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The Rain Song

 朝焼け、そして夕暮れ。

 どうしようもないくらいに眩しい天体の光を、今日は見ることもなかった。

 朝の温もり、彼の腕に抱かれていたその自惚れのせいでもなければ、疲れを身体一杯に受けて浴槽に潜っていたせいでもない。ただ、雨が降っていただけのことなのだ。もしもそこに太陽があれば、私は何もかもを差し置いてでもその御姿を拝んだはずだ。でもそうしなかったのは、今日が雨だったから。

 そうやって太陽を拝む姿は、まるで恋をしている女のようだ。そう言ったのは彼だった。マッチョな思考の彼がそんなことを言い始めたのは、今になって思えば破局の予兆でしかなかったのだけれど、束の間の笑いがそうしたシグナルを打ち消した。そのシグナルに気付かなかったことで、私の恋は、ある一つの恋は終わったのだ。


「好きだ」


 彼が久しぶりにその言葉を口にしたのは、それから二ヶ月後のある雨の日のことだった。私と彼は狂乱を演じ、濁った眠りに就いた。目覚めたときにはもう彼の姿はなく、荷物も消えていた。ああ、そういうことだったのか。そう思ったときにはもう遅く、彼がロマンティックな人ではなかったことから、最後にただ快楽が欲しいだけだったのだと悟った。

 彼が結婚したと人づてに聞いたのは、珍しく晴れ渡った日のことで、私は涙を流すこともなかった。その日が晴れだったから、涙は似つかわしくないと思ったからなのかもしれない。けれど、私は宿った命と二人でどう生きていこうか、とようやくそんなことを実感することができた。私は一人きりで生きてきた時間の方が長かったから、そうした実感を得るのに随分と時間がかかったのだ。

 娘が三歳になった頃、彼が離婚したと、今度は本人から聞かされた。今度は何が欲しいのだろう。私はあのときのようには身体を磨いていなかったし、お金があるわけでもない。彼は当たり前のように娘を抱き上げると、こう言った。


「この娘は俺が育てるよ」


 私は何も言わず、ただ頷いた。それは、雨が降る前日のことだった。

 久しぶりに一人で迎えた雨の日、私は雨水をかき集めた湯船に浸かり、雨と交わった。私の快楽は、そこにあったのだ。生きているという実感が、ぽつぽつと跳ねる雨音の中から浮かび上がってくるようだった。

 私は、そのときに初めて眼尻に熱いものを感じた。何かが流れ落ちてくる前に、私はシャワーのスイッチを捻った。思いがけず冷たい雨が流れてきて、私の身体を蹂躙していった。私は生きている、生きているのだとそのときに改めて感じたのだった。

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