表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Last words  作者: 斎藤一樹
3/7

Last words -03

 その日の晩、彼女の家から電話があった。


 その電話に出たのは母さんだった。そして、電話をしている母さんの顔は、傍目にも判るぐらいにサァァ…と青ざめていくのが見えた。より正確に言うのなら、青ざめるというよりも白くなっていく感じだった。

 電話を切ってから、母さんは僕を呼び、静かにこう告げた。

「落ち着いて聞いてね」

 そこで母さんは、自らをも落ち着けるかのように深呼吸をした。そして、言葉を続ける。

「百合ちゃんが急に心臓発作で倒れて、」

 ―――救急車で搬送されたって……。


 いつしか、外は激しい雨が降り始めていた……。


 僕の中で、時間が止まった。まだ母さんは何か僕に言っていたけれど、全く耳に入ってこなかった。 頭の中で、シンゾウホッサやキュウキュウシャデハンソウといった言葉が、木霊していた。

 それから先、5分間程の記憶が、僕には無い。


 気が付いたら、僕は車に乗っていた。後になって聞いたことだが、あの後僕は一言も発さず、母の言うがままに出かける仕度をし、車に乗り込んだのだと言う。

 その目は虚ろで、さながら生ける屍のようだったらしい。


 車が病院に到着した。

 車から降りると僕と母はまず玄関エントランスに向かう。白鳥の治療はもう終わっていて、彼女は既に一人部屋へと移されたらしい。僕たちは、早足で彼女のいる部屋へと向かう。

 彼女は眠っていた。僕はそう思った。しかし現実は違った。

 彼女はまだ、意識が戻らないのだという。

 呼びかけたら意識が戻ることもある、という医者の言葉を聞いた僕は、早速彼女へと呼びかけ始める。


 呼びかけ始めてから10分が経過した。

 僕と白鳥の親達は僕に気を遣ったのか、今はこの病室にいない。僕と彼女を二人きりにしてくれたらしい。

 しかし、いくら呼び掛けても彼女は目を醒まそうとしない。

 少し諦めそうになる。その時、僕はふとある事を思い出した。

(そう言えば、眠り姫ってあったよな…。あれってどうやってお姫様を起こしたんだっけ?……思い出した。王子様のキスだ。…そういえば、白雪姫もキスそれで生き返ったんだよな……。…試してみようかな……?いやでも、なんかそれは色々と倫理的にマズイ気が…。………でもやっばり、可能性があるのなら、僕はそれに賭けてみようか)

 緊張しつつ、周りをキョロキョロと見る。当然だが誰もいなかった。うん、誰かに見られながらキスをする、というのは中々に気恥ずかしいものがあると思う。

 一通り確かめてから、僕は彼女の顔へと顔を近づけていく。こんなカタチで再びキスをすることになるとは、思ってもみなかった。

 僕と彼女との距離が、30センチ、25センチ、20センチ…。次第に近付いていく。そして――――。


 僕と白鳥の、唇が触れ合う。


 しかし、彼女は目を醒まそうとしない。

 やっぱり駄目なのか、と諦めかけ、俯いたその時、

   ぴくり

 と、彼女の指が微かに動いた気がした。

 僕はハッとして、彼女のことを見る。


 奇蹟が起こった。


 白鳥はうっすらと目を開け、僕の顔を見るとハッとしたように目を見開いた。

 その時の彼女の顔を、僕ははっきりと覚えていない。僕はその時、泣いていたから。


 まだ終わりません。次回は(次回も?)ちょっと重めです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ