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初サイクル

「ボディビルの界隈を追われ、筋肉に気をかける時間は少なくなったが……たまには懸賞首のことを忘れてプロテインのコーナーでも見に行こう」


簡潔に身の上を話してからRPに入るタイプらしい。名前の割に、現在進行形でガチガチに鍛え上げているキャラではなさそう。


「これは、見たことない商品だな……値段も手頃だし、一つだけ残ってるのも何かの縁か――ここで情報をくれるNPCはいないか」


KPに任せてもらうか。タブレットには伝えるべき情報はあるが、そのまま伝えるわけでもなく。

自分は経験したことはないが、そのまま情報を渡したり、シナリオから逸脱するような行動をしてると、セッションが難化するらしい。


今回は旅館の主の情報ということで、適当なモブでも用意してやってみよう。


「じゃあ、盛況なモールの昼下がり。様々な目的で訪れたお客さんがいる中、筋次郎と目的を同じくする者がいた……筋次郎と同時に、全く同じプロテインへと手を伸ばす人がいます――失礼、他の方と被るとは思っていなくて……おや、私と同じ旅館に泊まっている方かな? 一人ガタイの良い方がいると思ってたんだ」


この方向でどうだろうか。意外とはっちゃけたキャラだったけど、RPに乗ってくるかな……?


「あなたこそ、もし後から来たのが私だったら一目でピンと来たでしょうね。そういえば旅館で見たな、このシルエット……って」

「……!」


なんとなく、筋次郎を通して狩南と通じ合えた気がする。この一体感を得るためにTRPGをやっているといっても過言ではない。まあ、まだ素性が分からない荒れてる人ではあるが。


「シルエットと言いますと、先日ダンベルを見に来た際、旅館の主の後ろ姿を見ましたよ。閉館時間ギリギリだというのに」

「出先でダンベルを……!? ではなかった、宿の主人の後ろ姿を?」


RPをしつつ、自前のルーズリーフにメモを取っている。やはり報酬目当てだけのPLでもなさそう。


「他にRPとかがなければ、遭遇パートに移ります。追加の宣言もここでお願いしようかな」


リベンジアレンジでは1サイクルに1回、行動パートの最後か遭遇パートの最初に、追加で情報を集めることができる。

そのため、このタイミングでKPから話を振っておき、確認漏れを防ぐという。


「あー、遭遇パートで待ち伏せさせてもらう。対象者は旅館の主、オオナだ」

「オオナ待ち伏せ……了解」


狩南の宣言を受けてKPタブレットを確認すると、新しい情報が現れている。


「夕暮れに霧涼館へ戻ってきた筋次郎。本館を囲む雑木林は下からライトアップされており、朝とは違った顔を見せる。

オオナを待ち伏せようとしたあなたは、人目を気にして乗用車に乗り込む彼を目撃します」


「あれは、オオナさん……待ち伏せと言いつつ、若干間に合ってないという」

「言ってしまえば遭遇パートのボーナスみたいなもんですからねー」


休憩と言いつつ全く休憩できない展開もTRPGあるあるだしね。口を動かしつつ、ルーズリーフに情報を書き込む狩南を見ると、そんな思いが湧き上がってきた。


「なるほど……宿泊客の言っていたことは本当らしい」

「流石に後から追うのも難しいので、何事もなかったかのようにエントランスから戻ってきた……筋次郎。

霧涼館のフロントは和を感じる木造で、くつろぐお客さんもちらほら。そんな人々の中には、お客さんの応対をするオオナもいます」

「二人……どういうことだ?」


落ち着いて読んでる感こそ出しているが、狩南と全く同じ気持ちである。


「そして、ここからは遭遇の情報判定です。ダイスロールは……成功」


ダイスも情報も良い感じだ。通常のTRPGだったらGM視点でオオナに関するPLの推理を楽しめるのだが。

今回はまあまあ推測できる範囲の情報だから、先出しして自然に聞き出してもらえるようにしよう。RPもキャラは濃いけど、だいぶ真面目にやってるし。


「オオナには双子の弟が居ることが分かります」

「それだけ?」

「RP次第では増減する可能性がありますよ」

「減ることはなくないか」


これは、RTRPGの仕様はそこまで知らないのか。事故防止に伝えておいた方が良さそう。


「オオナは天涯孤独、みたいにあまりに矛盾した設定を生やしたり、聞かれてもない情報をガンガン喋らせたりすると、ルーニールートっていうのに派生するんですよね」

「ルーニールート……?」

「通常では起こらないイベントが挟まれたり、ボスのステが跳ね上がったりするんだよ」


だからRPを……と続けようと思ったが、RPを強要するのも違うような気はする。そもそも、RPをしてくれることに期待してるのに、自分で水を差すのはどうなのか……。


こちらの説明が終わった後、僅かな沈黙に包まれる。それは数秒にも満たない時間ではあったが、緊張感を伝えるのには十分な間だった。


「……オオナさん、お疲れさまです。プロテインバーでもいかがですか?」

「え……? おお、ありがとう」


てっきりしくじらないよう念押しされるかと思ったが、そのままRPに入る狩南。


「……二ノ腕さんはスポーツでもしているのかい? 逞しい体つきをしているよね」

「ボディビルをしていたのですが……実の兄に騙され、今は追放処分を食らった身です。血縁といえども、私はあの人を許すことは出来ない」


筋次郎、お前のバトンは俺が受け取ったぞ。


「兄ですか……実をいうと、私にも兄弟がいるんですよ」


過去のことを思い返すように一呼吸つける。呼応するようにKPタブレットには、これまで記されていなかった追加情報が表れている。


「双子の弟で、容姿もそっくりなんですよ。いま霧涼館に泊まっているので、もしかしたら会ってるかもしれないですね――オオナの様子から、特に嘘をついてる素振りは見られないです」

「了解。それじゃあモールの方は偽オオナもとい、オオナ弟とみて動くか」


オオナの弟は宿泊客として霧涼館を利用している。RPの甲斐あって得た情報を、欠かさずNPCとして狩南に伝える。


「情報はこんな感じですかね。他に何もなければ、2サイクル目の準備フェーズに移動しますけど」

「ここらでモールの情報をオオナに当ててもいいな……?」

「聞いてみます?」

「いや……推察できない情報を立場不明のNPCに投げると、裏で話が進むこともあるからな」

「それでいて思ったより情報が貰えなかったり」


狩南の表情が僅かに緩む。どこの卓でもあるあるなのかな。こういう好きなものを共有してる感覚、最近は忘れてたなー……。


「ちょっと動きづらいかも、って程度なら堪能したい気持ちもあるが、パス。独白をしたら準備フェーズにつなげてくれ」

「分かりました」


さて。確かにオオナ弟の存在は気掛かりだけど、シナリオもだいぶ順調に来ている気がする。語りは狩南に任せて、こっちも少し水分を摂ろう。


「――俺は怨者に繋がる情報を徹底的に追及する。この筋肉は人に害を与えるものでも、守るものでもない、ただ、求める結果を得るための手段の一つ。

あの旅館の兄弟が何を考えているかは分からないが、今は泳がせていよう」


狩南さん的には教えるのもナシではなさそうだったが、筋次郎的には少しの不安要素も生みたくないらしい。


「では、観光を終えたPCは宿で就寝。二日目を迎えます――筋次郎は割と目的に忠実なキャラなんですね」

「長くプレイしていると、作ったキャラに気持ちが追いつくこともある」


筋次郎に気持ちが追いつく……狩南さん自体はそこまで筋骨隆々と言った感じではないけれど。


「おい、気持ちだといっただろ……! 準備フェーズも気を抜かずに頼むぞ」


危ない、物理的に疑念の目を向けていたようだ。更新されたであろうKPタブレットを確認しないと――確かに、これはちょっと気が抜けないかもしれない。


「それでは、二日目。2サイクル目の準備フェーズから始めます」

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