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Last words  作者: 斎藤一樹
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Last words -05

 白鳥の泣き声が少し静かになって来たので、口下手なりに想いを伝えることにした。まあ、上手くいくかどうかは疑問ではあるが。

「なぁ、白鳥。僕は、思うんだ。どんな人生にも、意味はあるって。僕はまだ子供だから、世間を知らないからそんな事が言えるのかもしれないし、所詮は耳触りのいい綺麗事なのかもしれない。いや、多分そうなんだと思う」

 ここで一旦言葉を切り、唇を湿らせる。普段言いなれない長台詞なんて言うから、内心は大分緊張している。それでも、それを顔に出さないようにして口を開く。さあ、ここからが正念場だ。

「それでも僕はあえて言う。どんな人生にも意味はある。生きる意味がわからないなら、それを見つけるために生きろ。そんなもの、これから見つけていけばいい。一人では無理なら、僕が隣にいてやる。二人でもダメなら、音也とかも巻き込もう。きっとあいつなら、巻き込まれてくれるさ」

 努めて明るく、白鳥に言う。しかし、白鳥は言った。

「でも、あたしが居たって、今日みたいに迷惑をかけるだけよ。あたしなんか、居ない方がいいに決まって―――」

 白鳥の言葉を遮って、僕は怒気を押し殺して言う。「…いい加減にしないと、そろそろ僕は怒るよ、白鳥?」

「………え…………?」

 何を言われたのか分からないらしく、きょとんとした顔で彼女は僕を見る。

「居ない方がいい、だって?ふざけるなよ、僕は白鳥に居て欲しいんだ。未だ分からないのならもっとはっきり言ってやる。……僕は君が好きだ。だから、僕は白鳥キミに居て欲しいんだ」

 ―――二度と、言わないからな……。

 そう、小声でこっそりと呟く。

 ああ、恥ずかしい。勢いで言ってしまったが、落ち着いて考えてみるとかなりとんでもない、大胆な台詞を言ってしまった気がする。あぁやだやだ、こういうのは柄じゃあないんだ。

 白鳥は黙り込む。そして、再びポツリと言う。

「伊達君…、あたし、怖い。いつ死んじゃうか分からない事もそうだけど、死んで、誰からも忘れられてしまっていくのが怖い……」

 見ると、白鳥の方は細かく震えていた。そして、雫が一滴、落ちて布団に滲み、そのまま消えていった。

「忘れるものか。例え世界で、他の全ての人が君を忘れてしまったとしても。僕だけは、君の事を決して忘れない」

 それを見て、口を突いて出た言葉。僕は常々、自分の事を口下手だと思っていたが、こういう時にはちゃんと言葉が出るらしい。

 そんな僕の言葉を聞き、彼女は少し恥ずかしくなったのか、

「…あ、ありがとぅ……」 頬を朱く染め、消え入りそうな声で言った。そんな可愛いらしい白鳥に僕も何だか照れ臭くなり、

「え、えっと、じゃあ僕、白鳥が起きた事知らせてくる」

 と言い残し、席を立つ。すると、また白鳥に裾を引っ張られた。今度は何だろう?

 白鳥は俯いたまま、恥ずかしいのか少し小さな声で言った。

「…えっと、伊達くん?その、あたしの我が儘、聞いて貰っても……いいかな?」

 これは又、珍しい。

「内容次第だな」

 少し意地悪を言ってみた。

「えっ…と、その……。あたしのこと、これからは苗字じゃなくて、名前で呼んで欲しいかな、って…………」

 めげずに頑張って最後まで言い切った。

 ……なるほど、この程度の可愛い我が儘ならお安い御用だ。

「分かったよ。これでいいか?……百合」

 と、思っていた時期が僕にもありました。いや、名前で呼ぶのって結構恥ずかしい。

「…………うんっ!」

 それを聞き、白鳥は頬を染めつつも、幸せそうな満面の笑みで頷いたのだった。そして、それを見た僕も又、頬の緩みを押さえることが出来なかった。

 しばらくして、漸く僕は親を呼びに行った。白と……百合が目覚めたことを知らせるために。

 病室を出る時に背中越しに聞いた、小さな「ありがとう」の声を、僕は今も覚えている。

 先程まで激しく降っていた雨は、既に止んでいた。






 それから一年後のある晴れた日、白鳥は死んだ。

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