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ある殺人者のための習作

 海上を繋ぐ高速道路を車で走っていた男は、ふと思い立ってラジオのスイッチを入れた。代わり映えのしない風景の中をどこまでもどこまでも進んでいると、どこか得体の知れない恐ろしい場所へと辿り着いてしまいそうに思えたのだ。


「Have Yourself――」


 男は耳を疑い、咄嗟にハンドルから片手を離して腕時計に目をやった。時刻は午後十二時三十分。日付までは表示されていないが、冷房の利いた車内にいれば嫌でも夏の盛りであることが分かる。分かりはするが、それが真の意味での理解に繋がるまでには少しばかり時間がかかった。男を悩ませたのはラジオから流れてきた曲だった。

 一体、どうしてこんな時期にクリスマスの歌が?


「――というわけで、真夏のクリスマスソング特集をお届けしました。いやあ、冷房の利いた部屋で食べる鍋の旨さってのは格別ですよね。あれっ、ちょっと違うかな? とにかく、そんな心地良い気持ちにさせてくれるリクエストを下さったのは、神奈川県にお住まいのマレーのシナトラさんでした。ありがとうございました!」


 パーソナリティの軽薄な調子――彼も普段は厳かな顔つきで生活しているのかもしれないが――に苛立ちが募り、スイッチを入れたときと同じような衝動性でスイッチを切った。

 視覚が解放されると同時に舗道の感触がハンドル越しに伝わってくる。空は青く、やや強めの潮風が少しばかり開けた窓から入り込んでくる。

 そのとき、男は倒錯を知った。いや、あらかじめ定められた殺人を経験した彼だから、実はもう知っていたのかもしれない。

 しかし、それもまた理解に関する問題だった。知っているのと理解しているのとではまるで違う。男が殺人の愉楽を理解したとき、世界の有り様は一変した。

 そして、生まれたての殺人者はつぶやく。


「世界に問う、我とは何ぞや」

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