103 開部の儀 3階
リン、シキ、リッコ、フミミ先生……そして俺。
4人まで増えた仲間たちを引き連れ、ロールプレイングゲームのパーティばりにぞろぞろと列になって進む。
勇者はもちろん俺。
リンとリッコが武闘家で、シキが魔法使いでフミミ先生が僧侶といったところだろうか。
そう考えるとわりとバランスがいいじゃねぇか。
このメンツなら、もう何が来ても怖くねぇぞ。
それにあと1階、あと1階だ。次の敵さえ倒せば、囚われのお姫様を助けられる……!
と息巻いていると、ラスボスに相応しい、俺が考えうる最強の敵が待っていた。
のぼりついた階段の先で迎えてくれたのは、
「おっせぇぇぇぇぇよ! チョロ男! チョロチョロしてんじゃねぇよ!!」
女王炎龍のアダ名に恥じぬ、すべてを焦土に変えるような咆哮だった。
エアリーカールの髪型をマントのようになびかせる、ギャルギャルした着崩しの制服……!
商売女みたいな濃いメイクは、女子高生の親玉の証……!
すべてのビッチの生みの親のような女……雷横エリカ……!
まさかコイツがハーレム同好会の反対に名乗りをあげていたとは。
やはり、コイツとはちゃんと決着をつけなきゃいけねぇみたいだな。
ここまでくると、運命めいたものを感じる。
俺がハーレム王になるためには、絶対に倒さなくちゃいけねぇ宿命のライバルみたいなもんか……!
仁王立ちの女王炎龍は、口の端から火が吹き出しそうなほどカァーッと口を開いて俺を威嚇している。
真っ赤な舌の上には、噛みかけのガムが載っていた。
部屋にはそのラスボスの他に、侍従のような冴樹レオンがいる。
最初は女王の威を借るように俺たちを睨みつけていたが、蝶になったシキに気づいた途端ポッと頬を赤らめていた。
建て込んでいた2階と違い、ふたりがいる他はなにもない。
1階と同じようにガランとしているが、窓だけは全部開け放たれていた。
俺は階段の踊り場で、仲間たちにここで待つように言う。
これは俺の戦いだから、何があっても手を出すなよ、と念を押す。
そしてゆっくりと……単身で女王のテリトリーに踏み込んだ。
急かすようにカツカツとブーツを踏み鳴らし、せわしなくクチャクチャとガムを噛むエリカ。
その前に立ち、向かい合う。
「で……勝負はなんだ?」
俺が尋ねると、
「ハァ? 勝負?」
エリカはいつもの片眉吊り上げをやった。
コイツはいつも人を嘲るような態度をとって、イラつかせようとするんだ。
だが俺も、女たちとの丁々発止のやりとりを通じてハーレム王として成長したんだ。
こんな安い挑発に乗ったりはしない。
「……俺とお前は、いったい何で勝負するのかって聞いてんだよ」
ガマン強く再び尋ねると、
「ハァーッ? 意味わかんないんですけどぉ?
なんでウチがそんなことしなきゃなんないの?
勝負とかキモっ、これだからオタクは……」
片眉は、ゴミを見るような目つきに変わった。
取り付く島もねぇ、嫌悪感丸出しの態度。
教室での俺だったら、話を打ち切って自分の席にさっさと戻っているところだ。
机に突っ伏して、脳内でひどい目にあわせていることだろう。
だが、今の俺はコイツのことを憎むどころか、可愛いと感じてしまった。
自分を強く見せようとキャンキャン吠えるポメラニアンを前にしたような気分だ。
「……じゃあ、どうすれば鍵をもらえるんだ?」
「鍵ってコレのこと? チョロ男」
エリカは口からクチャクチャと耳障りな音をさせながら、取り出した鍵を目の前で揺らしてみせた。
「土下座したら、あげてもいーよ?」
「……わかった」
俺はすぐさま屈んで脚を折り、硬い床の上で正座をする。
低い位置から顔をあげてエリカを見上げると、少し驚いた表情をしていた。
俺があっさりと土下座に応じたのが予想外だったんだろう。
しかし……ヤツのスカート短過ぎやしねぇか?
この位置からだと、あとほんの少し俺が頭を下げるだけでパンツが見えるぞ……ちょっと見てみたい気もするけど……今はそれどころじゃねぇんだよな……。
俺は自分を律し、正座モードから土下座モードに移行する。
ばんっ、と両手をついて、額が冷たい床に当たるまで深々と頭を下げた。
……ペッ!
頭上から、なにかを吐き出したような音がしたかと思うと、何かが俺の後頭部に乗っかった。
ガムか。と思っていると、続けざまに殴られるような衝撃に襲われた。
……ガツッ!
エリカの、ブーツの靴底だ。
ヤツは土下座している俺の頭にガムを吐きかけたうえに、その上から踏みつけてるんだ。
俺の顔面は、満員電車にいるみたいに灰色の床に強制密着させられていた。
カシャ、カシャ、と機械的なシャッター音がする。
おそらく俺とエリカの姿を、レオンがスマホで撮影してるんだろう。
背後の踊り場からエリカを非難する声が聞こえたが、俺はそのままの体勢で手だけ横に出して、仲間たちを制した。




