The End
その男はひとり、嘆息した。これからどうなるとも知れぬ茫洋たる海原のような人生を前にして、言葉を漏らすことすらできなかった。
春を迎えた庭を前にして、彼は先ほど渡った川の流れを思い返す。それがどこから流れてきたものであるかを知らず、またどこへ流れていくのかも分からない。人の生をそこに投影するとしたなら、我々の船には船頭すらなく、己自身が漕ぎ手である。流れに身を任せることも抗うことも、それがどのような結果を生み出すかは知れず、たとえ船が沈んだとてその身が流されていくことには変わりなく、必ずある到達点を迎えねばならない。その到達点とは海である。そこでは全ての者が手を取り合って和解し、それから待ち受けるのだ。
何を? それは分からない。
分からないけれども、人々はそれを様々に考える。海の彼方は奈落かもしれず、また楽園へ至る道があるかもしれず、次なる川へと流されるのかもしれない。
風に乗ってやってくる煙が彼の目鼻をくすぐり、それで彼の思考は中断された。そして、やがて再び思考の中に潜っていく。生きているうえは考えることをやめられぬものだ。
もう一度、彼はあの川の流れを思い出した。あの先に海が待ち受けているとしたなら、そこで全ての者が交わるのだ。死者も生者も。だから今は悲しみを胸に抱えているかもしれないけれども、それは一時的な別れでしかなく、やがて再び会うことができるのだ。人はどうしようもない悲痛を胸にしながらも生きていかねばらない。だが、それは人はどうしようもない悲痛を胸にしながらも生きていけるということだ。
生きて生きて生きた先に、待ち受けるものは。
「また会えるさ。きっと会う。あの海の向こうで」




