屋上ともなるとかなりの高さで、手すりの外側は相当怖いと思うのだが……ぜんぜん臆する様子がない。


 さすがは、俺の妹だ……!

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