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レオンはすっかりビビっていて、黙り込んでいた。
しかしエリカは女王のプライドがあるのか、それとも生来の鼻っ柱の強さなのか、勇気を振り絞るようにして一歩前に出る。
「きっ……キモぉぉぉ! なにムキになってんだよ。バカじゃねぇーの!?
チョロ男は昔からそうだった……!
ひとりで勝手に熱くなって、ガムシャラに突っ走って……見てるとムカつくんだよ!」
「ああ、そうかもしれねぇな……でも、俺はわかっちまったんだ。
悩んで立ち止まっている女の背中を押してやって、時には手を引っ張ってもらって、ともに歩むことの素晴らしさが……。
俺はもっともっと、女の背中を押してやりてぇ!
押して押して、押しまくって……マジな気持ちにさせてやりてぇ!
ハーレム同好会を作って、ゆくゆくは部活動にまでのし上げて……!
そこにいるすべての女の背中を押してやりてぇんだ!
これが俺の出した答え……俺の作り上げたいハーレムだっ!」
俺がいきりたつように身体を起こすと、エリカはデレノートで初めて俺を見た時のように、ハッと息を飲んだ。
そんなビッチ……いや、立ち止まっている女に向かって、俺はゆらりと近づいていく。
「さぁ、エリカ……お前にも見せてやるよ……俺のハーレムを……!」
エリカはクッ、と唇を噛む。
ペースを握られ、戸惑っているようだ。
ミニスカが水平に広がるほどの勢いをもって、俺に背を向ける。
逃げるのかと思ったら違った。振りかぶり、握っていたモノをブン投げていた。
窓の外に消えていく、鈍色の鍵。
「はぁ~い! これでハーレム同好会とかいう、キモい童貞の妄想は終わりでぇ~っす!
キャハハハハハハハハハ!」
振り返ったその顔は、大げさなまでに破顔していた。
リンが「取ってくる!」と駆け出そうとしたが、俺は手で押しとどめる。
「……捨ててないんだろ?」
問いただすと、嘲笑に満ちた顔はあっという間に怒りに変わった。
「なっ、なんだよ、捨てたに決まってんだろ!
見てなかったのかよ? アタマおかしいんじゃねぇーの!?」
「……俺は、ずっと誤解してた」
「ハァ?」
「お前は、俺のことが気に入らなくて、それでずっとチョッカイをかけてきてるんだと思ってた」
「な、なにを言って……」
俺が半歩前に出ると、押されるように半歩後ずさるエリカ。
装っていた強がりが、ほころびを見せる。
「でも……違ったんだな。お前のその気持は、好きな気持の裏返しだったんだな……!」
俺は、勝負を一気に決めにかかった。
戸惑う女王に対し、凶行に及ぶ暗殺者のように飛びかかる。
そしてノックもせずに、エアリーカールの頭を抱き寄せ、俺の胸に埋めさせた。
「素直になれよ、エリカっ!」
暴れるエリカを押さえつけ、胸をグリグリとこすりつける。
ハタから見たら、完全なる変態行為……!
「ああっ!?」という叫びが……室内室外、そこかしこからする……!
「てめぇ……エリカに何しやがるっ!」
隣から割り込んできたレオンにブン殴られ、俺は床にふっ飛ばされた。
口の中に鉄くさい味が広がる。どうやら口の中を切っちまったらしい。
シャツの袖で唇を拭うと、血がついていた。
「大丈夫か、エリカ!?」
と今度はレオンが抱き寄せようとしたが、乱暴に突き飛ばされていた。
エリカは……うつむいたまま震えていたかと思うと、
「あっ、ああ! ああ、ああ、そうだよ……そうだよっ!」
捨て鉢になったような、大絶叫をあげた。
「ウチは……三十郎が好きだったよぉっ!」
俺の頭を踏みにじっていたかもしれない脚を、勢いよく振り上げる。
艶めかしい太ももの裏側と、そしてパンツが見えるのもかまわず高く高く掲げたあと……ダアン! と床をストンプした。
「小6ん時に、高校生から絡まれてるのを助けてもらって、好きになったんだ!
あん時の、ウゼぇくらいおせっかいな三十郎にな! それでラブレターを出したよ!
告白しようと思ったら、まさかトモとミキが来るだなんて、思わなかった!
だからニセのラブレターってことにして、ごまかしたんだ!」
泣き叫ぶような声で一気にまくしたてあと、はぁ、はぁ、と荒く息をする。
「そっ……それで……笑いモノにしなきゃいけない雰囲気になっちゃって……そっからは、もう、後にひけなくなっちゃって……」
小さくなってく声を聞きながら、俺は起き上がる。
リンみたいにヘッドスプリングで格好よく起き上がろうとしたが、ミミズみたいに身体をのたうっただけで終わってしまったので、普通に手をついて起き上がった。




