ライオン
アズちゃんは「わたしもパーティ行きたい!」ってブーブー言ってた。あの子が山を降りられるのは一体いつのことやら。当日の朝、キコリさんにはいったん、学生寮の近くでおろしてもらった。ほかのクラスメイトと合流してお迎えのリムジンでパーティ会場に向かう予定だ。丸太を積むトラックでパーティ会場には乗り込めないからね。夜のパーティまではあたしの部屋でひさびさにあった友だちとおしゃべりして過ごした。夜、リムジンでパーティ会場に向かう。
州会議事堂はライトアップされていてとてもおしゃれだった。さすが州都トピカの名所なだけある。部屋で着替えをしている時、ドレスアップされたあたしの姿にクラスメイトたちは驚嘆した。
「なにそのドレス!靴もアクセサリーも凄すぎ!」
「家庭教師先のご主人様のいまは亡き奥様の形見なの。ぜひあたしに着てくれって。参っちゃうよねぇ。ドレスと靴とアクセサリーは頼みもしないのにあたしにすり寄ってくる」
あたしは髪を右手ではらってなびかせる。
「うらやましいわぁ。セレブの豪邸で働いているのね」
「まあね」
「ご主人様は貴公子のような紳士なんでしょうね」
「まあね」
「うらやましぃ〜」
みんなハンカチ噛み締めて悔しがる。ふふん。いい気分だ。ほんとは山奥のロッジでご主人様はひげもじゃの山男だけど絶対にバレない嘘は嘘じゃない。
パーティ会場のホールには東の魔女が待っていた。
「みなさま、お待ちしておりましたわ」
彼女は黒いドレスに魔法陣のペンダントを首から下げ銀の靴をはいている。とんがり帽子がとても似合いそうなコーディネートでさすが魔女と呼ばれるだけある。
「あらドロシーさん。とってもお似合いね」
「ありがとう。あなたもね」
「うふふ。ありがとう」
あたしたちは見つめあって微笑する。
東の魔女とあたしには因縁がある。クラスメイトになった当初、田舎者のあたしのことを彼女は馬鹿にしてお仲間とともにいじめてきたのだ。乱暴な性格の牛とケンカ慣れしていたあたしは腕力にものを言わせて黙らせた。顔は狙ってないよ。女の子だもんね。
「人にしたいじわるは全部自分に跳ね返るからやめたほうがいいよ。いじめっ子の子供がいじめられることもよくあるし、来世で自分がひどいいじめにあうよ。人にやさしくね」って助言もしてあげた。クラスに拍手喝采が巻き起こった。
その後、東の魔女たちは詫びを入れてきたので許した。クラスメイトにも仲間外れにしないであげてってお願いした。あたしってば超優しい。
もうあたしの中では昔のことだけど、時折、東の魔女はあたしに対して黒い念を送っている気がする。気のせいだったらいいけどね。
さてとあたしは彼氏のカカシを探した。東の魔女は扇子で上を指す。
「カカシさんでしたら、さっきあちらで見ましたわよ。2階の休憩室、ドロシーさんに来てほしいって」
「そうなんだ。ありがとう」
あたしは2階の休憩室に向かった。鼻息が荒いのが自分でもわかる。
カカシもびっくりするだろうな。こんな素敵なドレスでおめかししてたら。でも、あいつは気の利いたこと言えるような奴じゃない。せいぜいよく似合うね、ぐらいか。まあ、それで十分だ。期待してない。カカシは淡白なやつで山奥にいる間もメールは少なかった。こっちからメールしないと返してこないし。
休憩室のドアを開けると仮眠用のベッドの上で絡み合う男女がいた。服は着ていない。東の魔女の取り巻きの女の子とカカシだ。
「あわわ、ドロシーちゃん!どうしてここに!」
「あらーん。見られちゃった」
「どうぞごゆっくり」
あたしはドアをバンっと閉める。
最低な気分だ。涙もでやしねぇ。怒りを抱えたままドタドタ階段を降りると東の魔女がニヤニヤしてた。
「ドロシーさん、そろそろダンスがはじまりますわよ。カカシさんはどうされましたの?
「別れた」
「あらあら。せっかくドレスアップしたのに窓際の花なんておかわいそうに」
東の魔女は悪い顔をしている。
こいつはめやがった。
あとで他の女の子に彼氏を寝取られたってウワサを流すのだろう。ぼっちにして恥をかかす作戦だったんだ。つまらない罠にかかってしまった。意外に根に持つやつだな。
東の魔女は謎のイケメンに腕を絡めて去っていった。勝ち誇った表情だ。
あたしは踊る相手がいないから壁にもたれかかる。はあ、来なきゃよかった。
落ち込んでいると、ドンッ!と軽い衝撃を覚えた。
「ドロシーお姉ちゃん!」
眼下に笑顔を輝かせたアズがいた。
「アズ!」
可愛くドレスアップしたアズが抱きついている。
「どうしてここに?」
「パパも招待状もらってたんだって。ドロシーお姉ちゃんのドレス姿がどうしても見たかったみたい」
「招待状もらってた?」
変だな。セレブと芸能人や歌手、スポーツ選手、作家、学者、政治家、町の名士と言った著名人しか招待されていないはず。
不思議に思っているとタキシード姿の凛とした貴公子が正面からやってきた。
「こんばんは。ドロシー。思った通り、とてもよく似合ってるね。すごく素敵だ」
すごいイケメンだ。清潔感がある。マッチョなのでタキシードもよく似合ってる。ポマードでなでつけた髪は襟足が跳ねていて百獣の王ライオンを彷彿とさせた。
「キコリさん?ヒゲがないからぜんぜんわからなかったです」
「はは。混乱させてしまったね」
「みんなダンスしてるよ!2人も踊りなよ!」
「ドロシー。もし相手がいないならボクと踊ってくれないか?」
「は、はぁ、まぁいいですけど」
「ドロシーちゃん彼氏は?」
「さっき振った」
「やったね。パパ、フリーだって」
「浮かない顔はそのせいかな。気分転換しよう」
キコリさんはあたしの腕を取る。2人でダンスを踊った。あたしは運動神経がいいからダンスは上手い。田舎でもパーティの余興でみんなでダンスするから慣れてる。
キコリさんもダンスはうまかった。あたしたちのダンスはみんなの注目を浴びた。東の魔女もクラスメイトも驚いている。
ダンスのあと、キコリさんは飲み物を取りに行ってくれた。
「飲み物を貰ってくるよ。アズをよろしく」
「はい」
あたしはアズちゃんと手をつないで待つ。そこにクラスメイトが殺到する。
「だれよあのダンディなイケメンは?」
「さっき言ったご主人様だよ」
ウソが本当になってしまった。
「そうなのね!じゃあその子が面倒見てる子ね」
「そうそう。アズっていうんだ」
「アズです。よろしくお願いします。きれいなお姉さん」
「すごい利発で可愛い子ね!いつ結婚するの?」
「どうしてそんな話になるんだよ!」
あたしが怒るとみんなぽかんとする。
「だってパートナーと一緒にご参加くださいって手紙に書いてあったじゃない。ダンスも2人で踊ってたし」
「あれはその・・・ごにょごにょ」
「カカシはどうしたんだ?」
「浮気されたから別れた」
「じゃあ、何の問題もないじゃねぇか。決まりだな」
「おめでとう!」
「だからちがうってば!」
「アズもドロシーお姉ちゃんがママがいい!」
「可愛い娘もできてよかったわね。ドロシーママ」
「もうっ!ちがうってば!」
キコリさんの帰りが遅いのでチラリとドリンクコーナーを見るとなんとキコリさんもあたしと同じように大勢から取り囲まれている。身動き取れない様子だ。
「あれはライオン会長だよ。きみはすごい男を捕まえたね。SSRだ」
メガネ男子が教えてくれる。
「ライオン会長ってだれ?」
「知らずに付き合ってたのか」
「付き合ってないしあたしにはキコリって名乗ってた」
「偽名だよ。ライオン会長はIT企業オズの魔法使いって会社の会長さんさ。亡くなった奥様はプログラマーで触ることのできるホログラムを開発した大天才だよ。魔法使いって呼ばれていた」
「ホログラムに触れるとどうなんの?」
「空中でパソコン操作できる。かっこいいだろ?パソコンも持ち歩かなくていい」
「SFアニメでよく見るやつね」
「価格が高すぎて今はまだ一部の大企業がお遊びで導入している程度だけど、だんだん世界中に広まっていくだろうね。そのうちぼくらでも扱えるようになるかもしれない」
「ほえーそんな時代が来るんだ。夢見たい」
「魔法陣を空中に描いて音声で発動する仕掛けも作ってたよ。ファイヤ!とかブリザード!とか呪文を唱えるんだ。発動されても光だから無害なんだけど面白いよ」
「あー!見たことある!」
アズがクマを撃退した魔法だ。
「ライオン会長は奥様のオズ社長が苦手な営業役をになってたんだ。人たらしで半径2メートル以内に近づくとみんな好きになるってうわさだよ。スポーツマンで学生時代はアメフトの優秀な選手だったらしい。プレゼンテーションもバチくそ上手いんだ。口下手で人見知りでオタクなオズ社長を支える右腕だった。不幸な事件で奥様が亡くなられたショックで生きる気力を失い会長を辞任して山奥に引き篭もったって聞いてたんだけどな」
「山奥に引き篭もってたよ。人間不信になって」
今はスッキリした顔をしてる。何がきっかけか知らないが人間不信が解けたなら何よりだ。赤毛のそばかす少女がさらなる情報をくれる。
「会長は辞任してないわ。社員たちに懇願されて会長職のまま長期休暇に入ったのよ。公の場に姿を現したってことは会長に復帰するでしょうね。社員たちも放っておかないわ」
まとめるとオズを失ったライオンは人を信じる勇気と人を愛する心を失ってキコリになった。何かがきっかけで人を信じる勇気と愛する心を取り戻してライオンに戻ったってことだ。
キコリさんがみんなに何かを伝えてる。キコリさんを取り囲んでいた人たちが道を開けた。キコリさんがこちらにやってくる。
「遅くなったねドリンクだ」
「ありがとうございます」
「パパありがとう」
あたしとアズはドリンクを受け取る。中身は赤色のノンアルコールカクテルだ。
「本名はライオンさんなんですね。それにすごい経歴です」
「いや、たいしたことないよ。すごいのはオズさ」
ライオンさんは謙遜する。
「ところでドロシー、突然なんだけど」
「はい」
「ボクと結婚してくれないか?」
「!?」
あたしはびっくりして震えた。ドリンクも揺れる。
みんな耳をそばだてて聞いていたのか会場にどよめきが起こった。
「ホントに突然ですね。ぜんぜん脈絡がないんですが?」
「きみがボクに愛と勇気をくれた。失った心を取り戻してくれたんだ」
「はわわ。そんなことしましたっけ?」
「きみはボクのために祈ってくれたじゃないか。きみの背後にオズの気配を確かに感じたよ。彼女は微笑んでくれた。あの夜、オズの夢を見たよ。2人で花園を散歩してとても幸せだった。起きた時にボクの心の穴はすっかりふさがっていたんだ。もう一度、人を信じてみよう。人を愛してみようって思えた。すべてきみのおかげさ!」
ライオンさんの笑顔は輝いている。神様に祈りが届いた?
ま、まあ、あたしは日頃の行い良いからね。いやいや、今回の人生の運全部使っちゃってない?今後が不安だけど、あたしはニコっと微笑む。
「それはよかったです。でも、いきなり結婚なんて。あたしはまだ何もあなたのことを知らないしもう少し時間をかけてからでもいいのでは?あたしってばけっこうズボラだし欠点だらけの人間なんです」
「きみをだれにも奪われたくないんだ。きみの欠点はぜんぶボクがおぎなう。欠点さえも愛するよ」
ヒューヒューっと口笛が吹き荒れる。イケメンの誠実な愛の告白にあたしは顔が火照るのを感じた。ライオンさんの瞳に邪なものは欠片もない。この人は本気であたしのことが好きなんだ。ドリンクを一気飲みして熱を冷ます。ええい、女は度胸だ。あたしは叫ぶ。
「あたしでよければよろこんで!」
その瞬間、パーティ会場を拍手喝采の嵐が包み込んだ。
会場が浮き上がってどこかに飛んでいっちゃいそうなぐらいの歓声だった。
ライオンさんはニカッと笑ってあたしの唇を奪った。情熱的なキスだ。割れんばかりの拍手が巻き起こる。嵐のような展開の速さにあたしの目はぐるぐる回っている。
視界の端にねぐせのついたカカシが着崩れただらしない格好でぼーっと立っているのが見えた。
近くにいるクラスメイトの声が聞こえる。
「ありえない。ありえませんわ!
東の魔女だ。顔を青くして体をワナワナと震わせている。
隣にいるスポーツ刈りの男子がつぶやいた。
「オズの魔法使いの総資産は500兆円だってよ。ドロシーはお城にすめるな。一国のお姫様のような暮らしが待ってるぜ」
「ご、500兆・・・」
東の悪い魔女は気を失って倒れた。慌てて誰かが介抱している。
帰りの車はロールスロイスだった。道すがら買ってきたらしい。
それからあたしたちは山奥と都会を行き来しながら3人と1匹で仲良く楽しく暮らしましたとさ。新しい家族が増えるのはもうちょっと先のお話。めでたしめでたし♩
オズの魔法使いはRPG要素もあって好き。ドロシーは金の帽子と銀の靴を持っているから魔法使い、木こりは斧を持つ戦士、ライオンは牙と爪で戦う武闘家、カカシはワラでみんなを守る盾役だからタンク。愛犬トトは鼻が効くから探偵。ラスボスは東の魔女。それぞれが欲しいものを求める冒険の旅。個性的でオシャレなパーティは読者の心をつかんで離さない。




