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RTRPG

「トロッコ、二番席を片付けといてくれ」

「はい」


十八歳の誕生日を迎えた俺は、念願のTRPGサロンのスタッフとして雇われることを許可された。

簡単な雑用から始まり、はや一か月なのだが。


「あだ名の欄でそのまま呼ばれるなんて。接客中にトロッコ運んでくれって耳に入ったら、鉱山のセッションかなんかだと思われますよ」

「炭鉱がテーマのTRPGも仕入れたしね。もっとも今は――」


話の途中で、店長がサロンの一画を見やる。青く半透明な箱状の結界に包まれた様は、ショーケースのよう。


「リアルテーブルトークロールプレイングゲーム――RTRPGの方が人気だねー」

「報酬が現実世界に還元されるし、ルルブや付属品もいらない。TRPG人口は爆増、店は大繁盛」


実際に先程の空間でRTRPGをプレイしているお客さんたちは、ゲームのためのルールブックはおろか、確率を判定するためのダイスも持ち込んでいない。


特筆すべきは、ゲームの進行役――KPと見られる男の手元にある、半透明のタブレットだろうか。RTRPGでは、シナリオの生成から進行まで担う重要なアイテムであり、実質のゲームマスターとも言える。


「ただ、RTRPG絡みのトラブルも増えたね。友情崩壊ゲーとか言うんだっけ?」


店長が呑気に口を開く。新しいことは外野から騒がれがち。しかし、これに関してはそうとも言い切れないんだよなー。


「RTRPGでロストしたら、数か月から一年くらいは自分の駒が使えないですからね……」


まあキャラロストがそもそも雰囲気悪くなることはあるし……。


「俺もまた、気の合う人を集めてTRPGをしてーなー」

「トロッコ君と入れ違いになったボンバーも、ぼちぼち留学から戻ってくるらしいし。今度誘ってみてもいいかもね」






「――RTRPG、片付ける側としても割と楽という」


最初に頼まれた片付けを終えて店内を見回すと、店長が先程のお客さんの会計をしている。見たところ収穫物のようなものは見当たらない。


「噂をすれば、って感じか……」


それどころか、遠めに見ても雰囲気が悪い。これは誰かがキャラロストしたか、シナリオをクリアできなかったか。


「またのお越しを」


会計を済まし無言で帰るお客さんたち。彼らが出ていったのを確認してから、店長のいる方へ移動する。


「予約の時にTRPGから勧めたよね?」

「もちろん。未経験かどうかの確認も必ず取ってますけど――」


外からわずかに怒声が聞こえ、思わず話を中断する。サロンのお客さんたちは各々で盛り上がっているので聞こえてはいないだろうけど、一瞬ヒヤヒヤする。


「店の前に騒音禁止の看板でも出しとこうかな?」

「軽くBGMを流すのも良いかも?」

「あー、それいいね」


いつも呑気な店長がこちらに賛成しつつ、ふと呟いた。


「RTRPGが世に出てきてから、ちょっと客層が変わった気がするよ」


接客も片付けも終わり、お客さんを眺め……ない。

採用された頃、人を見てて店長に注意されたのも良い思い出ということにしておこう。


「トロッコ君がここに来たきっかけも知り合いとのいざこざだったっけ」

「はい。KPしててなんか文句多いなーとか思ってたら、あっちから勝手に別れを切り出され、丁度いいから新天地を求めて、今に至ると」


店長がチラッと予約表を見る。次の来店までは少し時間がありそう。こうなると、大体店長との雑談が挟まるのだ。


「今日はTRPGの思い出話を聞かせてくれるかい?」

「良いですよ。別れたきっかけはいくつかあって……お前のキーパリングだと俺のキャラが動かない、とか冒頭の話なんて覚えてない、とかはよく言ってましたね。

あと、誰かがNPCの会話を申告すると、明らかに嫌そうな顔をする奴もいますね」


「それ楽しめるの……? ていうか、奴もいるって、一人じゃないんだ」

「全員別人ですね」

「いや楽しめなさそう……!」


確かに遊ぶというよりは、変な奴の観察みたいになっていった感は否めない。なんなら、最終的にこっちが悪いみたいなキレ方されたから付き合いをやめたのだが、それはそれである。


「去年でしたっけ、ちょうどRTRPGが認識されるちょっと前に縁を切ったんですよね」

「お客さんとして初来店してきた頃を思い出すよ。めっちゃ緊張してたね……」

「こういう所には来たことなかったんでね……!」


なんやかんやでTRPGに動かされてる。

ここのサロンで働き始めてまだ一ヶ月。いつかこっちが俺の居場所と言えるように頑張ろう。


「あの頃は常連さんにギリギリ支えられてて、割と潰れそうだったなあ……」

「え、そうなんですか!?」

「今となってはスタッフさんもお客さんもいっぱいだからね。何が起こるか分からないよ」

「RTRPG全盛期に雇ってくれて本当にありがとうございます」


今やTRPGが出来るカフェが乱立しているからな……。

それでも需要が上回ってるくらいだけど、店員も店長もTRPG興味ないですー、みたいな態度で炎上した店も数しれず。


「事前にある程度人となりも知ってたし、通ってる時から誕生日になったら親から許可が下りるんで、って言ってたし……いらっしゃいませー!」

「いらっしゃいませ、ご予約のお客様ですか?」


店長と雑談をして過ごしていると、新しいお客さんが現れた。ただ、一人だけしか姿が見えない。


「16時からRTRPGで予約を入れた狩南です。昨日、連れの調子が悪いんで一人で来ると伝えた」

「ああ、狩南さまですね……そこのスタッフがKPをしてくれるのでお任せください」

「え、俺……」

「大丈夫ですか?」

「……はい!」


事前にシナリオを用意しなくてもいいのがRTRPGの利点……などと言っている場合ではない。

確かに予約している場合はKPをスタッフが務めることもあるが、店長伝え忘れたな。


「そういえば、スタッフさんの駒は出せますか?」

「ええ。KPなんで使いませんけど……」


手のひらを閉じて。手品のように開いて見せる。数年前では時間の無駄に過ぎない行為も、今では手品を越えたトリックが一つだけ可能だ。手のひらの上、握りしめれば隠れるほどの大きさのチェス駒のようなものが現れる。


「亀裂はなし。仕方なくKPやっている、って訳ではないか」


PLでセッションを失敗するのに比べ、KPで失敗しても報酬が貰えない程度のデメリットしかない。逆に言うと、PLで失敗した人らがKPに転向するパターンも多いのだ。

PLとして失敗するのは珍しくない上、KPをやる理由は人それぞれではあるけど。


「では、今度は狩南さんの駒を」

「はい」


狩南は手を振り払うようにこちらを扇ぎ、コツリ、とテーブルに軽い音を立てて影が落ちる。照明を受けた青く角張った駒が、磨いたばかりと言わんばかりの光沢を返していた。


「避けたいルールとかありますか?」

「PvP」

「……承知しました」


元々二人で予約取ってたんだっけか、ソロシナリオでPvPも何もない気がするけども。


ともあれ、席に着いて狩南の駒を握りしめる。特定の人に他人の駒を集めるとRTRPGの条件は整う。


「ちゃららーん、お披露目です」

「何を言っている?」

「すいません……」


狩南さんの圧が強い。

駒を呼んだ時と同じく、握りしめた手を広げると、狩南の駒に加えて六面のサイコロが二つ現れる。ソーダガラスのような青く透明感のある見た目だ。


「最後の確認ですが、RTRPGの準備は良いです?」

「いや……良い」


そこはかとなく不安な返事。ともあれGoサインを出されたらやるしかないよね! 久々のKPで楽しみではあるし!


「同士を集め、彼の者の写し身となる駒、あるいは同意を示す判をもって、総員参加の意志を表す」


狩南の駒を掴み、判子のようにテーブルを叩く。すると、青く光がかった障壁が周りを囲み、叩いた場所からはA4サイズのタブレット状のガラス板が現れる。


「ついに開幕か」

「そんな気を引き締めるように挑まなくても……」

「申し訳ないが、こっちにとっては遊びではなくてね」

「そうですか……承知しました」


最近多い報酬目当ての人なのかな。まあ、スタンスは人それぞれだし、これ以上言及するのはやめた方がいいか。


ともあれ、待ちに待ったセッションだ。シナリオもなにもKPが用意しなくていいということは、裏を返せばKPもPLと同様に、手探りで進めていく必要があるということ。


「よし。じゃあ、始めます――!」

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