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規格品のみる夢

 ようやく一週間の仕事が終わり、帰路に就いたのは午後十一時を回ったところだった。帰りの電車では座れるかと思ったけれども、この時間まで遊び歩いたような学生の集団が席を占拠していて、仕方なしにドアの方を向いて立つことにした。車内を見回すとスーツ姿の人間も何人かいた。一様に疲れきった顔をしていた。ひどい顔をしている。自分も彼らと変わらないのだろうなと思うと、どこか安心する部分と強く絶望する部分とがあった。今は楽しそうに浮かれている学生たちも、いつかは自分と同じような境遇になるのだ。いや、自分よりももっとひどいかもしれない。未来が見えなかった。

 ドアのガラスに反射して、反対側のドアの所に立っている男が気になった。男は私と同じように席に座ることができず、ドアの近くに立っている。スーツもカバンも、まるで私と同じようなものを身につけているように思えた。あちらを向いているので顔は分からないけれども、私と同じような髪型をしている。不意に奇妙な感覚が私を襲った。彼は私なのではないか? そして、私は彼なのではないか? 私と彼を分かつものは何だろうか。空間だろうか、それとも時間か? 空間も時間も人間が作り出した幻想であるとするなら、私と彼とは等しいのではないか?

 と、次の駅に到着するアナウンスが流れた。そこで私は我に返った。空間も時間も幻であるとするならば、同じ車内にいる人間と等しくなければならない謂われはない。地球の反対側に住む男と等しくても構わないのだし、宇宙の向こう側に住む女と等しくあっても構わないのだ。

 つまり、私は疲れている。疲れ過ぎているのだ。こんな答えの出ない問題を考えたところで、何を得ることができるだろう。

 電車が駅のプラットホームに滑り込んだ。私の立っている側のドアが開いた。学生たちに混じってあの男もホームに降り立った。ふと、彼が私の方を振り向いた。私の顔が、私を見ていた。

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